第六章 ep3
建物の裏口から屋敷を出ると、すでに郷の半分は火の海だった。
ギュールズが攻め込んできたとギルは言っていたが、まだその姿はどこにもない。
「あいつら、火矢を放ってきやがったんだ」
ルーデンスの郷の家屋の多くは木造だ。しかも、周りは木々に覆われている。一度火が付くと、すぐに隣に燃え移ってしまう。
ここで水の魔詩をとも思ったが、一件の火事を消し止めたところで、また火矢を放たれたらただの無駄骨だ。
わたしたちは、燃えていく郷の家の間を、悔しい思いですり抜けながら、北の森のほうへと走っていった。このあたりはもう道の両側の木々にいくつも火の粉がまっている。外套を着ていると汗ばむほどの熱気だ。
森の奥から、ずしんという地面を揺るがすような音が聞こえてきた。
そして、ハープとヴァネッサさんの魔詩の声。
「ギルバート、ここまでだよ」
わたしがそう言うと、ギルバートの顔がぐっしゃとなった。
「おまえにはおまえにしかできぬことがある」
セラフィナがそう言った。
「父親の元へ行き、ひとつでも多くの魔音楽器を持ち出せ! 良いな。それが、この郷だけでなく、ノルド・マーリング王国を護ることにもつながる」
そうだ、工房の中には多くの作り掛けの魔音楽器があった。なかには調音の工程だけを残したものも。魔詩師は、魔音楽器なしには力を発揮できない。ルーデンスの郷で作られた魔音楽器あってこそなのだ。だから、それを護り通すことも、大切な使命。
「わかった! 絶対に父さんと母さんも、魔音楽器も護り通すよ。セラフィナさん、ミーリャさん、姉ちゃんのこと、頼みます!」
「わかった」
「ギルバートも気をつけて!」
わたしたち二人の声を背に受けて、ギルバートは元来た道を駆けて戻っていった。
数日間の旅で一緒だっただけだが、ギルバートは責任感の強い少年だとわたしたちは知っている。きっと約束したことを精一杯守るだろう。
だから、わたしたちも守らなきゃ。
「あの声はヴァネッサだな」
「うん」
ヴァネッサさんが得意とする土の魔詩。それも最上級の詩であることが、遠くからでもわかった。
耳だけでなく、目でもヴァネッサさんの姿をとらえられる距離までくると、どれほどの魔詩を紡いでいたのかがわかった。
ヴァネッサさんの前には、背丈の二倍ほどもある土の壁が作られていたのだ。
向こう側に大勢の敵がいるのがわかる。しかもその壁を越えて、火矢が次々と郷の方に放たれている。
ヴァネッサさんは、作り上げた土の壁を維持するだけで精一杯のようで、火矢に対処する余裕はなさそうだった。
しかもその土の壁は、向こう側から恐ろしいほどの力で突き崩しにかかっているようで、めりめりとひびが入りはじめていた。
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