第六章 ep6
「ここに魔音楽器の工房があると、ギュールズに漏れたんだ」
「だから何?」
「ギュールズは魔音楽器の存在を、魔詩を恐れている」
引き離したはずの、青鬼たちが後ろに迫ってきた。
わたしはひとり足をとめ青鬼たちの方へ振り返った。
「ミーリャ?」
セラフィナが驚いたように、立ち止まる。
「ふたりともちょっと、目を閉じていて、ぎゅっとよ!」
わたしは、リュート・オリヴェルを構えると、最大限の音量で十一弦すべてをかき鳴らした。
「光よ!」
たった一言の魔詩。
父さんが、野宿のとき、薪を節約するんだと言って、ちょちょいと鼻歌のように詩っていた。詩ともよべない、たった一言。
でも、わたしとオリヴェルがともに詩えば、こういうことも起こせる。
それは閃光となって、わたしたちを追いかけてきた青鬼たちの視界を白く灼きつくすのには十分な光の圧だったはずだ。
一瞬静まり返った後、青鬼たちの悲鳴が聞こえた。
顔を覆ってうめき声をあげている青鬼たちを残し、わたしたちは、森の南へと急いだ。
森の木々がまばらになった。
もうすぐ出口だ。
あそこまでなんとかたどり着ければ。
そう思った瞬間、ハープの音が鳴り響いた。
「あれは、雷の魔詩?」
空がみるみる曇りはじめ、閃光が地面を突き刺した。
それとともに、ひとりの青鬼から悲鳴があがる。
もう少しで森の出口に差し掛かるというところで、聞こえてきたのは、ノルド・マーリング王国が誇る詩長、ジークヴァルド・ラングの詩声だった。
つづけざまに、数回の雷鳴がとどろき、確実に青鬼の上に落ちていく。その正確さは、おそらくどの魔詩師にもまねはできないだろう。
「ジーク様!」
わたしは、ほっと胸をなでおろした。
王都から魔詩師たちが助けに駆け付けてくれたのだ。
森の入り口付近には、逃げ出してきたルーデンスの郷の人たちが集まっていた。そしてそれを追いかけてきた青鬼の姿も。しかし、ここにいた青鬼たちは、すでに雷の魔詩に撃たれて、息絶えていた。
少しずつ空が白みはじめている。長い夜がようやく明けそうだ。
「姉ちゃん!」
「ギル!」
森の出口でひとかたまりになって身を寄せていた中から、少年が弾けるように飛び出してきた。
「無事だったのね!」
ヴァネッサさんは、走り寄って、弟に抱きついた。
その姿をみて、わたしも少し涙が出そうになってきた。
「ここはもういい。三隊に分かれて、郷に入れ」
「はい!」
ジーク様が率いてきた魔詩師たちに手早く指示を出してから、わたしたちのほうへ歩いてきた。
「ミーリャ、無事か?」
「はい」
「セラフィナ殿下は?」
「ああ、問題ない」
「よし。では、わたしに付いてこい」
「わたしも行きます!」
ギルバートと抱き合っていたヴァネッサさんが、すくっと立ち上がった。
「だめだ。おまえの魔力はすでに限界だろう」
「いいえ、まだ大丈夫です」
「おれの目が節穴とでも」
「……」
「ここで言い合っている時間はない。ヴァネッサはここで郷の者たちを護れ。すぐに援軍が来るはずだ。その者たちとともに、早々に郷から離れろ。いいな」
「……わかりました」
逃げてきたひとたちの中に、ルーデンス子爵と夫人の姿はなかった。ヴァネッサさんにすれば、なんとしても両親の消息を知りたいはずだ。
その一方、ここまで命をつなぎとめた郷のひとたちを護ることも、次期郷長であるヴァネッサさんの役割なのだ。
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