終章
わたしは、そのままジーク様とセラフィナとともに、ノルド・マーリング王国に戻ることになった。
王都ノルディスに戻ると、セラフィナの戴冠式が待っていた。
これを機会に、セラフィナは、自分が男であること、そして当時の王太子の母からの暗殺を恐れて、女の子として育てられたことを公にした。
そして、その日から、『セラフィス』と名乗ることになった。
戴冠式の日、わたしは、王立魔法音楽院の生徒のひとりとして、制服である膝丈のローブを纏い、いつものようにリュート・オリヴェルを斜めに背負い、セラフィスの後ろにいた。
「セラフィナ……じゃなくて、セラフィス」
「まだ、慣れぬか?」
「やっぱり、そんなにすぐにはね」
国王となったセラフィスの姿は、凛々しく、そして眩しかった。
王位についても、魔詩師であることは辞めないと宣言し、国王の正装は、魔詩師の黒いローブに華やかな金糸銀糸の縫い取りがある、これまでにない装いとなった。
もちろん、かたわらにはリュート・ジゼルがある。
王都に戻ってから、変わったことがある。
リュート・オリヴェルが話さなくなったこと。
まるで、魔音楽器ではなく、ただのリュートになってしまったかのようだった。
おそらく、あのときの『雨の魔詩』ですべての力を使い果たしてしまったのだろう。そうなったとしても、わたしの愛器であることは、かわりはなかった。
バルコニーに出て、国民の祝福をひとしきり受けた後、セラフィスが奥にひっこんできた。
少し疲れたように小さくため息をついて、長椅子に腰をかけると、わたしを隣に呼び寄せた。
「わたしは今日、王位についたのだけれど」
「ええ」
「ひとつ問題がある」
「問題って?」
「王になったからには、王妃を娶らねばならぬ」
「……」
これにはどう答えたら良いのか困った。
「わたしは、そなたが良いのだが」
「無理」
そう即答したわたしの答えに、セラフィスは目に見えてがっくりとした。
「なぜだ?」
「王妃なんて……わたしは、吟遊詩人の娘なんだし」
「ジークヴァルト・ラング公爵の養女だ」
確かに、書類の上では、公爵令嬢ということになっているのかもしれない。
「……でも」
「ギュールズの族長の姪だ。両者の和平のためにもこれ以上の縁組はないだろう」
「わたしなんかが……」
「なんかじゃない。ミーリャがわたしには必要なんだ」
セラフィスは、そう言って、長椅子に腰掛けたままわたしを引き寄せた。
「ミーリャは、わたしのことが必要じゃないのか?」
「ずるい」
「ずるい?」
「そんな、聞きかたするのはずるい。だって、わかってるくせに」
「わかっていても聞きたいものなんだ。ミーリャ、わたしの妃になれ」
そう言って、セラフィスはわたしの頬にキスをした。
次の春になったら、わたしのふたりの叔父に、ノルド・マーリングの国王の花嫁になってもいいか、相談をしよう。
その前に、ジーク様にこの話をしないと。
わたしは、リュート・オリヴェルの包みを解いて、軽く調弦して構えた。
ああ、この詩がいい。
父さんが得意にしていたこの詩が。
「森の娘は何が好き?
赤い花束
甘いパイ
白いハンカチ
髪飾り
違う、違うわ。それじゃない
森の娘は何が好き?
知ってるでしょう?
でも、言わない
それは、あなた、ただひとり」
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