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第2話 「今だけは泣いてもいいよ」 その3

舞はヒョウが戦っている間、階段の踊り場で援護していた。

ヒョウの動きに見惚れていた美雨が呟く。

「す、すごい」

ヒョウの動きは軽やかで無駄がなく、周りのゾンビ達を次々と翻弄していた。

体育教師の得川を倒した後も、次から次へと溢れるゾンビ達をあしらっていく。

舞はグロック19を両手で構えて、彼女に近づくゾンビを退けていく。

すると美雨が上を指差して声を上げる。

「紅狼さん。階段から!」

美雨の指差す方を見ると、三階からゾンビ達が転げ落ちてくるところだった。

美雨のそばまで、数体のゾンビが階段を転がり落ちてくる。

「ウウウゥ、ウウウゥゥゥゥ」

体の痛みを訴える様に呻きながら、美雨の足元まで近づいてきた。

「嫌! 来ないで!」

「美雨。退くんだ!」

舞は美雨と立ち位置を変えて、這いずるゾンビ達の頭を撃った。

踊り場の敵を片付けてから、階段の上にいるゾンビ達を撃っていく。

「ヒョウ! そっちはどうだ?」

「もう少し!」

ヒョウは答えながら、一体のゾンビの頭を踏み潰す。

彼女周りには二度目の死を迎えた死体達が折り重なっていた。

「舞。ミウ。今のうちだよ!」

舞は美雨の手を引っ張って階段を降りる。

「分かった。美雨こっちだ」

「はい!」

舞達の後ろからゾンビ達が追いかけてくる。

ヒョウは上から降りてこようとする集団に狙いをつけて撃ちまくった。

「舞。援護するよ」

「ヒョウ! 一階に降りるぞ」

「了解」

ヒョウは手すりを乗り越えて二人を追い抜き、先に一階に到達する。

「ここにゾンビはいないわ」

舞も美雨の手を引きながら一階へ降りた。

階段を降りると一階の正面玄関から争う音と銃声が聞こえてきた。

それを聞いてヒョウが舞に話しかける。

「翼達かな?」

「恐らく。玄関に急げ。二人を援護するんだ」

美雨は舞に手を引かれて正面玄関の光景を目撃して驚く。

「わっ……!」

そこでは、男子生徒二人が数十人のゾンビを相手に大立ち回りをしていた。

一人は学ランを着崩した金髪で、もう一人はきっちりと学ランを着た坊主頭の男子生徒だ。

「翼! 熊気! 援護する!」

「おっ、舞達が来た。熊気、さっさとここを綺麗にしちまおうぜ!」

熊気と呼ばれた男子は無言で頷く。

翼と熊気は背中合わせで死角をなくして、群がるゾンビ達を一掃していく。

先に翼のグロック19が弾切れになる。

「ワラワラと、数が多いんだよ!」

空マガジンを捨てながら、一体のゾンビに鋭い蹴りをお見舞いした。

吹き飛んだゾンビに何体か巻き込まれて倒れる。

翼はその隙に素早くリロードして、倒れているゾンビ達の頭部を撃ち抜いた。

熊気に向かってゾンビが駆け寄る。

名前の通り熊のような立派な体格を持つ彼は銃を左手に持ちかえて右拳を握りしめる。

その拳を真っ直ぐ突き出し、顔面に直撃させた。

拳を食らったゾンビは顔が潰れて一回転してから床に倒れる。

もう一体のゾンビが両手を伸ばしてきたので、熊気はその左手を自分の右手で掴んだ。

そして相手の脇に左肘を入れて背負って投げつける。

背負い投げだ。

投げられたゾンビは床に頭部と背中を強打しそのまま動かなくなった。


舞とヒョウが援護に入り、四人で玄関と一階から降りてきていたゾンビ達を全滅させる。

周りの安全を確認して、翼と熊気がそれぞれ礼を言う

「ヒョウ。舞。助かったぜ。

爆発でパニックになった生徒達が玄関に殺到して、そこでゾンビ化したみたいでさ。大変だったよ」

「……助かりました」

舞は翼に尋ねる。

「礼はいい。脱出用の車はどうした?」

舞の質問に翼が答える。

「駐車場に停めてあるぜ。鍵もある……そっちの女の子が朝顔美雨ちゃん?」

