第三話
「ほぅ、日本海軍が艦艇供与の要請を?」
「はい。5年間の供与という形で喪失すればその分の費用を払うと言っています」
1902年6月中旬、第一海軍卿のウォルター・カー海軍元帥は部下からの報告に目を細める。
「……日本海軍はどの艦艇を供与してもらいたいと?」
「装甲・防護巡洋艦の二種類と言っています。装甲巡洋艦は2隻、防護巡洋艦は4隻供与してもらいたいとの事です」
「……成る程。日本海軍もウラジオ艦隊は脅威と認識しているようだな」
カーは極東の地図を見つつ笑みを浮かべる。日露が戦うとなると主戦場は満州になるだろう。だが、日本は周囲を海に囲まれているので輸送船を満州に送る必要がある。だが、ロシヤがそれを邪魔しようとすればその駐留する艦隊の停泊場所はウラジオストクであった。
「フム……そうなると供与するのは……『モンマス』級に『ダイアデム』級になるな」
「は……しかし『モンマス』級は最新鋭の装甲巡洋艦になりますが……?」
「主砲砲塔が重量過大になった装甲巡洋艦は失敗作では無いかね?」
「そ、それは……そうでありますが……」
『モンマス』級装甲巡洋艦は翌年の1903年に1番艦『モンマス』が就役予定だった。しかし、元々は1901年に進水しており1902年3月末にグラスゴー港にて定期船との接触事故により完成が遅れていた。主砲は1901年型 Mark Ⅷ 15.2cm(45口径)砲を連装砲塔形式に納めていた。砲塔動力は英国巡洋艦では珍しく電動方式を採用したが、重量過大になった上に旋回・俯仰角動作が遅くなり、完全な失敗作に終わっていた。
「しかし、装甲巡洋艦は2隻で良いのかね?」
「は、どうやらイタリア海軍からもう1隻供与してもらうようです」
「あぁ、例のイタリア海軍のフネか」
イタリア海軍が建造・配備している『ジュゼッペ・ガリバルディ』級装甲巡洋艦は列強の装甲巡洋艦の中では小ぶりであったが、攻撃力・防御力・速力共によくバランスが取られて設計されており、そのため建造途中にアルゼンチン海軍やスペイン海軍に売却され、5番艦にしてようやくイタリア海軍が取得出来たというエピソードがある。その中で日本海軍は1902年に進水したイタリア海軍の『フランチェスコ・フェッルッチョ』を供与してもらうよう交渉していたのだ。イタリア海軍は「またか……」とウンザリしていたがヨーロッパにおけるロシヤの脅威も減るかもしれないという事で供与というよりは売却に傾いておりイタリア海軍は積極的だったりするのである。
(フム……そうなれば一応ながら装甲巡洋艦3隻、防護巡洋艦4隻で巡洋艦は7隻か……しかし、7隻もとは奴等、そこまでカネはあったのか……)
尚、この7隻を供与(売却)する為に日本側では皇室予算がかなり大幅に削減されており陛下も自ら食事の一品、二品を削ったりとしている。また、他にも税金を少しずつ増やしたりして費用を練り出しているのである。(日露戦争が終われば税金を削減する事で野党等も合意している)
そして将和はというと、鎌倉にいたのである。
「済まないなミスター・ミヨシ」
「いや此方こそだよミスターキング」
鎌倉駅で将和はアーネスト・キング少尉候補生と話をしていた。史実で日本を訪問し鎌倉の大仏見学に来てスリにお金を取られたアーネスト・キングを将和は助けていたのだ。
残念ながらスリの盗人は見つからなかったが鎌倉駅でお金を取られて困っていたキングを将和が見つけて助けたのである。
「ま、良かったとして今は飲んでくれ」
「勿論だよ」
今は横須賀行きの汽車に乗り込みキングは日本酒で将和と交流を深めてるのであった。
1904年1月5日、正月の三が日が過ぎ将和は桂等の人物と共にとある小さな料亭に来ていた。
「遅れたが海兵学校卒業おめでとう三好少尉」
「は、僅かな日数ではありましたが良き学校生活でした」
将和はそう言ってお猪口に並々に注がれた日本酒を飲み干す。空の胃に日本酒が染み渡る。
「それに君の功績は素晴らしい。八甲田山事件を未然に防いでくれた」
「うむ、未来の海軍部長の反日を取り除いてくれた事も有りがたい」
児玉と山本はそう語る。八甲田山は将和がタイムスリップして直ぐに起きた事件である。
