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第4話 ファーストキスは血の味がしたその1

翼(つばさ)と熊気(ゆうき)を殺したヒョウは、自由の翼旅団の傭兵達と共に、SUVに乗って移動していた。

ヒョウはおもむろにスマホを取り出すと、ある人物に電話をかける。

彼女のスマホは、妨害電波を無効にする装置が組み込まれていた。

電話が繋がる。

「もしもし、アタシ」

『どうした?』

相手は男性だった。

「たった今、翼と熊気の二人を排除したわ……鷹皇(たかおう)隊長」

『そうか……よくやった』

電話の相手、鷹皇(たかおう)兼光(かねみつ)は坦々とした口調で返事をする。

「あら? それだけなの。もっと褒めてくれてもいいんじゃない?」

『まだ紅狼(くろう)舞(まい)が残っている。朝顔美雨(あさがおみう)と共に今も逃走中だろう』

「大丈夫。舞も気づいてないけど、朝顔美雨には発信機を取り付けてあるの。どこにいても分かるわ」

『なるほど、手先が器用なお前らしい』

「どうする? すぐにでも追いかける? 舞達は何も知らないだろうから、手早く終わらせられるけど」

『いや、待て。こちらの戦力もだいぶ減ってしまった。一度再編成をする。

それにお前がこちら側の人間だということも伝えておかないとな。味方に撃たれたくはないだろう』

「そうね。分かったわ」

『舞達は他の者に任せる。お前は一度こっちに戻れ』

「はーい。戻ったらご褒美ちょうだいね」

『考えておく』

ヒョウはその一言で上機嫌になる。

「うふふ。ありがとう。隊長」

『切るぞ』

そう言って鷹皇が先に電話を切る。

「あらあら。せっかちなんだから」

ヒョウはスマホをしまうと後部座席の背もたれにゆったりと寄りかかる。

「ご褒美は何をもらおうかしら? ふふふ」


スーツ姿の鷹皇兼光はヒョウとの通話を終えて、電話を懐にしまう。

彼がいるのは、10トントラックのコンテナを改造した移動司令車の中で、三つある椅子に座っていた。

コンテナの中には妨害電波の発生装置。そしてPCの大容量HDDとモニターが据え付けられている。

コンテナ内は、HDDが発する熱をクーラーが相殺していて寒いぐらいだった。

モニターには、ハッキングした街の各所にある監視カメラの映像が映し出されている。

そこには鷹皇の他にオペレーターが二人ついていた。

鷹皇のスマホにメールが届いた。

開くと、ヒョウからで、朝顔美雨の位置が地図に表示されている。

鷹皇はスマホをPCに繋いで転送。

これで傭兵達の端末にも朝顔美雨の位置が表示される。

「後は紅狼舞だけか……」

そう独りごちた鷹皇兼光にとって、今回の計画の一番の障害は自分も所属し、育ててきたZの隊員達だった。

その為に彼は基地にS-ウィルスをばらまいて殲滅し、誘い出したT班も全滅させた。

その中で一人だけ、鷹皇の側についた人間がいた。

K班の革島(かわしま)ヒョウの事だ。

理由は簡単。

警護対象の朝顔美雨の動向を知る為には、一番近くにいるK班の人間をこちらに引き入れる必要があったのだ。

五人の中で、リーダーの舞と朝顔美雨の親友である犬鎧(いぬかい)忠実(あつみ)は除外。

残ったのは、夜梟(やきょう)翼(つばさ)。五十嵐(いがらし)熊気(ゆうき)。そして革島ヒョウの三人。

そこで、鷹皇兼光は自分に心酔していたヒョウを使える駒としてこちらに引き入れたのだ。

鷹皇はPCを操作して朝顔美雨の位置を探す。

位置を示す光点が、ある場所に向かって点滅している。

それを確認してから部下達にメールを一斉に送信する。

内容はこうだ。

『朝顔美雨の位置を送る。対象は殺害せずに確保。護衛は確実に排除』


舞は美雨を後ろに乗せて、第二のセーフルームに向けてS1000Rを走らせていた。

