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異世界に転移したので、相棒のAIと謎解きを始めます~AI探偵の異世界迷推理~  作者: 土瓶蒸しの謎
第一幕

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13/63

清算したかったもの


 フォールの呼びかけで、三兄弟とヴェルガが前支配人室に集まった。


 俺とコメリアも同席している。遺言書が見つかったことは、まだ三兄弟には伝えていない。フォールは全員が揃ったのを確認すると、机の上に置かれた焼けた紙片へ目を向けた。


「さて、皆さんに集まっていただいたのは、これまでの調査で分かったことをお話しするためです。まずは、こちらの紙について確認させてください」


 フォールが紙片を示すと、ヴェルガの表情がわずかに強張った。


「ヴェルガさん。以前、この部屋で火の魔法を使ったとおっしゃっていましたね」


「……はい。お部屋が暗かったものですから、明かりとして使用いたしました」


「それは事実でしょう。ただ、火の魔法を使ったのは、明かりを灯すためだけではなかった。何か別の物を燃やす目的があった。ここまでは間違いありませんね」


「……はい」


 ヴェルガは小さく頷いた。


「では、単刀直入にお聞きします。あなたが燃やしたのは、借用書だったのではありませんか?」


 ヴェルガは驚いたように顔を上げた。その隣で、ヴィクターもフォールを見つめている。


「……どうして、それを」


「前支配人からお金を借りていたことは、すでに確認しています。そして、あなたにはその借用書を処分したい理由があった。違いますか?」


 ヴェルガはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。


「……はい。私が燃やしたのは、借用書でございます」


「ちょっと待てよ」


 ヴァーノンが口を挟んだ。


「借用書を燃やしたってことは、親父への借金をなかったことにしようとしたってことか?」


「いえ! 決して、そのようなつもりでは……!」


 ヴェルガが慌てて顔を上げた。


「お借りしたお金は、きちんとお返しするつもりでおります。それだけは、どうか信じてくださいませ」


「ええ。私も、あなたが返済を免れようとしたとは考えていません」


 フォールはそう答えると、コメリアへ視線を向けた。


「メリア。先ほど話していたことを、ヴェルガさんに聞いてみてくれるか?」


「うん、分かった」


 コメリアは頷くと、ヴェルガへ向き直った。


「ヴェルガさん。少し聞いてもいいですか?」


「……はい、コメリアさん」


「お金を借りたことを、なかったことにしたかったわけじゃないんですよね?」


「はい……」


「だったら、借用書を持っているのが嫌だったんじゃなくて……その借用書が残っていること自体が、つらかったんじゃありませんか?」


 ヴェルガが顔を上げた。


 コメリアは言葉を選びながら続ける。


「借りたお金は返せば済むかもしれません。でも、借用書を見るたびに、思い出したくないことまで思い出してしまうとしたら……」


「……コメリアさん」


「ごめんなさい。無理に聞き出すつもりはないんです。ただ、もしそうだったのなら、借用書を燃やしたかった気持ちも、少しは分かる気がして」


 ヴェルガはしばらくコメリアを見つめていたが、やがて静かに頷いた。


「……はい。そのとおりでございます」


 その声は、先ほどよりもずっと小さかった。


「お借りしたお金を返すことに、異存はございません。ただ……あの男とのつながりを表すものを、どうしても残しておきたくなかったのでございます」


 コメリアはそれ以上、理由を尋ねなかった。


「……そうだったんですね」


 ヴェルガは小さく頭を下げた。その肩がかすかに震え、押し殺した嗚咽が漏れた。


 しばらくの間、誰も口を開かなかった。


 やがてバイロンが、ヴェルガへ声をかけた。


「ヴェルガ、顔を上げてください。私たちは、あなたに返済を迫るつもりなどありませんよ」


