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第1話 日常から非日常へ その5

銃声の大きさに驚いて、美雨は思わず目を閉じ、悲鳴をあげる。

「きゃああああ!」

忠実は躊躇いなく白井先生だったゾンビを撃ち殺すと、美雨を背中で黒板に押しつける。

美雨はかなりの勢いで黒板に背中をぶつけて口から悲鳴が漏れる。

「痛っ」

「ゴメンみうみう。ちょっとそこで我慢してて!」

忠実がグロック19を構える。

美雨もそちらを見ると、同じクラスの生徒たちが、口を大きく開いて手を伸ばしていた。

忠実はグロック19を一人の生徒に狙いをつけて引き金を引く。

放たれた二発の弾丸は、額から入り脳を破壊して後頭部から抜けていく。

脳を破壊された生徒は後頭部から倒れた。

忠実を狙う生徒だったモノ達が、一斉に襲いかかる。

「「「グゥアアアア!」」」

人間が出したとは思えない声で吠えながら、忠実に殺到する。

忠実は冷静に二発ずつ撃って、元生徒たちを撃ち殺す。

五人撃ち殺したところで、グロックがスライドを後退して止まる。

弾切れだ。

銃から空マガジンを排出する。

「くっ!」

忠実は前方から迫る女子生徒を蹴り飛ばし、距離をあけてから、左手で新しいマガジンを取り出す。

そして九ミリ弾が満杯のマガジンをグリップに装填した時だった。

右足のふくらはぎに激痛が走った。

忠実が視線を落とすと、坊主頭の男子生徒が右足を掴んで、ふくらはぎに噛み付いていた。

忠実の身体に異質なものが入り込んでくる。

「……うああああ!」

忠実は雄叫びをあげた。

そして青のハイカットスニーカーを履いた左足で、右足から離れない生徒を思いっきり踏みつける。

一度では離れず二度、三度と踏む。

四度目で頭が潰れ、右足を掴んでいた力が緩んだ。

忠実が前を見ると数人の生徒が噛み付いてくる。

彼女は銃の再装填を諦めて、素手の格闘で迎え撃った。

「たあああ!」

一人目の左こめかみに掌底打を打ち、よろけた所で胸部を蹴る。

吹き飛んだ一人目は、砕けたアバラが内臓に突き刺さっていた。

次に右手を掴もうとした女子生徒の足をはらって転倒させる。

その頭を怪我した右足で、サッカーボールのように蹴り飛ばす。

女子生徒の首は百八十度回転し顔が背中を向いていた。

三人目が後ろから迫ってきたので、左足を軸にして、回し蹴りを繰り出す。

右足の脛が三人目の首に直撃し、首の骨が砕けて吹き飛ぶ。

三人目はそのまま黒板に激突し、美雨の隣で崩れ落ちた。

「きゃああっ!」

その悲鳴を聞いて美雨の方に忠実の意識が向いてしまう。

「みうみう!」

その隙を突かれた。

金髪に染めた女子生徒が吠えながら迫る。

「ガアァァッ!」

忠実は避けるのが間に合わず、思わず右腕で防御してしまった。

四人目はその腕を掴んで噛み付く。

忠実が痛みで絶叫する。

「ああああああっ」

痛みで右手のグロックが床に落ちた。

「この……離せ、離せよ!」

忠実は髪を掴んで引き離そうとするが、顎がガッチリと加えて離れない。

その間も右前腕にズブズブと歯が食い込み、血がボタボタと垂れる。

「離れろ!」

忠実は右腕ごと頭を下に下げて、その顎に右の膝蹴りを打ち込んだ。

下から顎を砕かれて、忠実の右腕から離れる。

その時、腕の肉がえぐれて一緒に吹き飛んだ。

忠実は食い千切られた右腕を抑える。それを見た美雨が声を上げた。

「アッちゃん! 血がいっぱい……」

忠実は笑顔で応じるが、その顔は青ざめている。

「大丈夫だよ。みうみう……」

そう言って美雨を自分の身体の後ろに隠す。

「みうみうは私が……絶対守るから……」

