第十二章 ep1
わたしとヴィーゴが、ピコに乗って国境の森に着いたときには、すでにいくつかの場所で煙があがっていた。火が付いた様子はないから、雷の魔詩による攻撃を受けたのだろう。
ということは、ヴァルナルのところに届いた伝令の通り、きっとジーク様がきている。
空にティッパが飛んでいるのを見つけたヴィーゴは、指笛で呼び寄せて肩にとまらせた。
「西の洞窟にいる。助けてくれ」
ティッパが再現した声は、野太い男のものだけれど、力なく切羽つまったものだった。
ヴィーゴはここで馬から降り、そのまま野に放した。
わたしたちは、ノルド・マーリングの軍にみつからないように、森の木々に身を隠しながら、西にあるという洞窟をめざした。
変なものだ。
この森を抜けたところに、ジーク様とセラフィナがいる。
このままヴィーゴを振り切ってそちらに走れば再会できる。それに逃げ出したとしても、きっとヴィーゴはわたしを追ってこないだろう。
でも、わたしは、逃げようという気持ちはひとかけらもわきおこらなかった。
ティッパの伝言の通り、少し盛り上がった丘の陰に小さな洞穴があった。
ヴィーゴは小さく口笛を吹いた。ティッパの鳴き声の真似だ。もし敵がいたときのための用心だった。
中からも、同じように小さな口笛が返ってきた。
「中にいる。入ろう」
「うん……」
少し入っただけで、血の匂いがしている。怪我をした人がいるのかもしれない。
「おれだ、ヴィーゴだ」
「ヴィーゴ! こっちだ」
「ガスパールか」
ヴィーゴが体をかがめながら、奥へと進んだ。わたしもそれに続いた。
奥の開けた場所には、何人かのギュールズの若者が寝かされていた。中には酷い火傷を負っている人もいるようだった。
ヴィーゴの元に駆け寄ってきたガスパールも青黒いはずの髪が半分血の色に染まっている。
そして、その体はヴィーゴよりも二回り以上も大柄だった。
「大丈夫か?」
「こんなの、かすり傷さ。それよりこいつらのほうが……」
うめき声をあげているのは、ガスパールの仲間たちだろう。
「ヴィーゴ、援軍を連れてきてくれたのか」
ガスパールがどこかほっとしたような声でそう言ってきた。
その言葉にヴィーゴの表情が厳しくなる。
「兄貴から何度も、馬鹿な真似はやめろといわれていたはずだ」
「ヴィーゴ、援軍は?」
「あるわけないだろう。おれはおまえたちを止めにきたんだ」
ガスパールは、大きな体を乗り出して、ヴィーゴの胸倉をつかみあげた。
「何を言ってんだ、こいつらの怪我をみてみろ。ギュールズの仲間がこんな目にあってんのに黙ってろって言うのかっ!」
「おまえたちは、それ以上のことをノルド・マーリングの騎士団にやらかしたんだろう。すでに兄貴のところに報告がきて知ってるんだ」
「……おれにどうしろと」
「このまま、退却しろ」
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