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第2話 「今だけは泣いてもいいよ」 その2

舞と美雨は一年三組の教室を出た。

廊下には幸いにもゾンビの姿はない。

舞が美雨に話しかける。

「隣の教室の中はゾンビだらけだ。気づかれないように静かに行くぞ」

美雨は頷く。

二人は出来る限り音を立てないように隣の一年四組の教室に差し掛かる。

窓から自分たちの姿が見えないように、姿勢を低くし、足音を立てないように歩いていく。

中では複数のうめき声が聞こえる。

それとは別に何か変な音が聞こていた。

美雨はつい、その音に耳を傾けてしまう。

「……何の音だろう?」

まるで何かを食べているような音だった。

「美雨」

突然舞が、小さくも鋭い声を発する。

「は、はい」

「今は音を気にしている時ではない。早く離れよう」

「すいません」

舞は美雨の手を引いて出来る限り足早に教室を離れる。

彼女には音の正体が分かっていたからだ。

美雨が聞いた音は、ゾンビ達が感染していなかった生徒達を貪る音だった。


下に降りる階段まで来て、舞はその前の角で止まる。

「ストップ。そこで動かないで」

美雨は口を噤んで頷いた。

舞はそれを確認してから、ゆっくりと角から左目だけを出す。

彼女の赤い瞳が複数のゾンビを捉える。

(撃つか? いやそれでは音で周りからも現れる。ならば、接近戦しかないな)

