第五章 ep7
最後の一音を弾き終えると、一瞬しんと静まった。
その後、大喝采が起きた。
踊りの輪に加わっていた者たちは、はあはあと息をきらしている。
「すごいわ、ミーリャ!」
広間の奥にいたはずのヴァネッサさんが、わたしに駆け寄ってきて抱きしめてくれた。
「い、痛いです、ヴァネッサさん」
あんまり、ぎゅうぎゅうと抱きしめるものだから、息苦しくて仕方がない。
「あなた、やっぱり吟遊詩人の娘なのね! 本当に楽しかった」
「あ、でも、よくある民謡ですよ」
「そうなんだけど、それでも、こんなふうに詩えるのってミーリャだけだと思う」
「えっと、あの、ありがとうございます」
「これでは、もうわたしの出番はいらぬな」
踊りの輪に入っていたセラフィナも少し息をはずませながら、わたしのところにやってきた。
「わたしには、このように、宴にふさわしい曲は詩えぬ」
「セラフィナ……」
確かに王宮で生まれ育ったセラフィナにとっては、こうやって詩に乗って、足を踏み鳴らし、手を取り合って踊ったことはないかもしれない。
セラフィナも楽しかったようで、少し上気した赤い頬が、とても可愛らしかった。
ぱんぱんと手を叩く音が聞こえた。
鳴らしたのはルーデンス子爵だった。
「素晴らしい演奏に感謝する、ミーリャ・ラング殿!」
その声で、再び拍手が巻き起こった。
「さあ、皆の衆。宴はおひらきだ。また、いつもの明日がはじまるぞ、片づけをして、ねぐらへ戻ろう」
その声に、残念がる声があがるのと同時に、そうだなという納得の声も混じる。
わたしは演奏を終えたリュート・オリヴェルの胴を優しく撫でた。オリヴェルもいっぱい詩って満足したのか、今はおとなしくしている。
オリヴェルを布に包んで片づけると、さすがに弾き続けてちょっと凝り固まった肩を少しもんだ。
「疲れたのか」
「ちょっとね」
話しかけてくれたセラフィナの両手には、ふたつのゴブレットが握られていた。
「蜂蜜酒のお湯割りだ」
「お酒?」
「というほどのものではない。ほら見ろ、そこの子どもでも飲んでるだろう」
「そうなんだ」
「喉にもいいらしい」
そう聞いて、わたしはセラフィナから木製の素朴なゴブレットを受け取った。白い湯気がふんわりとたちのぼり、甘い香りがしている。
ふうふうと息を吹きかけて少し冷ましてから、一口ふくむと、甘いながらもほんのりと酸味が広がる。
「このあたりの名産のレモンが絞ってあるらしい」
「蜂蜜にすごく合うね。疲れてるときには、甘いものと酸っぱいものって、すごくいいかも」
「酸っぱいのは嫌いじゃない」
セラフィナもそう言って、一口飲んだ。
「熱いっ」
「セラフィナって本当に猫舌だよね」
「悪かったな。王宮では温かい料理は出ないから、慣れていないのだ。長い廊下を運んでいるうちに冷め切ってしまうからな」
「それは残念だね」
公爵邸もそれなりに広かったけど、厨房で料理を受け取ってから自分の部屋に運ぶくらいの時間なら、なんとか温かいままの料理を食べることはできた。
「わたしたちも、そろそろ部屋に戻ろうか」
蜂蜜酒を飲み終えたわたしたちは、それぞれ自分の楽器を手に、ヴァネッサさんが準備をしてくれていた客間へと帰ることにした。
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