第六章 ep8
わたしたちが、ルーデンスの郷の中央に戻ってきたときには、すでに戦いは終わっていた。小規模な争いの音は、絶えず続いていたのに、それももう聞こえない。
ジーク様の姿を見つけて、数人の魔詩師が駆け寄ってきた。
「状況を」
「ギュールズの奴らは、すでに撤退しました」
「こちらの被害は?」
「魔詩師は軽傷の者のみです。ただ、ルーデンスの郷の者が……」
報告を受けながら、郷の中央の広場に向かって歩き進めていくと、地面に数人が寝かされているのが見えてきた。
その中には、ルーデンス子爵と、夫人の姿もあった。
「そんな……」
わたしは、思わず声を飲み込んだ。隣に立つセラフィナの手が細かく震えているのが伝わってきた。
ジーク様は、ゆっくりとルーデンス子爵の側にひざまずいた。その横顔には沈痛な表情が浮かんでいる。
「間に合わなかったか……」
「ジークヴァルト、そなたの責ではない」
「……」
ジーク様はそのまま言葉に詰まっていた。
かたわらに報告のために寄り添っていた魔詩師のひとりが、やはり涙をこらえたまま状況を説明した。
「詩長、ルーデンス子爵とご夫人は、最後までひとつでも多くの魔音楽器を持ち出そうと、尽力されておられたと……」
「……そうか」
ジーク様は、悲しみをかみしめるように、短く答えた。
「ルーデンスの郷が焼かれたこと、そしてルーデンス子爵を失ったこと、我々ノルド・マーリング王国にとっては、かなりの痛手だな」
「セラフィナ、そんな言い方」
まるで、軍略家のような冷たい言い方に思わず、セラフィナの方を振り返った。
その頬には、一筋の涙が流れていた。
朝日がその涙を反射して光っていた。
「ジークヴァルトがルーデンスの郷に来たということは、わたしを迎えにきたのだろう」
「はい、殿下」
「わたしは、魔詩師になりたかった」
「知っています」
「王宮に戻らねばならないのか」
「それは、殿下が一番おわかりのはず」
「ひとつ、頼みがある」
「なんなりと」
「ミーリャを側に置きたい」
「まだ、未熟者です」
「だが、魔詩師としての才能は、そなたを超えるかもしれん」
わたしは、ふたりが何を話しているのかわからないまま、黙って聞いているしかなかった。
「ミーリャ、そなたはどうか?」
「ごめん、何のことだかわからないんだけど」
「わたしは王立魔法音楽院を中退することになる」
「どうして?」
「王族に戻らなくてはならないからだ。兄上が亡くなった。そうだろう、ジークヴァルト」
「え?」
「昨夜、息を引き取られました」
セラフィナは深いため息をついた。
「世の中には伏せられていたが、兄上はずっと病床にあった。ご回復されるのを心から願っていたのだがな」
「セラフィナは、わたしに側にいて欲しいの?」
「ああ」
「それは、王族として、お付きの侍女が欲しいということ?」
「馬鹿なことを申すな。そなたはわたしの無二の親友だ。そうだろう」
「……セラフィナ。わかった。わたし、セラフィナと一緒に王宮にいくわ」
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