彼女達が向かっていたのは熊気のマンションだ。

結局三人とはあそこで別れて以来、連絡がつかない。

「舞さん。みんなは無事でしょうか?」

敵を撒いて、小休止を取っていた時に美雨が水を飲みながら心配そうに尋ねてきた。

「大丈夫。三人とも生きてるさ。今は妨害電波で通信ができないだけさ」

「そう、ですよね」

舞は三人とも死亡という最悪の事態を胸に秘め、美雨には明かさなかった。

そして午後二時四十分。セーフルームの前までやってきた。

「……?」

舞はバイクをゆっくりと走らせながら駐輪場に近づいていく。

静か過ぎる。徘徊するゾンビの姿もない。

それによく見ると、道路の真ん中で乗り捨てられていた車が動かされた形跡を見つけた。

舞は腰から手を離そうとする美雨を制する。

「美雨逃げるぞ」

「えっ?」

「敵がいる可能性がある。掴まって」

美雨がしっかり掴まると同時に舞はUターンして駐輪場を出ようとしたその時だった。

「動くな」

舞達の周りを傭兵達が取り囲む。

全員VZ58を舞にピタリと照準していた。

舞はアクセルを吹かす。

「動くな!」

傭兵の一人が再び警告を発する。

舞は周りの敵を睨みつけながら、アクセルを吹かし続ける。

「後ろの女、朝顔美雨だな。降りろ」

リーダーの傭兵が、舞に銃を突きつけたまま、美雨に声を掛けてきた。

「い、嫌です!」

美雨は舞の背中にしがみつく。

「彼女に手を出すな!」

舞が睨みを効かせて、傭兵達は一瞬怯む。

「黙れ!」

リーダーの男は、舞のこめかみに銃口を押し当てた。

「舞さん! やめて下さい」

「こいつの頭を吹き飛ばされたくなかったら、降りろ!」

「美雨。降りちゃ駄目だ」

「喋るな!」

舞のこめかみに銃口を強く押し当てる。

「さっさと降りろ。この女が死ぬぞ」

舞達が押し問答をしている間に、後ろから一人の傭兵が近づく。

そして美雨のフードを掴んで引っ張ろうとする。

「きゃああっ!」

「美雨!」

舞は素早く左手で突きつけられているVZ58を掴み、そのストックでリーダーの男の鼻を殴る。

「ブゴッ」

男は間抜けな声を出して路面を転がる。

舞はS1000Rを三百六十度ターンさせた。

美雨のフードを掴んでいた傭兵が振り回されて吹き飛ぶ。

その時にパーカーのフードが一緒にちぎれ飛んだ。

一回転しながら、舞は奪ったVZ58を左手で水平に構えてフルオートで乱射した。

周りにいた傭兵達が、慌てて頭を伏せる。

舞はバイクのバッグに入っていた最後のM67手投弾を敵に投げてからその場を急いで離れる。

五秒後。手投弾が爆発してそれに巻き込まれた傭兵達が吹き飛ぶ。

生き残った傭兵達が、バイクのタイヤを狙って発砲してくる。

弾丸はタイヤに当たらず、周辺のアスファルトが砕けて、バイクに音を立ててぶつかるだけだった。

尚も撃とうとする傭兵達をリーダーの男が制する。

「撃つな。朝顔美雨に当たる」

傭兵達は渋々射撃を中止した。

リーダーは遠ざかるバイクを注視ながら、取り逃がしたことを鷹皇に報告するのだった。


「美雨。怪我してない? 」

「はい。引っ張られてビックリしたけど、大丈夫です」

「そうか。よかった」

舞はS1000Rを全速力で走らせながら考える。

(熊気のセーフルームの位置もバレていた。原因は分からないが、他のセーフルームも駄目だな。だが、どこかに身を潜めないと)

舞は後ろにいる美雨の事を思う。

自分と違って、彼女は精神的にも肉体的にも限界なのは明らかだった。

そんな事を考えていると、ある異変に気付く。

舞はスンスンと鼻を動かす。ガソリンの匂いを嗅ぎ取ったのだ。

バイクの下を見ると、燃料タンクからガソリンが漏れていた。

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