第1話 同じ屋根の下で最初の夜
小さな部屋だった。窓に雨戸すらなく、床は一歩ごとに軋んだ。安かったからだ。だからこそマーティンはこの部屋を選んだ。
「隙間風がひどいな」
フィンが薄すぎる毛布にくるまりながら呟いた。
「その分、雨漏りはしない」
マーティンは顔も上げずに答えた。荷物を自分なりの順番で並べている。ナイフは左、火打ち石は右、縄は枕元に――「念のため」。
レオンは窓際に座り、街を眺めていた。下では最後の灯りが消えていく。遠くで誰かが叫んでいる。恐怖ではなく、ただの酔った騒ぎだ。どこにでもある、ありふれた夜。
今朝まで、三人は見知らぬ他人だった。同じ酒場、同じ懐事情が引き合わせただけの赤の他人。それが夕方には、何か違うものになっていた。誰も口には出さなかったが、三人とも分かっていた。もう、これまでのようにバラバラの道を歩くことはできない。
「レオン」
フィンが呼びかけた。「もし宿の主人が朝、俺たちは何者だって聞いてきたら?」
「本当のことを言えばいい。一晩泊まる場所が要る三人だってな」
「じゃあ、誰がリーダーだって聞かれたら?」
レオンは少し考えた。答えを知らないからではない。その答えが、一晩で背負うには重すぎる気がしたからだ。
「自分たちで何とかするって言おう」
マーティンが荷物から顔を上げずに鼻を鳴らした。
「もう指図してるじゃないか。見ろよフィン、俺たちのリーダーが誕生したらしいぜ」
フィンが笑った。おかしいからではない。笑うことで不安が薄れる気がしたからだ。レオンは言い返さなかった。いつの間にか「自分がどうするか」ではなく「俺たちがどうするか」を考えるようになっていた自分に、彼自身気づいていなかった。それは「部屋を半分に分けよう」から「いや、三人で壁際に固まって寝た方が暖かい」に変わった、あの短いやり取りのどこかで起きたことだった。
夜は冷えた。床は軋んだ。フィンの毛布は薄すぎた。ある瞬間、マーティンが無言で予備のシャツを放って寄越した。
「頭の下に敷いとけ、馬鹿。じゃないと寒いだの何だの、一晩中うるさいだろ」
レオンはなかなか眠れなかった。昨日まで他人だった二人の寝息を聞きながら、これからは自分だけの責任ではないのだと考えていた。重い考えだった。だが、なぜか怖くはなかった。
彼は最後に眠りに落ちた。暗い天井を見上げながら、心の中で繰り返しながら。
――明日、これからどうするか決めよう。三人で。




