第2話 ギルドがまた呼んでいる
冒険者ギルドはいつも通りの喧騒で三人を迎えた。軋む床板、カウンターで鳴る硬貨の音、掲示板前の誰かの笑い声。
「登録をお願いしたい」
マーティンが何度もやったことがあるような口ぶりで言った。「三人一組。パーティとして」
カウンターの奥にいた疲れた目の中年女性が、三人を見て溜め息をついた。
「年齢は?」
「充分です」
マーティンが即答した。
「数字が欲しいのよ、哲学じゃなくてね、坊や」
フィンが我慢できずに口を挟んだ。
「僕は十六! 盾の扱いなら得意です!」
「盾すら持ってないでしょう」
レオンが静かに指摘する。
「それは、これから買う予定で……!」
マーティンが目を閉じ、ポケットから銅貨の束を取り出した。三日かけて貯めた登録料だ。
「三人組として登録してください。名前は後で決めます」
「名前は今すぐ必要よ」
女性が羽根ペンにインクをつけながら言った。
沈黙が落ちた。フィンが「炎の牙」だの「鋼の兄弟」だの「三人の伝説」だの、思いつく限りの候補を並べていく。マーティンはそのたびに顔をしかめた。
「――《無名》」
最後にレオンが言った。
三人が彼を見た。
「なぜ?」フィンが聞く。
「まだ、俺たちは何者でもないからだ。名前は勝ち取るものであって、思いつくものじゃない」
マーティンが小さく鼻を鳴らした。賛成でも反対でもない、微妙な表情で。女性は特に感想もなく台帳にその文字を書き込んだ。
「《無名》団、登録完了。依頼は掲示板を見て。『信頼できる者のみ』と書いてある依頼には手を出さないこと。後始末は自分たちでどうぞ」
外に出てからも、フィンはまだブツブツ言っていた。
「《無名》だなんて、まるで何者でもないみたいじゃないか」
「実際、何者でもない」
レオンは静かに答えた。「――今のところは」
マーティンが、その日初めて心からの笑みを浮かべた。
「その『今のところ』ってのが、俺は気に入った」
こうして口論を重ねながら、三人はほんの小さな一歩を踏み出した。ただの寄せ集めの他人から、まだ名もなきパーティへ。




