第六章 ep2
「ミーリャさん! セラフィナさん!」
その声はギルバートだった。
「何があった!」
セラフィナがいつもとは違うするどい声で尋ねた。
「青鬼の奴らが、ギュールズの奴らが、郷に押し入ってきてっ……」
その言葉にわたしの頭の中は真っ白になった。
あの時と同じだ。
宿屋で急に起こされて、父さんが痛いほどわたしの手を引いて走り出した、あの時と。
「ヴァネッサは?」
「姉ちゃんは、姉ちゃんはひとりで戦いに行った……父さんも、母さんも、あんなに止めたのに」
「そうか、敵の数は?」
「わかんないよ。ただ、あちこちで火事になってて」
外から逃げ惑う人たちの声が聞こえてきた。
「この屋敷は森の中でも一番奥だから、まだ時間があると思う……ふたりは逃げろって姉ちゃんが、姉ちゃんが……」
ギルバートが顔をぐちゃぐちゃにしてそういった。
わたしは、背負っていたオリヴェルを下ろした。
「逃げるわけない」
「ミーリャさん?」
「逃げるわけないじゃない。ヴァネッサさんを置いて逃げるわけないでしょ」
「そうだな」
セラフィナも楽器ケースを下ろすと、リュート・ジゼルを取り出した。肩紐を楽器につけ、斜めがけにした。
「ギルバート、案内はしなくていい。ヴァネッサさんがいる方向だけ、教えてくれ」
ギルバートは涙を袖でぬぐうと、ぐっと顔を引き締めた。
「おれも行きます!」
「だめだ。お前は魔詩が詩えるわけではないだろう」
セラフィナの声がいつになく厳しい。
「そうだけど」
「それとも、どこかの騎士団も真っ青なくらいの剣の使い手だというのか」
「……」
押し黙ってしまったギルバートが少し可哀想だったが、事は一刻を争う。
「ギルバート、時間が惜しいわ」
「わかった、でも、おれも近くまでは案内させて。ぜったいに、ふたりが戦う邪魔だけはしない。そこまで案内したら、避難するから」
「うん、それでいいから、早く!」
わたしたちは、それぞれの愛器だけを手に、部屋を飛び出した。
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