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第九章 ep2

「ん~~~~!」

「ミーリャ? なんだ、貴様!」

 不審な男の肩に担ぎあげられたわたしの姿を目にしたセラフィナは、高く澄んだよく通る声で、助けを呼んだ。

「狼藉ものだ! であえー!」

「セラフィナ殿下、それじゃ失礼しますよ」

「そなた、外務大臣? いや、その髪の色ギュールズの手の者か」

「大正解~! じゃあ、この娘と、このでっかいリュート、いただいていきますからね」

 その男は、わたしを肩にかついだまま、リュート・オリヴェルのネックをがしっと握るとそのまま、窓から外に飛び出した。

 いや、ここ三階なんだけど?

 お腹の上がすぅっとするような気持ち悪い感覚の後、男の肩を通じて、どしんという強い衝撃を感じたけれど、これといって怪我をすることはなかった。

 一見、ひょろっと細く見えた男だけれど、三階から飛び降りて、その衝撃を両足に受けても、なんともないようだった。

 着地した後、何度か屈伸して問題がないことを確認すると、そのままものすごい速さで走りだした。

 わたしはまるで小麦袋みたいに、二つ折りで肩にひっかけられていたので、頭に血が上ってくらくらする。

 後ろから、外宮を護っていた警備兵が追いかけてくる足音が聞こえてきたが、この男の足の速さは尋常ではない。とても同じ人間とは思えなかった。

 いや、この男は、ギュールズだ。同じ民族じゃなかった。

 ピーンという細い弦の音、澄んだソプラノ。

 リュート・ジゼルとセラフィナの魔詩だ。これは、ヴァネッサさんが得意にしていた土の魔詩。

 そうか、足止めをしてくれるつもりなんだ。

その予想通り、男の足元の地面がぼこぼこと盛り上がりはじめる。

「うわぁ、なにこれ? ぼっこぼこじゃん。土の魔詩ってこんなことできんの? 知らなかったよ。あんたの王女様、本当にすごいね」

 この男、よく舌を噛まずに、このぼこぼこの地面を飛び越えながら、これだけ喋られるもんだ。

 セラフィナの魔詩は素晴らしいのだけれど、如何せん距離が遠すぎる。この男の足を止められるほどの高さを作ることができないのだろう。

 外宮の城壁の前まで来た。さすがにこれは簡単に越えられはしないだろう。この男の二倍ほどの高さがあるからだ。しかもわたしを担いでいて、片手にはオリヴェルをつかんでいる。

 後ろから警備兵の足音が迫っている。もしかしたらと思ったその時。

 この男は、オリヴェルを空高くほおり投げた。

「んーーーーーーーーーーー!」

「くっそ、てめぇ、何しやがるんだーーー!」

 わたしとオリヴェルの叫び声が重なる。

 オリヴェルはどんどん高く上がって放物線の頂点だと思った瞬間。

 わたしも空に投げられた。

 さすがにオリヴェルほど高くはなかったけど、それでも軽々と壁は超えた。

 その後、助走する足音と、強く踏み切る音がした。

 わたしが放物線の頂点に差し掛かる少し下で、男が壁を超えるのが見えた。

 え? 助走だけで、あの高さを飛び越えたっていうの?

 男は壁の向こうに着地すると、わたしをお姫様抱っこで受け止めて、すぐにまた元のように肩にかつぐと、左手で落ちてきたオリヴェルをつかみとった。

 壁を越えてしまうと、もうセラフィナの詩声も聞こえなくなった。

 男はまた、わたしを担いだまま走り始めた。頭の中を脳みそごと揺さぶられるようで、わたしはいつの間にか、意識を手放していた。

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