忠実は近づいてくる生徒の姿をした化け物を気丈に睨みつける。

しかし傷口からは血が一向に止まらず、ずっと流れ続けていた。

複数の生徒たちだったモノが、一斉に口を開ける。

「ハアアアアアアアアア……」

「アアアア……ニク、ニク。クアアアア」

その時だった。

教室の後ろ側のスライドドアが吹き飛ぶ。

誰かが足で蹴り開けたのだ。

ドアに巻き込まれて、生徒が何人か巻き込まれる。

その開いた所から一人の女性が姿勢を低くして入ってきた。

燃えるような赤い髪がたなびく。

焔の髪の女性は素早く持っているグロック19を次々と撃つ。

一瞬にしてマガジンの十五発を撃ち尽くした。

焔の髪の女性はリロードせずに銃をくるりと回転させた。

そしてハンマーのように持ったそれで、接近戦を仕掛ける。

近くにいた一人の頭を殴打し、バランスを崩した所で、頭を掴んで窓に投げつけた。

投げられた元生徒は、窓ガラスを割り、そのまま頭から落ちていった。

次に掴みかかってきた女子生徒を避けて、その後ろにいた男子生徒に迫る。

掴まれないように手を払いながら、銃のグリップで頭を何度も叩く。

血だらけになった頭を掴んで壁に叩きつける。

後頭部から血と脳漿が飛び散った。

彼女は振り向かずに、後ろから近づいていた女子生徒の首にまっすぐ蹴りを突き出す。

ズドンと黒のレースアップブーツの固い踵が喉を潰した。

さらに数人の化物になった生徒が迫る。

焔の髪の女性は右手に血まみれの銃を持ったまま、冷静にその動きと数を観察する。

「…………あと五人か」

「……舞!」

舞と呼ばれた少女が、生徒たちを迎え撃とうとした時、忠実が叫んだ。

彼女は持っていた銃を舞に投げると、力つきるように倒れこむ。

「アッちゃん!」

崩れ落ちた忠実を美雨が支えていた。

それを横目で見ながら、舞は右手でグロックをキャッチする。

一人の生徒が噛み付いてきた。

舞は左手に持っている血まみれの銃のグリップを突き出す。

それに噛み付き、歯が食い込んだ。

歯がグリップに食い込んで取れない生徒はそのままにする。

右手の親指でスライドストップを解除し、薬室に初弾を装填して構える。

狙うは四人。

まず一人目の頭に二発を撃ち込んで後退する。

そうして掴まれるのを防ぎながら、二人目に狙いをつける。

二人目の両膝を撃ち抜き、膝をつかせてから、額を撃った。

突っ込んでくる小太りの三人目を避けて、その背中を蹴る。

蹴られた生徒は、机をひっくり返しながら床を転がる。

舞はトドメを刺す前に、四人目の方を向いた。

丁度こっちに口を広げて迫ってきていたので距離が近い。

舞は両肘を曲げて、銃を自分の身体に近づける。

そしてあまり狙いをつけずに素早く引き金を二度引いた。

胸部を撃ち抜かれ動きが止まる。

舞は二歩後退して、腕をまっすぐ伸ばし、大きく開いた口に二発撃ち込んだ。

さっき転がった小太りの男子生徒が起き上がる。

「グアアアッ!」

舞は右腕を掴まれたので、グロック19を左手に持ち替えて、相手の左手を撃つ。

次に右腕で掴まれそうになったので、その掌を撃った。

小太りの生徒は、自分の穴の開いた両腕から血を流したまま、体当たりしてくる。

舞はそれを避けると同時に足を掛けて転倒させた。

うつぶせに倒れた小太りの生徒の後頭部に、トドメの二発を撃ち込む。

排莢された空薬莢が、床に落ちて乾いた音を立てた。

最後の一人は、口からグリップを離そうと、まだ手で引っ張っている。

舞は冷静にその一人の頭を撃ち抜いた。

死体だらけになった教室に、血と硝煙の匂いが漂っていた。


舞は再び動き出すモノがいないか警戒しながら、忠実と美雨に近づく。