階段前にいるゾンビは四体。

舞にとっては余裕な数だ。

考えているとスマホが振動する。

相手を確認してから小声で電話に出た。

「ヒョウ、どうした? 私達は今は三階の階段前だ。敵が四人いる。

今こっちに向かっているのか? じゃあ援護してくれ。

ヒョウの攻撃に合わせてこちらからも仕掛ける。くれぐれも音を立てるなよ」

舞はスマホをしまう。

「美雨。ここに居てくれ。私は仲間と共に階段のところにいる敵を排除する」

「分かりました」

美雨はその場でしゃがみこんだ。

舞がゾンビの動きを観察していると、階段からこちらに上がってくる足音が聞こえてくる。

ダッダッと走って駆け上がってくるようだ。

舞は耳だけで、それが仲間の足音だと確信した。


二階に上がるまで気配を隠していた彼女は、三階のゾンビ達を見つけて一気に駆け上がる。

足首まで隠す茶色のショートブーツを履いた足で階段を踏み切り飛び上がった。

その勢いを右の拳に乗せて、一番近くにいた男子生徒のゾンビを殴りつける。

ショートブーツの少女の拳が、ゾンビの左頬にめり込んだ。

数本の歯がが砕け飛び口の中を傷つける。

殴られたゾンビは、そのまま壁に頭をぶつけ、ズルズルと床に倒れた。

他の三体のゾンビがショートブーツの少女に殺到する。

角から見ていた舞は一体のゾンビの女子生徒に背後から近づく。

そして頭を両手でつかんで、思いっきり捻り、首の骨を破壊した。

もう一人の女子生徒ゾンビが舞に狙いをつける。

舞はカウンターの左アッパーを顎に直撃させた。

頭が上がり背中が反った状態のゾンビに、左足の上段回し蹴りが相手の右こめかみに炸裂。

そのまま吹き飛んで、階段を転げ落ちた。

四体目のゾンビを、馬乗りになって殴り殺したショートブーツの少女が、舞に声をかける。

「相変わらず女の子にモテモテね。舞」

「ふざけてる場合じゃないぞ。ヒョウ」

「それは失礼。よっと」

ヒョウと呼ばれた少女は立ち上がり、両手をプラプラと振りながら舞の方に歩いてくる。

「手は大丈夫なのか?」

「ん? 大丈夫大丈夫。簡単に壊れるほどアタシの手はヤワじゃないよ」

それを聞いて舞は口元に笑みを浮かべる。

「それもそうか。助かったよヒョウ」

「お安いご用で」

ヒョウは礼儀正しく頭を下げてお辞儀をした。

「ところで、そこの角からこっちを見てるのが、警護対象?」

ヒョウに言われて振り向くと、美雨が角からこちらを見ていた。

美雨はヒョウと目が合うと「ひゃっ」と言いながらすぐに引っ込んでしまった。

「ありゃりゃ?」

「ヒョウ。美雨は恥ずかしがり屋なんだ」

「そうなの? じゃあ嫌われないように気をつけないとね」

ヒョウはツカツカと歩いて美雨が潜む角に近づく。

「おい。ヒョウ!」

「大丈夫。私に任せて任せて」

ヒョウは角を覗いて美雨に、ニコッと笑顔を見せる。

「こんにちは!」

美雨は人見知りが発動して、なかなか口がうまく動かない。

「え、えと……こ、こんにちは」

ヒョウは気にせずに美雨に話しかける。

「こんにちは。アタシは革島(かわしま)ヒョウ。三年生であなたの先輩。あなたが朝顔美雨?」

革島ヒョウは茶色の瞳を持ち、茶色く染めた髪をポニーテールにしている。

美雨よりも身長は高い。

胸元のボタンをわざと外していて、そこから豊満な胸元が覗いていた。

舞とは違い、全身から色気が滲み出ている。

美雨の苦手なタイプだった。

「は、はい。朝顔、美雨です」

「ミウって呼んでもいいかな?」

「は、はい」

ヒョウはにっこりと微笑んで、右手を差し出す。

「よろしくミウ」

「よ、よろしくお願いします。革島先輩」

美雨はヒョウの手を掴んで二人は握手をする。

ヒョウは微笑んだまま、ミウの腕を振り続ける。

「あ、あの、ヒョウ先輩。そろそろ離してもらえると……」

美雨は恥ずかしくて言い切れない。

「う〜ん?」

「ですから、あのそろそろ手を離してもらえま……せんか?」

語尾が小さくなってしまう。

「なんて言ったのミウ。聞こえないよ」

相変わらずヒョウは笑顔のままだ。

「ヒョウ。ふざけるのもそこまでだ」

舞が二人の間に割り込んで繋いでいた手を離す。

「美雨が困っている」

「ゴメンゴメン。悪気はなかったんだよ。そんな怖い顔しないでよ舞。ミウもゴメンね

それとアタシには先輩って、つけなくて大丈夫だからね」

ヒョウは手を振りながら、美雨から離れる

「い、いえ」

美雨は無意識に握手していた右手をさすっていた。

「ヒョウ。早く脱出するぞ。二人は車を確保できているのか?」

「うん? それならもう脱出用の車のところに向かってるはずだよ……」

その時、下から微かに銃声が聞こえてくる。

「まだみたいだな」

「その様だね。どうする舞?」

「このままここにいてもしょうがない。一階に行ってみよう。ヒョウ、前衛を頼む」

「了〜解」

舞は美雨の元に行き左手を差し出す。

「美雨。ここから移動する。私の手を掴んで」

「は、はい」

美雨は舞の手をしっかりと握る。

「あらあら、本当、女の子にモテるよね。舞は」

「ヒョウ茶化すな」

「ゴメンゴメン。じゃあ先導する……舞!」

ヒョウは腰の後ろのホルスターからグロック19を引き抜きざまに撃った。

銃弾は、舞を襲おうとしたスーツ姿の男性教師の頭を撃ち抜く。

銃声を聞きつけて、教室のドアが内側から一斉に破られた。

舞は美雨の手を引っ張って走り出す。

「美雨走るぞ!」

舞は走りながら持っている銃を発砲。

走ってくるゾンビを撃ち倒しながら、階段を降りる。

「ヒョウ先行しろ!」

「分かってるってば」

ヒョウは全速力で階段を降りる。

彼女の視界に階段を塞ぐ様に一体のゾンビが立ち塞がっていた。

「どきなさいよ!」

ヒョウは両膝を合わせて階段の一番上から飛び降りた。

そのまま立ち塞がるゾンビの額に両膝が直撃。

衝撃で額の骨が砕けて脳が潰れる。

両膝の突撃を食らったゾンビは倒れ、後頭部を床にぶつけて動かなくなった。

ヒョウは着地すると同時に、近くにいるゾンビに弾丸をお見舞いしていく。

右側から上下青のジャージを着て、太った男性教師が迫ってきた。

「ウガアアアアア」

「あれ? 体育の得川じゃん」

体育教師の得川は生徒、特に女子生徒から嫌われていた。

理由は簡単。いつも女子をいやらしい目で見ていたからだ。

特にヒョウに対しては、隠そうともせずにいつも邪な視線を注いでいた。

そんな得川が生きる屍と化してヒョウに襲いかかる。

ヒョウは得川に向けてグロックの引き金を引いた。

弾は全弾胴体に当たるが、相手は止まらない。

先に銃の弾丸が切れてしまう。

「ちっ。セミオートの九ミリじゃ威力不足か!」

ヒョウはマグチェンジをせず得川に向かって走る。

口からヨダレを垂らしながら、徳川が両手でつかみかかってきた。

ヒョウはそれを軽々と避ける。

「アンタみたいなデブが、アタシの事を捕まえられると思ってるのか!」

ヒョウは胸部を狙って前蹴りを繰り出す。

得川はよろけて壁にぶつかるが、全く痛みを感じずに再びヒョウに向かってくる。

「ニク、ニク、ニク!」

ヒョウは得川の手を避けて左の下段蹴りを繰り出す。

その一撃で、得川の右膝を破壊した。

間髪入れずに右の下段蹴りで左膝も破壊。

両膝を破壊された得川は動きを止める。

ヒョウはスカートが翻り、黒の下着が見えるのも構わずに、トドメの後ろ回し蹴り。

その動きはまるでネコ科の動物の様にしなやかだった。

ショートブーツの踵が首の骨をバキバキと砕く。

「冥土の土産にイイもの、見れたでしょ?」

得川は首がくの字に折れたまま、床に倒れた。

「ニク……ニク……」

「はいはい。今鉛玉をプレゼントしますよー」

ヒョウは弾切れのグロックをリロードして、まだ動き出そうとする得川の頭に狙いをつける。

「サヨナラ先生」

微笑みながら、二発の弾丸を口の中に叩き込んだ。

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