美雨は名前を呼ばれて驚く。

「はい! 朝顔美雨です」

「俺は二年の夜梟(やきょう)(つばさ)。よろしくな」

夜梟翼は高校二年生だが、髪は金髪に染上げている。

学ランの前は開けていて、ワイジャツは着ずに英字がプリントされた黒いシャツを着ていた。

耳にはピアス。首元には十字架のネックレスをつけていて、黒のブーツを履いていた。

とても学生には見えない格好だった。

そんな彼が後ろの大男を指を指す。

「それでこいつが……」

「僕は、三年の五十嵐(いがらし)熊気(ゆうき)

五十嵐熊気は身長百八〇センチ。

坊主頭で、目は一見すると、空いてるのかわからないぐらいの細目だ。

翼と違い、彼は学ランをきっちり着こなしている。

足を守るのは茶色のエンジニアブーツだ。

「…………」

熊気は名前を名乗ってからなにも言わない。

「ごめんな美雨ちゃん。こいつ喋るの下手でね。特に可愛こちゃんの前だと」

「いえ、そんな事! それに私は可愛くなんてありません!」

「そうかい? 俺は美雨ちゃんの事、結構好みだぜ」

そう言って、美雨に対して翼は見事なウィンクを決めた。

「は、はあ」

美雨は今までこういう相手と話したことがなかったので戸惑う。

そんな彼女を助けたのはとても大きい手だった。

「彼女が困ってる」

熊気が翼の肩に手を置いて諌める。

「おっと、ごめんな」

翼が素直に謝る。

「い、いえ。大丈夫です」

その時、ヒョウが会話に入ってきた。

「熊気、翼。自己紹介してるところ悪いんだけど、そろそろここから脱出しない?」

見ると階段から新たなゾンビ達が転がり落ちてきていた。

「おっとそうだったな。悪い」

「すいません」

舞が銃をゾンビ達に向けながら声を出す。

「早く乗り込もう。車に案内して」

熊気が頷いて先頭を進む。

「こっちです」

五人は玄関を抜けて、教員用の駐車場に向かう。

玄関を抜けると翼が校舎に振り向いてこう呟いた。

「じゃあな……」

その姿を見つけた舞が咎める。

「翼。何してるんだ」

「悪い。あの車だ」

翼が指を指す。

そこには一台のSUVが停まっていた。

車種は黒のポルシェ、カイエンだ。

美雨が当然の疑問を口にする。

「あの、誰が運転するんですか?」

彼女の疑問にヒョウが答える。

「ん? ああ、ミウ心配しないで。私たちみんな運転できるから」

「えっ! そうなんですか?」

「そういう事だ美雨。熊気は運転を頼む。翼は助手席。私とヒョウは美雨と共に後部座席へ」

舞の指示に三人は頷くと、素早く席に着く。

「美雨、乗って」

「はい」

美雨も舞に手を引かれて後部座席に着いた。

「みんな乗ったな。熊気、車を出せ」

熊気は頷くと、車のエンジンを始動。

ギヤをバックに入れて駐車スペースから出ると、ギヤをドライブに入れてから、アクセルを踏み込む。

カイエンは急発進し、前方にいたゾンビ達を弾き飛ばしながら正門を目指す。

正門は閉じられたままだ。

それを見て舞が指示を出す。

「熊気。突き破れ!」

「了解」

熊気はアクセルを思いっきり踏んだ。

カイエンは加速して、門に激突。

門は耐え切れずに吹き飛んだ。

美雨達を乗せたカイエンは学校から脱出に成功する。

その時だった。

ワンワン!

「えっ?」

美雨は慌てて辺りを見回す。

それを見て舞が彼女に尋ねてきた。

「どうした美雨?」

「い、いえ紅狼さん。何でもないです」

「そうか、ならいいんだが」

美雨は確かに犬の鳴き声を聞いたような気がした。

(勝太郎。無事だといいけど)

美雨は仲の良かったあの柴犬の事を考える。

街のどこかで、飼い主を守る犬の鳴き声が響いていた。

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