3・虫のいい話④
「悪くないコンビだね。もう立派にベリィは守護獣と言っていいかも」ケージにキリギリスを入れに来たジールが言った。
「守護獣か。そういえば、ずっとお目こぼしを貰ってたような状態だったっけ。何か、認められるための試験だったり、契りだったりはあるの?」
「学校で飼っていいって正式に認められるためには、専門の審査員に見てもらう必要があるね。お互いに通じ合ってるか、他人に危害を加えないか、人間の方に問題はないのか、簡単な試験をパスしなくちゃならないけど、基本的には意気投合すればオーケーだよ。優兎とベリィ、なんならキャロルだって大丈夫なはずさ」
「うーん……でも、ベリィには縛られずに、のびのびと過ごしてほしいからなあ。キャロルにはもう大事な人がいるし……」
優兎の反応は今一つだ。相棒というよりは、種族違いの友達という感覚なのである。ゼリィ種という垣根を越えるまでには至っていない。
正式に認められるだけなら、もうちょっとフラットでいいのに。気乗りしない表情から、ジールは多分考えすぎているな、と察した。通じ合っているか否かはぶっちゃけ当事者同士でしか真に分からない事であるために、「言ったもん勝ち」なところもある。だからお目こぼしが許されていたり、ワオガルフが検問を通っちゃったりするのだ。
「気持ちは分かるけど、肝心な時に離れ離れにされるよりはマシじゃない? 感情を優先してひと悶着起こすより、証明を取るだけ取って、都合のいい時に掲げてやればいいじゃん」
「それはそうかも。分かった。学校に戻ったら、先生に相談してみる」
決心した優兎はベリィの行方を捜した。赤い色した体はすぐさま目に留まり、ちょうど気絶させた虫をケージに入れて、戻って来るところだった。
ちょっと考えて、優兎は食べかけのクケットをポケットから取り出し、二片割ると、その場にしゃがんで、一仕事終えたベリィに差し出した。ベリィはポカンとした表情。左右の手のひらに乗せられたクケットにもだが、その持ち主は何やら神妙な面持ちをしていた。
「左が『ノー』、右が『イエス』」
角の端っこが欠けた『ノー』の一片と、綺麗に割れた『イエス』の一片を順番に持ち上げて、強調させる。
「ベリィ。僕の守護獣になるか、決めてほしい」
優兎は真っ直ぐベリィの目を見つめて、心に届くように問いかけた。
「守護獣っていうのは、相棒になる事なんだ。お互いに弱い部分を補い、信じあえるような強い絆で結ばれる関係……そういうものだと僕は思ってる。――でも正直言って、僕は対等というよりは、守ってあげなくちゃいけない可愛い子っていうふうに見てるんだ。君がそばにいないと、危ない目に遭っていないか、怖い思いをしていないか、どうしたって心配しちゃう。だから、今のままの関係で構わないなら『ノー』を、もう少し信じてほしいと願うなら、『イエス』の方を受け取ってほしい」
もう一度左右のクケットを意識させた後、じっと相手の出方を窺う。ベリィはすぐに食べ物にありつこうとはしなかった。委ねられていると理解した上で、左右どちらを選ぶか迷っているようだった。
迷う、という事は、ひょっとするとそんなに小難しい意図はなく、ただただ一緒にいたいだけなのかもしれない……。固唾をのんで見守っていると、ベリィが動き出した。果たして、その進みゆく先は――
(『ノー』か……)
優兎は肩の力を抜き、穏やかな笑みを零した。だがそのまま頬張ると思いきや、なんと、クケットを手にしたまま『イエス』の方向にも動き出したのである!
それほど腹がすいていたのかと一瞬よぎったところで、優兎はハッとした。違う、自分は意味を履き違えている!
『今のままの関係で構わない』
でも、『もう少し信じてほしい』
「ああっ、ベリィ! 君の気持ち、しっかり受け取ったよ!」
二片を持ってこちらにやって来るベリィを、優兎はひしと胸に抱いた。守らなくてはならないと思っていたのはベリィも同じだった。ベリィから見た優兎はうんと大きい生き物だけれど、魔物化も凶暴でもない虫には腰が引けてしまうし、幽霊が出そうな暗がりにもビクビクする。ふとした時、何かに囚われているかのように、ぼうっと虚空を眺めている事もある。そのような弱い部分があるのは傍目からも明らかであるのに、優兎自身が「一方的に」助けなければならないと思っていて、監視下に置かないと気が済まない質なのが、ベリィにとってはやや気がかりであった。
心配性から少しでも解放されるといい。そんなふうな言語化出来ない思いが届くようにと、ベリィは抱き返す。――温かい。ひんやりとした肌触りの中心からポカポカと温もりが伝わって来た優兎は、こちらから抱きしめているという意識から、ふんわりと身を預けているような心地になっていった。




