3・虫のいい話⑤
「花畑のど真ん中で、なーにイチャついてんだよ。プロポーズかっての」
優兎とベリィが絆を確かめ合っている最中、ちゃちゃを入れつつアッシュが登場。一人でずっと虫取りに没頭していたらしく、重たそうに二つのケージをぶら下げている。
「花を雑草としか見ない奴にはおよそ理解できない事だよ」優兎がベリィを開放するのを尻目に、ジールは溜息。
「おいおい、何だよその言いぐさは。日が出てりゃあ、ふかふかのベッドくらいには見られるっつーの」
「流石」 ジールはさくっと褒めて切り上げた。「姿が見えないと思ったら、奥の方まで行ってたんだね。すごい収穫じゃん」
アッシュが得意げに掲げたケージを覗き込むと、五センチ以上を堂々と上回る物量の虫がケージの隙間を埋めるように張り付いていた。気絶から目覚めた虫が暴れたり食い合ったりしないよう、リラックス効果のある樹液を塗っているので、格子に集まっているのだ。
「季節外れの奴もいるじゃん。群青バブルに引き寄せられたのかな」 ジールは指を突っ込んで、巨大化した角無し触角カブトの裏面を撫でる。「一匹、二匹、三匹……、羽が遮ったりしてて、数えるのが難しいな」
「十センチ以上確実の大物も捕獲したから、そこもちゃーんとカウントしてくれよ。見ろ! ドブウナギ並みにでっけえ獲物だ!」
「チヘドオオムカデか。へえ、こいつってこんなグロ可愛い顔してたんだ」
ケージを中心に盛り上がる二人。ちょっと前まで虫取りなんて無謀だと沈んでいたのだから、尚更だ。
が、その賑わいの中に優兎が混ざる事はなく。
一人でぽつんと、青ざめた顔をしていた。
「これ、依頼主はいくらぐらい払う事になるの……かな?」
ようやく発した第一声はえらく細い。アッシュとジールはチラリと視線を交わした。
「――まあ、アニキの捕った分に俺と優兎のを合わせて、だいたい四千リヲってとこかな」
「四千!?」 「おっ! やりぃっ!」
「優兎とアニキで反応が真逆なんだけど。何か気掛かりでも?」
「えっと……ほ、ほら、僕、この依頼主は小さい子供なんじゃないかって予想したよね? もし的中していたら、その子はそんなに払えるのかな……って心配しちゃってさ」
「依頼主の懐事情に配慮する必要ある? 依頼はコレクションが目的で、数の指定も特になかったんだから、小遣いでも親任せでも、ポンと払えるものだと考えてるんだけど?」
「ああ。金貸しに追い回されるほどのぶっ飛んだ額でもねえしな」
「……とはいえ、万が一手持ちが雀の涙ほどで、且つ親にも頼れない状況で期日までに支払いが難しいとなったら、その人は借金を背負う事になるだろうね」
「しゃ、借金?」出し抜けに暗いワードが飛び出てきて、びくりとする優兎。
「〈食人鬼のテーブル〉から取って来た依頼なんでしょ? ああいう日陰でこっそりやってるようなところに流れて来た依頼は、あれこれ理由付けてたんまりふんだくってくるって聞いたよ。ねえアニキ?」
「噂じゃあ最終的に〈ゼオブルグ大陸〉の鉱山に引きずられていくらしいぜ。魔法界の闇の一つ、通称〈アリ地獄〉。年の若い奴なんて、いい働きアリとしてこき使えそうだもんな。ありもしない莫大な借金を理由に、太陽とさよならサンサンの地下生活だ。そういやあ学校でも何人か、中退扱いの行方不明者が出てるとか何とか……」
「じょ、冗談キツいなあ。怖がらせないでよ、あっははは……」
誇張したふうな話をひきつった笑いで流す優兎。芯に経営者のマーガレットは信用出来る人だと思っているからだ。確かにアッシュとて、気軽に顔見せしに行っている〈食人鬼のテーブル〉は比較的温情が通るものとして見ている。しかし二人の口からスラスラ出て来た言葉の裏には、真っ赤なウソと同時にそれなりの信ぴょう性があっての事だったり。
「――ま、依頼主の金回りがどうあれ、今回捕った虫の半分はオレが貰っていくぜ。アミダラのとこに持って行く。金は多少欲しいから、お前らの分も分けてくれよ」
「へ? 何の目的で?」
アッシュから『アミダラ』という名前が唐突に出て来た途端、優兎は緊張を走らせる。が、聞いてみれば納得の事情であった。
「リブラ先生を探すんだよ。虫捕ってる最中に、そういやあアミダラが便利な技使えたなって思い出してな。別日に餌探すのもかったるいし、いいだろ?」
「何だあ! そういう事ならどうぞどうぞ!」
借金の話であわあわしていたかと思えば、この変わり身よう。虫も報酬金もごっそり減るはずなのに、『安堵』を張り付けた顔面を見せる優兎には、アッシュも内心分かりやすい奴だと呆れた。




