表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/37

最終話

午前五時半。大空を漆黒の鋼鉄で出来たミサゴが飛んでいた。

目標は爽栄市の埠頭にあるヘリポートだった。


舞と鷹皇は正対する。

舞は両手を握らずに腕を上げ、足は肩幅に開いて構える。

無駄な力入れずに、相手のどんな動きにも対応できるようにする。

ちらりと美雨を見る。彼女はショックを受けて、項垂れていた。

「お前は美雨を傷つけた。許さない!」

「知りたいと言ったのは彼女だ」

対する鷹皇は、何も構えを取らずに大股で歩いて近づいてくる。

その威圧感はどんどん大きくなり、舞は押しつぶされそうになる。

待っていても負ける。そう思った舞は自分から仕掛けた。

走って距離を詰め、大技の左の飛び後ろ回し蹴りを繰り出す。

鷹皇はそれを易々と交わす。

交わされるのは分かっていたので、舞は着地と同時に右のハイキック。

当たれば、首の骨をへし折る一撃を、鷹皇は左前腕で防ぐ。

「そんなものか?」

「まだだ!」

舞は左のジャブ二連発。それで鷹皇を牽制してから右のストレート

鷹皇はジャブを無視し、舞のストレートに合わせて反撃。

一気に舞の懐に飛び込むと、右肘と手を使って舞を崩す。

バランスを崩した舞の右腕を取り床に落とす。

「がっ」

背中から叩きつけられた。

舞は立ち上がると同時に、鷹王の頭を狙って上段蹴り。

それも鷹皇に防がれてしまう。

お互いに距離をとって仕切り直し。

二人が使う近接戦闘術はA(アンチ)Z(ゾンビ)C(クロース)Q(クオーターズ)C(コンバット)という。

これは軍でも使われるCQCを鷹皇が中心となって独自に改良したものだ。

ゾンビとの戦闘では、たとえ距離が開いていても数の差で攻め負けることが多く、銃弾も不足しがちだ。

そこで、銃撃をしながら近接戦闘でゾンビを倒す技が考え出された。

例え掴まれても、そこから脱し、逆に相手の頭に弾丸を叩き込む。

勿論ゾンビだけではなく、人間相手にも有効だ。

二人は同じ戦闘術を駆使していた。

今度は鷹王が攻める。

リーチの長い右ストレート。

舞はそれを避ける。

次に左フックが迫り、舞はそれを受け流して、距離を詰めようとするが、鷹皇は読んでいた。

迫る舞に隙の無い下段蹴り。

避けられずに膝に直撃。

膝は折れなかったが、舞の動きは止まってしまう。

そこに鷹皇の掌底打が舞の顎を捉えた。

舞の脳が揺れ、そのまま吹き飛ぶ。

「がはっ。くああっ」

「起きろ紅狼舞。それで彼女を守ろうというのか」

その一言で舞は立ち上がり構えを取る。

「その意気だ」

「うあああああっ!」

舞は吠えた。


美雨は呆然としていた。

両親の死を知り、ショックで足に力が入らない。視線はずっと床を見つめていて、何の音も入ってこなかった。

「……ぐぁっ」

そんな時、美雨の鼓膜を、誰かの声が震わせる。

「がぁっ……」

その声が誰かは美雨は知っている。

「舞!」

美雨は顔を上げた。何も聞こえなかった音が耳に飛び込む。

それは舞が鷹皇の攻撃を防御している音だった。

ことごとく自分の攻撃は防がれ、今は防戦一方になっていた。

鷹王は左右の拳で、舞を打つ。

舞は両腕を上げて盾にするが、その盾をかいくぐって、重い一撃が舞の身体に着実にダメージを与えていく。

「舞!」

その時、美雨の声が聞こえた。

「死んじゃだめー!」

美雨の叫びが 舞を冷静にさせる。

相手の攻撃をただ守るだけじゃなく、反撃をできるチャンスを探す。

鷹皇は舞の防御を崩すために、再び膝狙いの下段蹴り。

舞はそれを待っていた。

自分から相手の蹴りに合わせて下段蹴りを放つ。

競り負けたのは鷹皇の方だった。

「ぬっ」

鷹皇の膝に力が入らなくなる。

「だああああっ!」

舞は渾身の右ストレート。鷹皇の顎に直撃した。

鷹皇はぐらつく。

舞は追撃の中段回し蹴りで、鷹皇の肋骨を砕く。

鷹王が舞の心臓を狙って、拳を槍のように突いてきた。

舞はそれを避けてその左腕を掴み、肘をへし折って止めの膝蹴りを腹部に突き刺した。

内臓が破裂した鷹皇は、口から血を吐き出して崩れ落ちる。

「ごぼっ。やるな紅狼舞。お前の勝ちだ」

喋るたびに、鷹皇は血を吐く。

