第十二章 ep2
「だめだ……」
「どうして」
「仲間があっちの軍の騎士団のやつらに吐かせた。あいつらはグリス・フェルンを攻め落とす気だ」
「……そんな」
「さっきから気になっていたんだが、その娘はなんだ」
「ああ、ミーリャのことか。おれの姪」
「姪? ヴァルナルにこんな大きな隠し子がいたのか?」
「いやいやいや、無理だろう年齢的に。それに、そもそも兄貴に恋愛とかましてや隠し子なんて絶対にありえない」
「まあ、あの堅物のヴァルナルじゃあな。じゃあ、そのミーリャって子は」
「オルフェリア姉貴の忘れ形見」
「え! オルフェリアさんの?」
「可愛いだろ、やらねぇぞ」
「ちょっと、ヴィーゴ、わたしはものじゃないわよ」
「オルフェリアさんの娘ってことは、魔詩師なのか。なら、『癒しの魔詩』が使えるんじゃないのか」
「ごめんなさい。わたしには、『癒しの魔詩』は使えない」
わたしが実力不足なのもあるが、そもそも『癒しの魔詩』には適性があって、魔力が強かったとしても誰もが詩えるようなものじゃない。詩長として絶大な魔力を誇るジーク様ですら、『癒しの魔詩』は、それが得意な魔詩師に任せていた。
「そうか……」
「もしかして、母さんは得意だった?」
「そうだな。『癒しの魔詩』や『実りの魔詩』ばかりを詩う人だった」
父さんも争いを好まない穏やかな人だった。そんな父さんと結婚したのだから、きっと母さんもそういう人だったのだろう。
その時、洞窟の中まで地響きがおきた。
この波動。
強大な『土の魔詩』が発動したのだ。
ジーク様はすべての魔詩に精通しておられるけど、その本質は『雷』だ。これほどの『土の魔詩』を詩ったのだとすると、それは。
わたしは、すぐに洞窟の外に出た。
すると森の一部の木がなぎ倒されて、一本の道になっていた。
すぐ後ろから、ヴィーゴも駆け出してきた。洞窟に高さがなかったため、かがんだ体勢だったからか、わたしより少し遅れて、この光景を見た。
「なんだ、ありゃ」
「きっとセラフィナ……」
「魔詩であんなことができるのか」
「セラフィナなら、できるのかもしれない」
その力は、もしかするとジーク様をはるかに超えていたのかもしれない。
馬の蹄の音が聞こえる。
「ギュールズの敗残兵を探せ!」
騎士団の生き残りだろうか、恨みの籠った怒声が響きわたる。
「誰一人逃がすな、引きずりだせ」
騎士団の後ろには魔詩師たちの姿も見える。
こちらは、まったくの無言で行軍しているのが、かえって異様に見える。
「ガスパールのやつら、やりすぎたんだ」
ギュールズの民は、恵まれた体格をもっている。ノルド・マーリングの騎士団とぶつかっても、白兵戦にもちこめば、数倍の敵とやりあったとしても、対等以上の戦いができたに違いない。
しかし、ノルド・マーリング軍の真の主力は、ジーク様の率いる魔詩師たちなのだ。
ひとりずつ、雷で狙い撃ちをされたなら、まったく防ぐことなどできなかっただろう。あの火傷を負ったガスパールの仲間たちは、魔詩師の攻撃を受けたのだ。
「わたし、セラフィナを止めてくる」
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