第一章 ep1
補欠合格
ミーリャ・ラング
わたしは、ノルド・マーリング王国が誇る王立魔法音楽院の壁に張り出された合格発表の前に立ちすくんでいた。
補欠……合格。
とにもかくにも合格したと喜べばいいのか、補欠だと誰かが入学を辞退しない限り、自分は入学できないのだと嘆けばいいのか、よくわからない。
十三歳になって、ようやく受験資格が得られたと意気込んで挑戦したものの、なんだか中途半端な結果になってしまった。
「おい、ミーリャ、どうだったんだ」
背中に背負ったリュートがビーンと小さく弦を鳴らした。ほんの小さな響きなので、周りの人は気が付かないかもしれないが、このリュートは自分で弦をならして、人の言葉をしゃべる魔音楽器だ。
「……補欠合格、みたい」
「みたいってなんだ。ちゃんと名前はあったのか」
実は、わたしは文字を読むのが得意じゃない。というか、自分の名前以外はあまり読めない。補欠合格だというのは、合格発表を見に来ていた親切な女の子が教えてくれたのだ。
「うん。まあ、こんなわたしでも、自分の名前くらいは読めるからね」
「そうか、まあ、あれだな。筆記試験が壊滅的だったのに、補欠でも合格にしてくれたっていうのは、王立魔法音楽院のやつらも見る目じゃなかった、聞く耳はあったってことだな」
王立魔法音楽院の入試は、実技と筆記試験だった。
文字を読むのが苦手なわたしは、そもそも入試の科目も把握せずに意気揚々と入学試験に挑んでしまったのだ。
もちろん、筆記試験は名前を書いただけ。というか、筆記具すら持ちあわせておらず、隣の受験生に借りる始末。隣の席の少年のあんぐりと空いた口が忘れられない。その口がふさがらないまま、彼は自分の筆箱から予備の羽ペンをかしてくれた。インク壺まで借りるわけにはいかなかったけど、まあ、名前を書くだけだったから、一度インクに浸してくれただけで事足りた。
そういうわけで、筆記試験は、名前を書いただけの白紙答案。
答案を提出したときの試験官は、わたしの顔と試験用紙を何度も見比べていた。
別に何か、特段の意図があって白紙で出したわけじゃなかったんだけどな。
午後は実技の試験で、ここでも多少、試験官をつとめた教授陣を驚かせてしまったかもしれない。
わたしが詩ったのは、父さんが死ぬ間際に教えてくれた雨の詩。
もちろん、全力で詩った。そして、このリュート・オリヴェルも全力で頑張ってしまった。
腐っても魔音楽器。
とんでもない豪雨を呼んでしまい、一節詩ったところで、止められてしまった。
実力はわかったからお帰りくださいと試験会場からつまみ出されたのだ。
まあ、不合格だろうと思いながらも、一縷の望みを捨てきれずに合格発表を見にきてしまったわけだ。
「とにもかくにも、合格したんだ、めでたいめでたい。さ、帰ろうぜ」
「オリヴェル、わたしの話聞いてた? 合格って言っても補欠なんだって。まだ入学できるかわからないんだよ…」
「ま、でも、あのおやっさんに報告は必要だろ」
「ジーク様、がっかりするだろうな」




