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第4話 ファーストキスは血の味がした その13

「革島ヒョウは死んだか……」

駐車場で罠を掛けた、ヒョウと傭兵達の死を聞いて、鷹皇兼光は顔の前で手を組む。

彼がいるのは10トントラックを改造した移動司令車の中だ。

鷹皇の他には、妨害装置とカメラの画像をチェックするオペレーターが二人。

そして運転席に傭兵が二人いた。

オペレーターの一人が鷹皇に声を掛ける。

「ボスから連絡が入っています」

ボスとは自由の翼旅団の首領。ヨシフ・ベリンスキーの事だ。

鷹皇の携帯には、何度も着信が入っていたが、全て無視し電源も切っていた。

「鷹皇さん。出ないんですか?」

鷹皇は無視。

オペレーターは付けているヘッドホンで誰かと話す。

そしておもむろに、腰のホルスターからジェリコ941ピストルを抜いた。

「……何のつもりだ?」

二人のオペレーターは貴央を左右で挟んで、銃を頭に突きつける。

「鷹皇さん。ボスは『あなたの事が信用できなくなった』との事です」

「この中で銃を撃てるのか」

コンテナの中は電子機器や妨害電波の発生装置があった。

「今、運転席の二人がこっちに向かっています。そして外で処理します」

「そうか……」

鷹皇はそう呟いた。

直後、目にも留まらぬ速さで両腕を動かして、二人の銃を掴んで奪ってから、二人の頭を同時に撃ち抜く。

コンテナの中は、飛び散った血で真っ赤に染まった。

防音が施されていたので、外の二人には聞こえていなかった。

コンテナの扉が開く。

鷹皇は奪った銃を捨てて、ショルダーホルスターから、ブローニングハイパワーを抜いて傭兵二人の頭を撃った。

四人を殺した鷹皇は傭兵から手榴弾を奪いコンテナの中に投げ込む。

数秒後、10トントラックは大爆発した。

外は朝焼けで赤く染まっていた。

鷹皇はゾンビ達を気にすることなく、歩いて目的地へ向かうのだった。


舞と美雨は、GT-Rを乗り捨て埠頭にたどり着いていた。

朝六時になれば、脱出用のヘリが来る。時間まであと一時間を切っていた。

埠頭には多数のコンテナと作業用の大型クレーンが設置されている。

船は一隻も停泊していなかった。

舞はホルスターからP320を抜いて両手で構える。

埠頭には多数のゾンビの死体があったからだ。

舞と美雨が来る前に、誰かが来てゾンビ達を全員殺していた。

「一体誰が……?」

周りの光景を見ながら、美雨が尋ねる。

「分からない」

舞は倒れている死体を見る。死因は刃物で切られたり、首を折られたりしていて、銃で殺された死体は一つもなさそうだった。

二人は何事もなくヘリポートに辿り着く。

「ここで待てば助けが来るんですね」

「うん。そうだよ」

その時だった。

「紅狼舞三等陸佐」

舞と美雨が振り向くとそこに男性がいた。

「鷹皇……兼光!」

舞は照準を鷹皇の眉間に合わせる。

「撃つのか?」

ロングコートの下にベストとシャツを着た鷹皇は、舞を真っ直ぐ睨む。

「当たり前だ。お前は部隊を裏切り、この街を地獄に変えたんだからな!」

舞は引き金に添えた人指し指に力を込める。

「奴らは音に敏感だぞ」

いきなり鷹皇はそう言った。

「何の事だ?」

「ゾンビ達は大きな音に群がる。今、銃声を鳴らせば、奴らが殺到してくるぞ。

それでも、彼女を守りきれるのか?」

「くっ」

舞は人指し指の力を緩めた。

鷹皇は美雨に視線を向ける。

「君が朝顔美雨だね」

「はい」

美雨は頷く。

「彼女に話しかけるな!」

舞が間に入って視線を遮る。

「朝顔美雨。君は知ってるのか。一体何故君は舞に守られているのか?」

鷹皇は美雨に語りかける。

「自分の秘密を、知りたくないのか」

「……知りたいです」

「美雨!」

「舞。私は自分が何故狙われて、貴女に守られるのか知りたい」

「美雨……」

「本人が知りたいと言ったんだ。紅狼舞。少し黙っていてくれ」

「…………」

舞は何も言えなくなってしまう。それでも銃口は鷹皇を狙い続ける。

「何から話すか……そうだな。我が部隊Zが設立することになったある事件から話そう……それは三十年前の事だ」

鷹皇は至美戸村で起きた出来事を話していく。

「三十年前、ある村で、人が人を襲うという事件があった。自衛隊はそこの井戸の中であるウィルスを見つけた」

「あるウィルス?」

「そうだ。それは空気中では生きられず、水の中で永い時を生きていたようだ」

「どれくらい前から生きていたんですか?」

「古い文献を調べると、何百年も前に似たような事件があったそうだ。それから井戸は封鎖されていたが、その封印は三十年前に解かれてしまった」

自衛隊は村人の全滅した跡地の地下に、ある研究施設を建造。

そこでウィルスを研究し兵器化に成功する。

「そのウィルスをS-ウィルスと名付けられた。政府はこのウィルスを秘匿しようとしたが、ある国の研究機関の手を借りた時に情報が漏れたことが分かった」

このウィルスが悪用されないように自衛隊内で、極秘の部隊が結成された。