「そうそう。前にも言ったけど、僕だって返してほしいなんて思ってないし」


 ヴィクターも続ける。


 ヴァーノンはしばらく黙っていたが、やがて大きく息を吐いた。


「……ったく。そんなもん、最初から俺たちに言やよかっただろうが」


「ヴァーノン様……」


「親父が何を言ってたか知らねえが、今さら俺たちが取り立てると思ってたのかよ」


 口調は相変わらず乱暴だったが、怒っているわけではなさそうだった。


 ヴェルガは何か言おうとして、結局、小さく頭を下げた。


 その様子を見届けてから、フォールはヴィクターへ視線を移した。


「さて、ヴィクターさん。もう一つ確認したいことがあります」


「僕?」


「あなたは以前、お父様に貸していた本を取りに行くため、ヴェルガさんと一緒にこの部屋へ入ったと話していましたね」


「うん。そうだよ」


「その際、ヴェルガさんが借用書を処分したがっていることは、知っていたのではありませんか?」


 ヴィクターは少しだけ目を伏せたあと、苦笑した。


「……やっぱり、そこまで分かっちゃうか」


「では、ヴェルガさんがこの部屋へ入る機会を作ったのですね?」


「まあね。でも、燃やせって言ったわけじゃないよ。そこは勘違いしないでほしいな」


 ヴィクターはそう言って、ヴェルガへ目を向けた。


「……余計なお世話だった?」


「いいえ、ヴィクター様。そのようなことは……」


「なら、よかった」


 ヴィクターはいつもの調子で笑った。


 それを見たヴェルガも、ほんの少しだけ表情を緩める。


 俺は二人のやり取りを眺めながら、これまで聞いてきた話を思い返していた。


 ヴィクターは最初から、ヴェルガが何かを隠していることを知っていた。でも、それを自分から話そうとはしなかった。


 今なら、その理由も何となく分かる気がする。


「チャミー。これで燃えた紙の件は解決ってことでいいのかな?」


「少なくとも、ヴェルガさんが借用書を焼却したことは、ご本人の証言によって確認されました。また、遺言書は別に発見されていますので、焼却された紙を遺言書と考える必要はありません」


「だよな」


「ただし、借用書を燃やしたからといって、借金そのものがなくなるわけではありません」


「……そこは今回の件とは別の話かも知れないけど……結局つながっても来るんじゃないの?」


「はい。前支配人の貸付金も、相続財産の一つですから」


「ああ、そうか。借金も三兄弟に引き継がれるわけか」


「正確には、返済を受ける権利ですね」


「……ああ、そっちか」


 俺がスマートフォンから顔を上げると、コメリアが呆れたような顔でこちらを見ていた。


「……今度は何を話してたの?」


「いや、燃えた紙の件はこれで一応解決かなって」


「それ、普通にこっちに言えばいいじゃない」


「……確かに」


 思わず頷くと、コメリアは小さくため息をついた。


 フォールはそんな俺たちを見て笑っていたが、やがて机の上の紙片を脇へ寄せた。


「さて。これで焼けた紙については説明がつきました」


 その言葉に、全員の視線がフォールへ集まる。


「ですが、我々が調べていたのは、そもそも遺言書がどこへ消えたのか、という問題でしたね」


 部屋の空気が少し変わった。


「実は、その遺言書についても、新たに分かったことがあります」


「……どういうことですか?」


 バイロンが尋ねる。


 フォールは三兄弟を順に見回した。


「それは、遺言書は紛失したのではなく、誰かによって隠されたのではないか、ということです」


「……は?」


 ヴァーノンが眉をひそめた。


「どういう意味だよ、それ。何か違うのか?」


「ええ。遺言書は部屋を片づけているうちに紛失したのではなく、誰かが意図を持って隠したということです」


 その瞬間、三兄弟の表情が変わった。


 そしてフォールは、ゆっくりと言葉を続けた。


「では、なぜ遺言書は本来の場所から消え、別の場所に隠されたのか。ここからは、そのお話をしましょう」

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