第13話 私の居場所は、私が決めます
審理の日、私は補助耳飾りを着けて席へ座った。
正面には王立魔導院の審理官。右手にサイラス。レオンハルトは傍聴席の最前列にいる。
「異能管理局は、対象者を一時保護指定とするよう申請します」
サイラスは静かに始めた。
「理由は二点。第一に、異常共振を感知する仕組みが未解明であり、魔導網との同調が危険へ転じる可能性を否定できない。第二に、研究によって魔力過敏者の補助方法を確立できれば、公益は大きい。期間は二年、居住は王都研究棟を提案します」
悪意はない。彼は本当に、多数を救う方が正しいと考えている。
「リゼット・クラウゼル。意見を」
「三点あります」
私は炉の事故報告を提出した。
「私は魔力を操作していません。異常を聞き、技師へ伝えました。危険を生んだ記録は一件もなく、防いだ記録だけがあります」
次に、オリヴィエの所見を渡す。
「私の魔力がレオンハルト様の呪いへ作用するのは、特殊な術式との相性です。ほかの患者へ同じ効果が出る証拠はありません。可能性を調べることには協力しますが、可能性そのものを理由に二年の居住を奪うのは過大です」
最後に、自分で作った協力案を開いた。
「年四回までの測定、匿名データの提供、補助具の試験。私はすでに代替案を出しています。危険を避ける目的なら、まず負担の少ない方法から選ぶべきです」
サイラスが眼鏡を押し上げた。
「連続性がなければ研究の精度は落ちます」
「精度を上げるためなら、本人の生活をどこまで削ってよいのですか」
「救える人数との比較になります」
「まだ一人も救えると証明されていません」
私は管理局の申請書を開いた。
「二年という期間は、私の症状から計算したのですか」
サイラスは一拍置いた。
「長期観察研究の標準期間です」
「では、私が二年必要だと確かめた結果ではありませんね」
審理官が、北境での予備調査を行ったか尋ねた。管理局の職員は一人も城や工房を訪れていない。補助耳飾りの性能も、私が外部依頼を受けている事実も、提出された書面でしか把握していなかった。
「安全な環境が必要だと言いながら、今いる環境が危険かどうかは調べていないのですか」
サイラスは弁解せず、眼鏡を外して布で拭いた。
「調査の順序を誤ったことは認めます。しかし未知の危険を軽く見ることもできない」
「だから報告には応じます。未知であることを、拘束の証拠にしないでください」
審理室の金属めいたざわめきが揺れた。
レオンハルトは動かなかった。彼の足元にも霜はない。私の言葉が届くまで、ただ後ろにいる。
審理官は書類を読み、サイラスへいくつか質問した。危険評価の根拠となった実験はないこと。管理指定の前に、任意協力案を検討していないこと。内部文書では私を『資源』と分類していたこと。
長い審議の末、判定が出た。
「強制保護指定の申請は棄却する。対象者に、制御不能な危険は立証されていない」
息を吐く前に、審理官は続けた。
「ただし能力の未解明性は残る。本人の居住と移動を拘束しない条件で、年一回の能力報告書を提出すること。研究協力は本人の同意を要し、いつでも撤回できるものとする」
完全な無条件ではない。
それでも住む場所も、働く場所も、研究へ参加する日も、私が決められる。
「受け入れます」
署名する前、報告書の範囲を確認した。測定値と職務上の事故記録だけ。居住先、交友関係、婚姻、私的な医療記録は含めない。審理官はその条件を判定文へ追記した。
サイラスは一度だけ異議を出した。
「重大な変化があった場合の臨時報告は必要です」
「何を重大とするか、管理局だけで決めないでください」
協議の末、本人または主治医が公共危険に関わると判断した時に限る、と改められた。
私は自分の名で同意書へ署名した。
サイラスは悔しさを隠すように紙を揃えたが、判定へ異議は唱えなかった。
「法が線を引いた以上、従います。あなたの対案を、正式な協力枠として検討しましょう」
「子どもたちの記録は、引き続き読ませてください」
彼は初めて、計算していないような瞬きをした。
「承知しました」
「私が協力するのは、記録の子どもたちが痛みを説明できる道具を作るためです」
「目的は同じです」
「方法まで同じにする必要はありません」
サイラスは少し考え、初めて素直に頷いた。
内部の危険評価と分類語は、監査へ回されることになった。
審理室を出ると、多くの役人が廊下を行き交っていた。
私は少し先を歩くレオンハルトを追った。
靴が石床を二度打ったところで、彼が振り返る。
「どうしました?」
「君の足音が聞こえた」
人の声も紙の音も重なる中で、彼は確かに私の足音を拾っていた。
私は喜んで彼の前まで歩いた。
レオンハルトも笑おうとした。けれど、その目には、喜びと同じだけの恐れが残っていた。




