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第4話 ファーストキスは血の味がした その12

舞は一糸纏わぬ姿で、逃げていた。

彼女は、辺り一面血の色をした洞窟の中を一心不乱に走る。

舞は追われていた。

時々後ろを振り返る。舞を追いかけるのは闇だ。

光さえも吸収する程の闇の洪水が、舞を呑み込もうとしていた。

舞は逃げ続ける。

あれが何かは分からない。けれど捕まってはいけないのだけは分かっていた。

どれだけ走ったかは分からないが、全く息切れする事もない。

しかし闇は確実に距離を詰めていた。

舞はいきなり足を取られて転ぶ。

「あっ」

転んでから自分の足を見ると、闇の一部が触手のように伸びて舞の右足に絡み付いていた。

「離れろ!」

舞は叫びながら、足を引き抜こうとするが、闇は離れず、逆に右足と同化していく。

「ひっ!」

舞の口から思わず悲鳴が漏れる。

更に力を込めて足を引っ張るが全く動かない。

その間にも闇の洪水が迫っていた。

「嫌だ。来るな。こっちに来るな! 誰か助けて!」

舞は恥も外聞もなく叫んだ。

その時だった。

『舞さん……ううん舞。貴女になら何をされてもいい。だから一緒にいるよ』

舞の背後から暖かな光彩が溢れる。

「……今の声、それにこの光は……まさか」

その光は洞窟全体を照らし、闇は足に絡み付いていた触手共々一瞬にして消え去った。

舞は振り返り、光を見詰める。

光の中に誰かがいた。

顔は見えないが、舞にはそれが誰か一瞬にして分かった。

「……美雨」

その名を口に出した途端、舞の意識は現実に戻る。


(柔らかい。これは……)

意識が戻った時、舞が最初に感じたのは自分の唇に触れるとても柔らかい感触だった。

それが名残惜しそうに、ゆっくりと離れる。

舞は目を開ける。

目の前には綺麗な涙を流す美雨の顔があった。

「舞、さん?」

美雨は舞が目を開けた事に気づいた。

一瞬ゾンビ化したのかと思ったが、どうやら違うようだ。

浮き上がっていた血管は元に戻り、青白い肌も血色が良くなっていく。

「舞さん」

美雨はもう一度名前を呼ぶ。

「美雨」

舞の口から自分の名前が出てきた。

彼女はゾンビになっていなかった。

「舞……さん。よかった……本当によかった!」

美雨は舞に思いっきり抱きついて、彼女の胸の内で嬉しくて泣いた。

「おっと」

舞は美雨を受け止めて、その髪を優しく梳く。

「本当に、本当に無事で良かったです。舞さんがもし、もしあのまま、変わってしまったら、私、私……」

「ごめんね。でも美雨のおかげで助かった。ありがとう」

「えっ、私何も……」

胸から顔を上げた美雨の顔は赤くなっていた。

舞はその赤くなった顔に両手を添える。

そして美雨の耳に口を近づけて囁く。

「キス、してくれたでしょ?」

更に美雨の顔が一瞬にして真っ赤になる。

「しょ、しょれは……!」

美雨は恥ずかしくてうまく喋れない。

「ありがとう美雨。私の初めて奪ってくれて」

そんな美雨に舞は自分から、口づけした。

「ん……」

美雨は固まる。

けどそれも一瞬で、舞の好意を受け入れてるのだった。


どれくらいそうしていただろうか。二人の唇はゆっくりと離れる。

「……舞さん」

「美雨……出来ればなんだが、さんは付けなくても良いんじゃないかな」

「はい……舞」

「うん。美雨からはそう呼ばれる方が良い」

二人はもう一度キスをしてから、舞が起き上がる。

「怪我、大丈夫ですか?」

舞は噛まれた肩を見る。血は既に止まっていた。

「ああ、大丈夫だ。それになんだか身体が軽い。美雨のおかげだな」

「そんな、私何も……」

両手を振る美雨の姿を可愛いと思いながら、舞は自分に応急手当を施す。

「うん。身体に問題はなさそうだな」

手当を終えた舞は立ち上がり、手を握ったり開いたりしてみる。

痛みも震えもなく力も入る異常はなかった。

次に舞は辺りを探す。

見つけたのはSIGP320だ。

舞は壊れていないのを確認してから、ホルスターに戻し、落ちていたグロック18Cも拾っておく。

その時、車のエンジン音が聞こえてきた。

「隠れて!」

舞は美雨を連れて車の陰へ。直後二台のSUVが、三階で停車する。

降りてきたのは自由の翼旅団の傭兵達だった。

その数は八人。

ヒョウが呼んだ迎えだ。

「美雨。ここに隠れていて。私はあいつらを制圧する」

「うん。気をつけて、舞」

舞はグロックを両手に構えて、車で姿を隠しつつ、傭兵達の背後へまわった。

連絡してきたヒョウと捕らえた美雨の姿を探す傭兵達の背後を取った舞は、素早く一人の後頭部を狙い、発砲。

三発の弾丸が、頭を噛み砕く。

舞は更に撃って、二人を射殺。

生き残った傭兵達が振り向いた。

舞は横薙ぎにフルオートでばら撒く。

傭兵達は手足や、ボディアーマーに喰らって、動きが止まる。

舞はホールドオープンしたグロック18Cを捨て、P320を抜いて速射。

二発ずつ撃って、次々と敵を倒す。

残った三人が、車を盾にして身を隠した。

舞は持っている銃では車を貫通できないので、死体に近づき、自動小銃(アサルトライフル)、VZ58コマンドーモデルを拾う。

そして車に向けて引き金を引いた。

盛大なマズルフラッシュが輝き、ライフル弾が車に突き刺さる。

防弾加工されていても弱いところはある。

近距離から防弾ガラスを撃ち、貫通した弾丸が隠れていた二人を蜂の巣にした。

VZ58が弾切れになる。

それと同時に最後の一人が、射撃してきた。

舞はライフルを捨てて、SUVの陰に隠れながら、近づいていく。

傭兵は撃ちまくるが、弾丸は車に穴を開けるだけだった。

舞は射撃の隙をついて、接近してミドルキック。

蹴りは傭兵の右手に直撃。VZ58がどこかに飛んでいく。

舞は間髪入れずに、驚愕する傭兵の顔を狙って、P320を撃った。


「よし。舞出ておいで。もう大丈夫だ」

舞はP320をマグチェンジしながら美雨を呼ぶ。

「これからどうするんですか」

美雨に聞かれて、舞は外を見る。朝日が登ろうとしていた。

「車を奪って埠頭に行こう。それと舞……」

「何ですか?」

舞はとても言いにくそうな顔でこう言った。

「無事に街を脱出できたら、話したい事がある。とても辛い事だ。けど知っておいてほしい」

美雨はその言葉に、何も言わずに頷く。

「行こう。あの車に乗って」

舞と美雨はヒョウが乗っていた車に乗り込む。

それは赤い32GT-Rだった。

舞はエンジンを始動。RB-26が咆哮を上げ二人は駐車場を後にし、埠頭のヘリポートへ向かうのだった。

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