第七章 ep2
「セラフィナのお母さまは、どうしていらっしゃるの?」
次の日の朝、外宮での朝食はふたりきりだった。だから、少し気になって聞いてしまった。
「母上は、ずいぶん前に亡くなった。わたしが七歳の時だった」
「そうなんだ……」
「そういえば、ミーリャから母親の話は聞いたことがなかったな。父親の話はよくしてくれるのに」
「わたしもお母さんを亡くしてるの。わたしを産んですぐだったらしくて。だから、顔もわからないんだ」
「そうか、それは残念だな」
「セラフィナは、お母さんの顔、覚えてる?」
「もちろんだ。やさしい人だった。わたしとそっくりだぞ」
そう言って、壁にかけられた肖像画を指さした。
本当にセラフィナにそっくりだった。十年後には、セラフィナもこの肖像画のような美女になるんだろうな。
朝食の後、セラフィナは父である国王陛下の元へ挨拶へ行くこととなった。当然、わたしは留守番だ。
王立魔法音楽院にいたときと違って、なにもやることがない。
セラフィナの部屋にあるものは自由にしていいと言われていたが、困ってしまった。わたしに文字が読めれば、本棚にずらりと並んだ魔法音楽理論の本でも広げて、独学すればいいんだろうけれど、そうもいかない。
「あー、もう、どうして、わたしって文字がこんなに苦手なんだろ……」
棚に置きっぱなしにしていた、リュート・オリヴェルがビーンと鳴っている。
ルーデンスの郷でいろいろあってから、おとなしくしていたのに、今日は久しぶりに話しかけてきた。
「カビ臭い本の中になんて、真の魔詩は存在しない。だから、気にすんな」
「なによ、オリヴェル偉そうに……」
「本当のことだろ」
「でも、和声や輪声みたいな応用は大事よ。ちゃんと理論をわかってないと、他の魔詩師と力を合わせるのって難しいんじゃない?」
「前にも言ったと思うが、おまえにはそういうの向いてない。まあ、おれさまがついてるからな、他の魔詩師なんかほっておけ」
「でもね、ルーデンスの郷で、ヴァネッサさんとセラフィナが土の魔詩を詩い継いでいたのを聴いて、やっぱり力を合わせるのって大切なんだなぁって」
きっと、ひとりで詩っていたら、もっと早い段階で限界がきていたはずだ。絶妙な技術でふたりの声が入れ替わって、休みを取り合う。そんな戦い方もあるのだと、あの時初めて知った。
だから、余計に学びたい気持ちが膨れあがっているのだ。
「あーあ、授業だけでも受けにいけないかなぁ」
「じゃあ、出張授業はどう?」
軽いノックと一緒に現れたのは、ベルトルト先生だった。そして、その後ろにはレイモンドさんもいた。ふたりとも魔音楽器のケースを手に部屋に入ってきた。
「ミーリャ、久しぶり」
「まだ、休暇中じゃないんですか?」
冬の長期休暇はまだ半分も終わっていない。
「なんだ、知らなかったのかい? 魔詩師と、王立魔法音楽院の生徒は全員、休暇返上で王都に呼び戻されたんだよ」
「そうなんですか?」
わたしは、おふたりに椅子をすすめ、何とかお茶を用意しようと、どこかにカップと茶葉がないかを探し回った。自分の部屋でないため、まったく勝手がわからない。
「ミーリャ、探し物?」
レイモンドさんが、挙動不審なわたしの動きを気にして、声をかけてくれた。
「あの、お茶の葉がどこかにないかと……」
そう言うと、ふたりが笑い出した。
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