美雨が鷹皇に近づいてくる。

「朝顔美雨か」

「どんな理由があっても、貴方は大勢の人や私の両親を殺しました。一生許しません」

舞と美雨は自然に手を絡める。

「それでいい。俺の計画はここで終わる。だからこれをやるよ」

鷹皇は携帯を舞に手渡す。

「そこに自由の翼旅団のボス。ヨシフ・ベリンスキーの居場所が入ってる」

「何故私にこれを?」

「ごほごほっ。簡単な事だ。あいつらはウィルスを持っている。野放しにしておけばどうなるか分かるだろう」

「分かった。これは預かる。だが、お前のやった事は許されない。脱出用のヘリでお前を連行……あれは!」

舞は埠頭に入ってくる車の姿を認めた。

それは白のランドローバー・ディフェンダーが四台と、先頭を走る装輪装甲車のブッシュマスターだった。

「この場所を感づかれたか……」

鷹皇は血を吐きながら呟く。

「ヘリは……」

舞は背後を見るが、空には何も飛んでいなかった。

「舞」

「美雨。私の後ろに隠れて」

五台の車がヘリポートの前で停車する。

ランドローバーから傭兵達が降りてきた。

傭兵達のVZ58とブッシュマスターの50口径が舞達に狙いをつける。

「……何人いる?」

「何?」

鷹皇が舞の顔を見る。その目はまだ死んでいなかった。

「敵の数は何人いる」

「十六人……それと装甲車が一台」

「なら、もうひと暴れできるな」

「何を言って……」

鷹皇は、重傷を負っているとは思えない動きで振り返ると、右手でブローニングハイパワーをホルスターから引き抜く。

そして片手で、連射。

一瞬にして六人を撃ち殺すと同時にハイパワーの弾が切れた。

生き残った敵は車に身を隠し、ブッシュマスターの50口径が鷹皇に狙いをつける。

「美雨!」

舞は美雨を抱き抱えて射線から逃れる。

直後、重機関銃が発砲。

鷹皇に向かって多数の弾丸が迫る。

右腕が肩から吹き飛び、腹と胸に大穴が開いた。

鷹皇は自分の血で真っ赤に染まり、その場に大の字で倒れた。

50口径の銃口が舞達の方を向く。

舞が死を覚悟したその時だった。

海の方からターボシャフトエンジンの音が聞こえてきた。

美雨と舞は後ろを振り向く。

「あれは……?」

「援軍だ! 間に合ったんだ!」

現れたのはV-22オスプレイだ。

陸上自衛隊に配備されたこの特殊作戦用の機体は真っ黒に塗装されていた。

オスプレイは固定翼モードで、埠頭に迫る。

そのまま、機体下部からミニガンを展開。銃身が高速回転し毎分三千発という脅威の発射速度で七・六二ミリ弾を吐き出した。

生き残っていた傭兵達は、車ごと穴だらけになる。

オスプレイが頭上を通り過ぎる。

それを追って、まだ生きていたブッシュマスターの50口径が動き、オスプレイに向けて撃つ。

オスプレイはそれを回避して、再び機種を巡らせる。

ブッシュマスターが撃ち続ける中、オスプレイは固定翼のパイロンに装備したロケット弾発射ポッドからハイドラ70ロケットを六発発射。

六発中四発が直撃し爆風と熱風が装甲を破りブッシュマスターは大破した。

オスプレイは垂直離着陸モードになり、ヘリポートに降りてくる。

そのまま数メートルの高さを維持して、後部ハッチが開放。

中から揃いの戦闘服に身を包んだ兵士達が五人降りてきた。

全員、カスタムした89式小銃を持っていた。

四人は散開してしゃがみ、小銃を構える。

隊長と思しき一人が舞達に近づく。

「紅狼舞三等陸佐と朝顔美雨さんですね」

「そうだ」

「自分達は特殊作戦群の者です。貴女達を救助しに参りました」

隊長が敬礼したので舞も敬礼を返す。

そんな二人を見て美雨も思わず敬礼してしまう。

「早く乗ってください。ゾンビ達が迫っています」

他の隊員達は、大きな音に気付いて向かってくるゾンビ達を狙撃していた。

「分かった。協力感謝する。美雨。さあ行こう」

「はい!」

美雨は舞の手を取り、一緒にオスプレイに乗り込む。それを見て特殊作戦群の五人も素早く乗り込んだ。

オスプレイが飛び上がる。

美雨は窓から下を覗く。

ゾンビ達の姿はどんどん小さくなりやがて見えなくなる。

こうして、紅狼舞と朝顔美雨は地獄から脱出するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