第1話 日常から非日常へ その4
バンバンと、連続で大きな音がして校舎の各階にある全ての消火器が一斉に破裂した。
爆風であたりの窓ガラスが粉々に吹き飛ぶ。
飛んできたガラス片で、廊下の近くにいた生徒が怪我をする。
そして消火器の中に潜んでいた、目に見えないウイルスが近くにいる人々に襲いかかった。
「「「きゃああああ!」」」
一年三組の生徒達や白井先生は、何が起きたのか分からずパニックに陥る。
その中で一人だけ冷静な生徒がいた。
美雨の後ろにいた忠実だ。
「みうみう伏せて!」
「えっ? きゃあっ!」
忠実は悲鳴を上げる美雨に覆いかぶさり、床に伏せさせる。
床に伏せた彼女を、忠実は自分の身体を盾のようにして守りながら辺りを見回す。
パニックになって叫ぶ生徒達を、白井先生が自分の動揺を隠して宥めていた。
「みんな落ち着いて。騒がないで。今様子を見てきますから……」
「ゲホゴホ」
「ゲホッゲホッ」
急に生徒達が咳き込み苦しみだす。
美雨は忠実に守られながら、その光景に目が離せなくなっていた。
「な、何が起きてるの?」
そう呟く間にも、生徒達は次々と咳き込み頭を押さえて苦しんでいる。
ドサッと音がした方を見ると白井先生が倒れ込み同じように咳き込んでいた。
「ゴホッ……ゴホゴホッ」
白井先生は苦悶の表情で、頭を抑えて助けを求めるように美雨に手を伸ばす。
「誰か……たす、けて……」
美雨はその手をつかもうとした。
しかしそれより早く白井先生は力尽き、パタリと伸ばしていた手が床に落ちる。
「先生! 先生しっかりしてください!」
美雨は伏せたまま、白井先生を呼ぶが、彼女はビクビクと痙攣したまま動かない。
先ほど咳き込んでいた生徒達も、同じように机に突っ伏したり床に倒れて、動かない。
美雨を含めた数人の生徒以外は全員死んでいた。
美雨の上にいた忠実が声をかけてくる。
「みうみう無事?」
「…………」
美雨は今起きたことが衝撃すぎて何も答えられない。
忠実は無理やり、美雨と自分の目を合わせた。
「こっち向いて!」
「ア、アッちゃん……みんなが」
美雨の目から涙がポロポロとこぼれる。
「一体何が、みんな死んじゃったの?」
「詳しい話は後! 今はここから脱出するよ」
そう言うと忠実はスマホを操作してメッセージを送った。
「何してるの?」
「私の味方に助けを求めたの。すぐこっちに来てくれるから安心して、ねっ」
忠実は美雨にウインクすると、机にかけてある鞄に手を入れる。
取り出したのはピストルだった。
美雨は忠実の手に握られたものを見て驚く。
「ア、アッちゃん。何それ?」
忠実はスライドを引いて薬室に初弾を装填しながら答える。
「これ? グロック19だよ。さあ立って、ここから離れるよ」
忠実は美雨を片手で立たせる。
「名前を聞いたんじゃなくて! 何で銃なんか持ってるのって……」
無事だった男子生徒の一人が美雨の言葉を遮る。
「おい!」
二人は声がした方を振り向く。
見ると、パニックから立ち直った彼が同じクラスで付き合っている彼女に近づいていた。
「おいしっかりしろよ。今救急車呼ぶから」
男子生徒が救急車を呼ぼうと電話をかける。
しかし繋がらない。
一斉に救急に連絡している為、とっくに回線はパンクしていた。
「何で繋がらないんだよ……おい大丈夫か!」
スマホに悪態をついていると、女子生徒がビクリと動く。
そして頭を上げた。
「良かった。大丈夫……か?」
男子生徒は安堵するが、彼女の様子がおかしいことに気づいた。
彼女の肌は青白く、血管は不気味に浮き上がり、目は白く濁っていたのだ。
「おい。聞いてるのかよ?」
男子生徒は肩を揺さぶる。
女性生徒が彼の方を見た。
そしてまるで笑うかのように口を大きく開く。
「ニク……」
「えっ何て言ったんだ?」
男子生徒は耳を彼女の口元に近づける。
「……ニク 」
「肉?」
「ニク、ニクウゥゥゥゥゥゥ」
女子生徒だったモノは口を大きく開いて、彼の耳に思いっきり噛み付く。
「ぎゃああああっ!」
男子生徒は咄嗟に彼女を突き飛ばした。
そのせいで、右耳が千切れて彼は床に倒れた。
男子生徒は痛みで叫びながら、食われた耳元を手で抑える。
気づくと彼の周りを、いつの間にか複数の足が囲んでいた。
「「「ニク、ニク、ニク…」」」
それは先程の女子生徒と同じく、男子生徒の事を見て口を大きく開いた。
「あああっ。止めろ。止めて……」
そして彼を押さえつけ噛みつき肉を咀嚼する。
「がああああっ、痛い、痛いぃぃぃ」
突き飛ばされた彼女も、食べ物を取られまいとその輪の中に入り、自分の彼氏を貪っていた。
一部始終を見ていた美雨は吐き気で口を抑える。
忠実が彼女の手を持って、後ずさる。
「あいつらは、今食べるのに夢中になってる。逃げるなら今だ」
美雨は唯々頷くことしかできない。
「大丈夫。私は死んでもみうみうの事守るから!」
忠実の言葉に美雨は少し安心する。
「う、うん」
その時、忠実の左足を誰かが掴み、彼女の動きが一瞬止まる。
「!」
忠実の足元を掴んだ相手を見て、美雨は目を見開いた。
「せ、先生?」
それは倒れていた担任の白井先生だった。
彼女も他の生徒と同じく、目の前に立つ忠実を食べ物として見ていた。
「ウゥゥ、アアァァァァ!」
まるで獣ように叫んで這いずりながら迫る。
忠実は自分の足を掴んだ手を踏みつけると、グロック19を二連射する。
白井先生だったモノは、頭を二発の九ミリ弾で貫かれて、床に倒れるのだった。