「その部隊こそが俺が隊長を務め、紅狼舞も所属している対テロ部隊Zだ」

対テロ部隊Z。

表向きは日本に害をなすテロリストなどを密かに掃討するための部隊だが、本当の目的は違う。

それはS-ウィルスを使用されたテロの制圧を目的に結成された部隊だった。

「じゃあ、舞やみんなはゾンビの事を最初から知ってたんですね」

美雨は親友の忠実(あつみ)も舞もゾンビに対して冷静に対処していた事を思い出す。

美雨は舞の顔を見る。

「ああ、知っていた。そのための訓練もしていた」

舞は苦しそうに言葉を吐き出す。

「訓練……?」

美雨の質問に舞は答えない。

「俺が話そう」

鷹皇が口を開き、美雨はそちらを向く。

「訓練とは、ゾンビに遭遇しても冷静でいられる事。その為に我々は本物を用意した」

「本物……本物のゾンビ」

美雨の言葉を鷹皇は肯定する。

「そう、ゾンビを訓練施設内に放ち、隊員達はそれを殺す訓練をしてきた。もちろん俺も彼女もな」

鷹皇は舞を指差す。

「でも、そのゾンビ達は元々人間だった筈です」

美雨は誰もが思う当然の疑問を口に出した。

「そう。ゾンビとなった者達は、病気や事故、事件ですでに死亡した人間だと聞かされていた。お前もそう聞かされただろう紅狼舞」

「ああ。そう聞かされている」

「だが真実は違ったのだよ!」

そこで鷹皇は初めて声を荒げた。

「それを知ったのはつい一年前の事だ。その時も俺は部下と共に訓練をしていて、いつものようにゾンビ達を殺していた」

「そこで俺は動く死者達の中にある人物を見つけた……いてはいけないはずの人がな」

「……いったい誰が?」

美雨は聞き返す。

「俺の娘だ」

「「!」」

舞と美雨は驚く。

特に舞は衝撃が大きかった。

「そんな馬鹿な。嘘をつくな!」

舞は大声を出して叫ぶ。

「嘘ではない!」

だが、鷹皇のそれ以上の怒号に舞は何も言えなくなってしまう。

「俺の娘は重い病を患い、長くは生きられないだろうと言われた。絶望していた俺にZの隊長として誘われたんだ」

鷹皇は思い出す。それは娘の事を聞き、悲しみに暮れて病院の椅子に座っていた時だった。

「交換条件でこう言われんだ。『隊長についてくれれば、貴方の娘さんの命を永らえることができます』とな」

その言葉は絶望を照らす希望の光だった

「俺はZの隊長についた。そして娘も元気に生きていた筈だった」

鷹皇は唇を血が出るほど噛みしめる。

「だが、訓練の相手として、ゾンビ化して出てきた時、俺は動けなかったよ。あんなに訓練して、冷静に対処できるつもりだったが、何も出来なかった」

変わり果てた娘に銃を突きつけることは、鷹皇にはできず、代わりに部下の一人が目の前で娘の頭を撃ち抜いた。

「俺はその時知った。ゾンビ達を殺した部下達の顔は笑っていたんだ。俺もこんな顔をしていると思ったら全てが馬鹿らしくなった」

そして鷹皇は調べた。娘の事を。

極秘の部隊についていた鷹皇は娘とあまり連絡も取れず、会うのも一年に数回だけだった。

そして分かったのは、娘はすでに死んだことになっていたのだ。

鷹皇には知らされず、娘はゾンビとなって蘇った。

「それを知って、俺はあの時、娘に噛み殺されるべきだと思った。しかし俺は生きている。ならばやる事は一つしかなかった」

「つまりこのテロは復讐」

「そうだ紅狼舞。俺は自由の翼旅団と密かに連絡を取り、ヒョウをこちら側に引き入れて、一週間前に計画を実行した」

計画を実行した時、鷹皇は部下を連れて訓練をしていた。そして部下の足を撃ち抜きゾンビに食べさせた。

「その時の部下達が、娘を撃った奴らだ。そして俺は抗体を打ってから、奪ったS-ウィルスを施設内にばら撒いた」

内部は今も死者達が徘徊していた。

「それで、私はその事と何が関係あるんですか?」

「もうなんとなくわかっているんじゃないか? 朝顔美雨。何故テロリストに狙われ、Zに守られ、そしてゾンビがお前を避けるのか」

「私の身体はウィルスが効かないんですね」

「正確に言えば、君の身体ではウィルスが生きていけないようにある二人が組み込んだんだ」

「それって……」

「君の両親だ。当人達は秘密にしていたようだが、二人ともS-ウィルスの研究者だった」

美雨は初耳だった。両親がそんなことに関わっているなんて。

そこではたと気づく。

「待って、待ってください! じゃあ二人は? お父さんとお母さんは今どこにいるんですか!」

「二人は、俺がウィルスをばら撒いた施設の中に今もいる」

美雨は膝から崩れ落ちる。彼女は二人が死んだ事を今初めて知った。

「鷹皇!」

舞が叫ぶ。

「話しは終わりだ。朝顔美雨。一緒に来てもらうぞ。お前の血が、ウィルスを完全なものにする。そしてこの腐った世界にばら撒く」

鷹皇はコートを脱ぎ捨て放り投げる。

その下にはピストルが収められたショルダーホルスター。

ベストとシャツは、鍛え上げられた筋肉で押し上げられていた。

「紅狼舞。どけ! 邪魔をするなら殺す」

舞は銃をホルスターにしまう。

「美雨は渡さない」

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