将和の報告を聞いた桂達は直ぐに八甲田山雪中行軍を中止というよりも命令を変更させた。歩兵第五連隊は困惑したが、御上からの直接命令となり雪中行軍は弘前の歩兵第31連隊と同じく少数精鋭で共同で当たるのであった。
また、雪中行軍に参加しなかった人員は北海道の第七師団と共同で雪中軍事訓練が実施されたのである。
そして上記にもある通り、たまたま鎌倉の大仏を見に行った際に一人のアメリカ軍人と出会った。
それが後に海軍作戦部長となるアーネスト・キングだった。将和はキングの分の切符代を購入してあげた。更に将和は日本酒を買い、キングと共に客車で飲み合った。
この出来事でキングの反日感情は無くなり代わりな親日感情が芽生え、将和と親友になり後に将和が第一航空艦隊司令長官に就任したと聞いた時に「もし日米が戦えば負けるのはアメリカだ」と呟いた程である。
「八甲田山の事は兎も角、キングの事はかなりの偶然でした(無論、嘘だけど……)」
「だがその偶然が良かった。まぁ今日は飲んでくれ」
「はぁ、それと状況はどうなっていますか?」
「うむ……砲弾の製造は増やしてある。仏式野砲は何とか輸入品とライセンス生産をも含めて500門を揃えている。砲兵も仏式には称賛している。多少重いがな」
「海軍も砲雷撃訓練を重点にしている。第三艦隊は機雷等の掃海を主に訓練中だ」
「史実通りに『春日』と『日進』も購入出来て良かったです。他にも『青葉』も売却してもらえたのも大きいですね」
海軍は『春日』と『日進』の他にもイタリア海軍の『ヘネラル・ガリバルディ』装甲巡洋艦の『フランチェスコ・フェッルッチョ』をイタリア海軍から貸し出してもらい、名前も『青葉』と命名されて装甲巡洋艦が主力の第二艦隊第二戦隊に配備されている。
また、陸軍も師団の増強を可能な限り行っていた。他にも技術者や工員等の徴兵は禁止して生産のペースを落とさないようにした。一部の将官はこの処置に不満を覚えたが桂達は「ロシヤと戦争するなら総力戦になる」と認識していた。
史実での兵力は約二十万であったが現時点では約二十五万と少しばかり増えていた。
更に後備師団として六個師団が創設されているが今のところは形だけとなっていた。急な創設で人員が追いついていないのが現状であった。
「用意出来るのは全て用意出来た……」
「……後は待つのみ……か」
そう呟く将和であった。
日本陸軍
山縣有朋元帥:参謀総長
満州軍 - 大山巌元帥:総司令官
第1軍
司令官 黒木為楨大将
近衛師団 長谷川好道中将
第2師団 西寛二郎中将
第12師団 井上光中将
第13師団
近衛後備旅団(梅沢旅団) 梅沢道治少将
第2軍
司令官 奥保鞏大将
第3師団 大島義昌中将
第4師団 小川又次中将
第6師団 大久保春野中将
第14師団
後備第1旅団
騎兵第1旅団 秋山好古少将
第1野戦砲兵旅団
第3軍
司令官 乃木希典大将
第1師団 松村務本中将
第7師団 大迫尚敏中将
第9師団 大島久直中将
第11師団 土屋光春中将
第15師団
第4軍
司令官 野津道貫大将
第5師団 上田有沢中将
第10師団 川村景明中将
第18後備旅団
予備隊(内地)
第16師団
第17師団
3個独立混成旅団
日本海軍
聯合艦隊
司令長官 東郷平八郎中将
旗艦『三笠』
特務参謀 三好将和少尉
第一艦隊
第一戦隊
『敷島』『初瀬』『朝日』『三笠』『富士』『八島』
第二戦隊
『千歳』『高砂』『笠置』『吉野』
第二艦隊
司令長官 上村彦之丞中将
旗艦『出雲』
第三戦隊
『出雲』『吾妻』『浅間』『八雲』『常磐』『磐手』『春日』『日進』『青葉』『衣笠』『古鷹』
第四戦隊
『浪速』『明石』『高千穂』『新高』
第三艦隊
司令長官 片岡七郎中将
第五戦隊
『厳島』『松島』『橋立』『鎮遠』
第六戦隊
『和泉』『須磨』『秋津州』『千代田』
第七戦隊(『ダイアデム』級防護巡洋艦)
『川内』『神通』『那珂』『加古』
第八戦隊
『扶桑』『平遠』『磐城』『鳥海』『愛宕』『筑紫』『摩耶』『宇治』『海門』『済遠』
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m




