第4話 ファーストキスは血の味がした その4
舞はスマホを操作しながら、美雨を横目で見る。
彼女はよほど疲れているのか、また眠っていた。
舞はスマホに視線を戻す。
何十回目のメール送信を試みる。
やはり届かなかった。
スマホの時計は午後七時を表示している。
かれこれ三時間近く送信していたが、すべて失敗していた。
「駄目か……はぁ」
舞はため息をつきながら、スマホをしまう。
「……うん……」
美雨の声が聞こえて、そちらを見る。
怖い夢でも見たのだろうか。
頰に涙の跡が見える
彼女はまだ眠っていた。頭を下げているのでかけているメガネがずり落ちそうになっていた。
舞はそのメガネをそっと外す。
「あ……」
メガネを外した美雨の顔に見惚れてしまう。
舞はメガネを右手で持ったまま、左手を伸ばして彼女の右頬に触れる。
美雨の熱を感じて、舞の身体も熱くなっていく。
「美雨……」
舞が美雨を見つめていると、劇場のドアが勢いよく開かれた。
舞は頰に手を添えたまま固まってしまう。
「おい。大変だ……」
入ってきたのは健吾だった。
彼はスマホを掲げながら、舞達を見て固まる。
「……すまん。邪魔したか?」
舞は慌てて手を離す。
「な、何の用だ?」
舞は寝ている美雨を起こさないために健吾のところに向かう。
「ああ、そうだった。これを見てくれ」
健吾は持っているスマホを彼女に見せた。
そこには海の待受が表示されていた。
「この海がどうかしたのか?」
「ん? 違う違う。これだよ。これ見てくれ」
健吾が指差したのは、画面に表示されている電波表示だった。
「つい数分前から、電波が入るようになったんだ」
「本当か?」
「ああ、みんな家族に電話してるよ」
舞もスマホを取り出す。確かに電波が入っている。
「これで救助が来るかもしれないってみんな大喜びだぜ」
「ああ、そうだな」
「じゃあ俺は見回りがあるんで」
健吾がシアターを後にしたのを確認してから、舞はメールを送信する。
先程までと違い、無事に送信された。
直後、着信が入って舞は出た。
「もしもし」
『もしもし。舞、無事だったんですね』
声の主はサオリだ。
「ああ、私と美雨は無事だ。しかし他の三人とは連絡がつかないんだ。サオリの方で何か掴んでないか?」
『いいえ。こちらは何も掴んでいません。妨害電波が解除されたので、電話してみましたが誰とも繋がらないのです』
「そうか。サオリの方でも行方はわからないか」
『すいません。でも貴女と警護対象である朝顔美雨が無事でよかったです』
「今いる場所は送ったメールに書いてある。それで確認してくれ」
『はい。今確認しました。こちらからもメールを送ります』
直後、舞のスマホがメールが届いたことを知らせる。
「届いた」
『そのメールに脱出……場所と時間が……書かれて……』
「おいどうした。聞こえないぞ。サオリ!」
サオリとの通話が、突然聞き取りづらくなり、何も聞こえなくなってしまった。
どうやら、また妨害電波が発生したようだった。
舞は通話を諦めて、送られたメールを見る。
メールは妨害電波が出る直前だったので無事に届いていた。
舞はそれを開いて内容を確認する。
「明日の午前六時。埠頭のヘリポート」
舞はメールの内容を記憶して、それを完全に消去してから美雨に隣に戻る。
美雨は目を覚ましてこちらを見ていた。
「起こしてしまったかな?」
美雨は首を横に振る。彼女は何かを探していた。
「探し物はこれ?」
舞はさっき外したメガネを、持ったままだった事に気付き彼女に渡す。
美雨はそれを受け取ってかける。
「詳しいことは後で話すけど、今、連絡が入って、明日の朝、埠頭に私たちを迎えに来てくれるそうだ。
だからまだ時間はある。もう少し寝ているといい」
舞が隣に座ると美雨は顔を背けてしまう。
「美雨?」
美雨は絞り出すようにか細い声で話し出した。
「さっきは、その、ごめんなさい」
「何で謝るんだ?」
「それは、私がさっき、その、その、変なことをしてしまったから……」
「変なこと?」
美雨は首を背けているので気づかないが、舞は首をかしげていた。
「変なことは、その、舞さんに迫って私、私……」
「迫って……何をしようとしたの?」
「それはそれは、えっと……」
美雨は口ごもる。自分がしようとした事が何か分かっていて恥ずかしくて口に出せない。
「もしかして美雨がしようとしたのは、こういう事?」
だから舞が動いた。
「えっ?」
美雨が驚いて声を出すより早く、舞は手を使って彼女を振り向かせた。
至近距離に美雨の顔がある。舞の心臓が高鳴る。
彼女の視界に顔を赤くした美雨の顔が映っていた。
「……ま、舞さん?」
怯える美雨の言葉を無視して、舞は迫る。
美雨が逃げれないように、両手で逃げ道を塞ぐ。
怯える美雨の顔も、今の舞にはとても愛おしく見えていた。
美雨には迫る彼女が獲物をいたぶる赤い狼に見えていた。
「嫌!」
美雨は怖くてたまらず、美雨の頰を平手打ちしてしまう。
舞はとっさの事に反応できなかった。
彼女の左頰は赤くなっていた。
その痛みで舞は彼女から離れる。
「ごめんなさい」
美雨が謝る。
「……すまない」
舞も謝罪の言葉を述べると立ち上がり、銃を手に持つと逃げるようにシアターの入り口前で座り込む。
今美雨の近くにいれば彼女を傷つけるだけだった。
(私は最低だ)




