第四章 ep6
一泊目、二泊目は小さな町ではあったけれど、宿に泊まることができた。しかし、そこからは小さな村を通りすぎるばかりで、宿がありそうな場所はなかった。
「ここから先、ルーデンスまでは村もありません。今夜は野宿になると思っててくださいね」
御者席から半身をひねってギルバートがそう教えてくれた。わたしはともかく、セラフィナは宿の固いベッドでも寝づらそうにしていた。この幌馬車の長椅子で眠れるのか、わたしのほうが心配になってきた。
日が西に傾いてきたころ、ギルバートが馬車を止めた。
「暗くなる前に、野宿の準備をしなくちゃいけないんで、今日はこのあたりで」
旅の鉄則だ。日が落ちる前に、水を汲み、火を起こさなくてはいけない。天幕を張るとなればその時間も必要だ。
「もっと冷えるかと思ったけれど、なんとか野宿ができそうね」
ヴァネッサさんが、鍋や食料の入った籠を下ろしながらそう言った。
「雨も大丈夫そうですし。天幕を張るよりも焚火の周りで眠ったほうが温かいかもしれませんね」
「そうね。風がないから、そうしましょうか」
わたしたちが火を起こしている間に、ギルバートは馬車から馬を外し、その馬にまたがって水を探しに行った。
「馬に乗れるなんていいですね」
「乗れないのか?」
セラフィナがそう聞いてきたので、わたしのほうが驚いた。
「セラフィナ、馬に乗れるの?」
「もちろんだ、たしなみのひとつとして、乗馬は必須だったからな」
「王女さまって、そんなことまで身につけないといけないの。大変ね」
「ミーリャ、もし馬に乗ってみたかったら、ルーデンスに着いたら練習すればいいわよ」
ヴァネッサさんがそう提案してくれた。ご実家ではたくさん馬を飼っているらしい。ヴァネッサさん自身も乗馬は大好きだから、教えてくれると約束してくれた。
ギルバートが水を汲んで帰ってきたころには、ちょうど夕食の準備ができていた。それほど手の込んだ料理ではなかったが、ヴァネッサさんが干し肉とジャガイモで簡単なスープを作ってくれた。前の宿で買っておいたパンは少し固くなっていたけれど、温かいスープに浸せば美味しく食べられた。
「ヴァネッサさんって、お料理も上手なんですね」
「まあね。ほら、うちは名ばかり爵位の庶民だから。これくらいはできないと」
「まあ、姉ちゃんくらいの料理の腕だと、どこにも嫁はいけないけどな」
「え? すごく美味しかったですけど」
「こんなの、おれでも作れるよ」
「生意気言うんじゃないわよ、ギル! それにわたしは嫁にはいかないの。ルーデンス工房を継ぐんだから」
「おれが継いでやるから、嫁にいってもいいのに」
「あなたは、自分のやりたいことをやっていいのよ。別に工房を継がなくてもいいし、魔詩師にならなくてもいい。騎士団に入りたいなら、ちゃんと、父さんを説得しなさいね」
そうか、ギルバートは騎士団に入りたいんだ。たしかにギルバートくらいの歳の少年なら、騎士団に憧れるというのもわかる。しかも、ルーデンスは名ばかりと言ってはいるものの、爵位がある。騎士団付属の士官学校への入学資格があるはずだ。
夕食を食べ終わる頃には、すっかり日が暮れ、満天の星空になっていた。
冬の空気は澄み渡って、ひとつひとつの星がくっきりと輝いていた。
何か、音楽が欲しい。
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