第四章 ep4
翌日、ルーデンスの郷からやってきた馬車を見て、セラフィナがびっくりしたような顔になっていた。
「ヴァネッサ、これは馬車か?」
「馬車よ」
「いや、わたしの知識では荷馬車というものだと思う」
「それは、王女さまの知識かしら?」
「……」
『王女さま』という言葉はある意味セラフィナには禁句である。
その馬車は、いわゆる貴族が乗るような箱型馬車ではなく、後部に幌がついた馬車だった。
「セラフィナ、これは荷馬車じゃないと思う。幌の中にちゃんと長椅子があるし」
父さんと一緒に旅をしていた頃は、それこそ荷馬車の後ろに干し草と一緒に乗せてもらうこともあった。それでも乗せてもらえるだけありがたかった。それに比べるとずいぶんと上等な作りだと思う。
「そうよ。後ろの長椅子は、そのまま寝台にもなるんだから」
「ちょっと待て、この馬車の中で寝るのか? 途中の街か村で宿に泊まったりしないのか」
「そうね、二泊目までは宿に泊まれると思うけど、最後の一泊はどうしても野宿になるから、天幕を張ってその中で寝るか、この馬車の中ってことになるわね」
「そうか……」
「やめてもいいのよ」
ヴァネッサが少し意地悪そうにそう言うと、セラフィナの答えは決まってしまう。
「いや、これも経験だ」
「そう言うと思った。ミーリャは大丈夫なの」
「ええ、わたしは吟遊詩人の父さんと旅をしていたことがあるので、野宿とか全然平気です。それに、天幕があるんなら野宿って言わないんじゃないかと」
「あらあら、さすがのわたしも天幕なしで星空の下で眠ったことはないわね」
「姉ちゃん、この荷物全部積んじゃっていいのか?」
御者台から、わたしと同じ歳頃の男の子が顔を出した。
「ええ、お願い。全員行くことになったから」
「姉ちゃんも手伝えよ、ひとりじゃ大変なんだから」
「わかってるわよ、その前にちゃんと挨拶しなさいよ。これ、弟のギルバート」
「これってなんだよ、もう! ギルバート・ルーデンスです。いつも姉ちゃんが迷惑かけてすみません」
「こら、ギル! なんだって」
ヴァネッサさんがギルバートの右耳をつねりあげた。
「何すんだよ、姉ちゃん!痛いじゃないか、離せよ!」
「そんな、ヴァネッサさんにお世話になっているのはわたしたちのほうです。わたしはミーリャ。よろしくお願いします」
「セラフィナだ。これから、よろしく頼む」
セラフィナがそう言ってほほ笑むと、ギルバートの顔が真っ赤になった。さすが王女様。ちょっとした微笑みだけで、人の心をとろけさせるほどの優雅さだ。
「えっと、ミーリャさんと、セラフィナさん。よ、よろしく、お願い…します」
「なんだ、ギル、照れてるのか! 三人は同じ十三歳だ、仲よくな」
ヴァネッサさんは、ばんばんとギルバートの背中を叩き、大笑いしていた。とても仲の良さそうな兄弟で、一人っ子のわたしはちょっとうらやましくなってしまった。
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