第十一章 ep1
それからわたしは、ヴィーゴについてギュールズ中を回ることになった。グリス・フェルンに来たのは真冬だったけれど、少しずつ春に近づいていることがわかる。
ギュールズの民は、ノルド・マーリング王国の人たちと比べて、体はひとまわり以上大きくて頑健だ。小柄なほうだと自分で言っているヴィーゴですら、ノルド・マーリングの民の中に入ると長身の部類に入る。
その大柄な体と運動神経のよさは、ノルド・マーリングの人間にしてみれば、確かに『鬼』、つまり人ならざるものに見えたのかもしれない。
その一方、ほとんどのギュールズの民は朴訥とした、のんびりとした者が多い。ノルディスのように商業が盛んでないこともあるだろう。その日の食べ物と、季節に応じた衣類が少しあれば、それで満足といった感じだ。
グリス・フェルンはまだしも、ギュールズが貧しいということは、一緒に集落を回ってみて痛感した。
まず、子どもたちの栄養状態がよくない。十分にごはんが食べられないから、体力が落ちていて、ちょっとした風邪でもそのまま命を落とすこともある。
だから、わたしが秋の実りのために魔詩を詩いに来たことがわかると、どこの集落でも大歓迎された。なかにはオルフェリア母さんのことを覚えている人もいて、わたしがその娘だとわかると、泣きながら感謝されたこともあった。
「オリヴェルは、こうやって母さんと一緒にギュールズ中を回っていたの?」
「まあな。オルフェリアは美人だったし、どこに行っても大歓迎されてたぜ」
わたしは、どこの集落へ行ったときも、豊かな実りがあるように、家畜の仔にめぐまれるように、心をこめて詩った。
ギュールズはかなり北にあるために、農耕を主としている村はそれほど多くはないけれど、その少ない村々の収穫がギュールズ全体を養っているのだ。
そして、実りはなにも農耕だけではない。林にある木々がつけるどんぐりのような木の実は、豚などの家畜の貴重な栄養源になる。
王立魔法音楽院でも初年度に学ぶ『実りの魔詩』は、魔詩師として基本中の基本。春の種まきの時期になると、魔詩師と王立魔法音楽院の候補生たちが、手分けして国中を回って、豊かな実りを願って詩うのだ。
本当なら、わたしはこの春はじめて、ノルド・マーリング王国の村々をめぐって、『実りの魔詩』を詩っているはずだったのに。
たった一人で、拙い『実りの魔詩』を、ギュールズのさびれた村で詩っていた。
最初の集落でこの詩を披露したとき、一緒についてきてくれたヴィーゴは隣で号泣していた。小さいときのことを思い出してしまったと。姉であるオルフェリアにヴァルナルと一緒にくっついて、よく集落を回っていたらしい。
「まあ、姉貴はどこにいっても評判がよかったからな。一緒に行けばうまいもんにありつけるし、まわりからは感謝されるし」
「それって、感謝されてたの、母さんだと思うけど」
「そうだけどよ。おれたち双子で可愛かったんだぜ。どこにいっても人気者だった」
ヴァルナルはともかく、ヴィーゴは大人になった今でも、愛嬌があってどこか憎めない。子どもの時ならなおさらだったろう。
「ここの集落は、もう大丈夫だと思う。次の集落へまわろう」
ギュールズは、人の数に対して、その土地は広い。遊牧を主にしている者も多いから、放牧地が重ならないように、ある程度の距離を取って生活しているからだ。
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