美雨は彼女の姿に目が離せない。

舞はスラリとしていて、焔のような赤い髪と同じ色の瞳を持っていた。

美雨と同じ制服を着ていてスカートの丈は短く、その下に黒のスパッツを履いている。

舞が近づいてしゃがみ、忠実に声をかける。

「大丈夫……ではなさそうだな」

忠実は舞の声に気づいて頭を上げる。

その顔はかなり青ざめていた。

「舞……助かったよ」

忠実は笑顔を作るが、その顔はとても苦しそうだった。

右手と右足が細かく震えている。

「彼女の事は……守ったけど、こんな有様です」

舞は忠実の傷口を見る。

傷口からは未だに血が流れ、そこを中心に血管がボコボコと浮き上がっていた。

「抗体は打たなかったのか?」

「打ったんですけど、噛まれたら駄目みたいですね……ゴホッゴホッ」

忠実の咳が止まらなくなる。

「ゴホッ。お願いです……ゲホゲホ。化物になる前に、殺してください」

それを聞いて身体を支えていた美雨が声を上げる。

「何言ってるの! アッちゃん!」

美雨は涙を流しながら舞の方を見た。

「お願いです。アッちゃんを助けてあげてください!」

舞は赤い瞳でまっすぐ美雨を見つめる。

見つめられて美雨の心臓がドクンドクンと早鐘を打つ。

美雨はもう一度、懇願する。

「お願い……アッちゃんを助けて」

舞は瞼を閉じて首を横に振った。

「そんな……何で? 何で助けてくれないんですか!」

血の海の教室で美雨の声が響く。

泣き出してしまった美雨の頭を忠実がポンポンと叩いた。

「みうみう……もう私は助からないんだ。ゴホゴホ、ゴホゴホ」

「アッちゃん!」

「このまま死んだら私は化物に、ゾンビになっちゃう。そんな姿見せたくないよ……だから」

忠実は舞の方を見た。

「……だから舞。私を撃ってください。化け物になる前に……早く! ゴホゲホゲホゲホ」

忠実はそのままずっと咳き込んでしまう。

舞は立ち上がり、グロック19を忠実に突きつけた。

それを見た美雨が両手を広げて、銃口の前に立ち塞がる。

「駄目!」

舞は冷静に窘める。

「退きなさい」

「退きません!」

美雨は、額にゴツンと銃口をぶつけた。

「「…………」」

二人は何も言わずに睨み合う。

その時、一際激しく忠実が咳き込んだ。

「ゴボッゴボッ。ゲホゲホ。ゲボッゴボッ……ゴボッ……」

ガクンと忠実の首が下がり、そのまま動かなくなった。

美雨は彼女に駆け寄る。

「アッちゃん? アッちゃんしっかりして! アッちゃん!」

涙を流しながら、忠実の肩を掴んで揺さぶる。

舞はその間もずっと忠実の頭を狙い続けていた。

「退きなさい。彼女はもう駄目だ」

美雨は舞の声を無視して呼びかける。

「アッちゃん起きて。アッちゃん!」

不意にビクンと忠実が痙攣する。

「……アッちゃん?」

忠実が頭を上げる。

小麦色だった肌は青白く、青い瞳は白く濁って全身から血管が盛り上がっていた。

親友の変わり果てた姿に、美雨の声が震える。

「ア、アッちゃん?」

ゾンビと化した忠実が、美雨を突き飛ばす。

「きゃあ」

忠実は口を大きく開いて、舞を狙って噛み付こうとする。

「ハアアア。ニク、ニク。ニクニクニク。ガアアアア」

欲望丸出しで迫るその姿に生前の忠実の面影はなかった。

「戌鎧忠実1等陸尉。君の事は忘れない」

舞はその歯が迫る前に、引き金を引く。

発射された九ミリ弾が眉間を貫いて後頭部から抜けた。

忠実だったモノは吹き飛び、後ろにあった黒板に後頭部がぶつかる。

緑の黒板が、彼女の血と肉片で赤く染まるのであった。

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