第四章 ep3
「仕方あるまい。さきほどヴァネッサが言ったように、食事は外の屋台とやらで取り、まあ、洗濯や掃除はなんとかなるだろう」
「洗濯もの、ため込むつもりじゃないでしょうね……」
ヴァネッサさんのその言葉に、わたしとセラフィナは顔を見合わせた。
わたしもセラフィナが洗濯できるとは思えない。きっと休み明けまでため込み、部屋は埃が積もったままになる可能性が大きい。いや、掃除くらいはふたりで力を合わせればなんとかなるはず。埃まみれの部屋で生活するのは魔詩師を目指す者として、喉にも良くない。
「ねえ、良かったらわたしの実家にこない?」
「良いのか?」
セラフィナの返事は、いかにも嬉しそうだった。
それほど、掃除や洗濯から解放されるのが嬉しいのかと思っていたら、少し違っていた。
「ルーデンスの郷は、ほとんど外の者を招き入れないと聞いているが」
「そうだけど。次期族長が連れて帰るぶんには問題はないわよ」
「そうか、ぜひ一度ルーデンスの魔音楽器工房を見てみたいと思っていたのだ。このような機会、逃すわけにはいかぬな!」
いつも落ち着いて話すセラフィナが、興奮気味にそう説明してくれた。
「魔音楽器工房? ヴァネッサさんのご実家がですか?」
「実家というか、一族で営んでいるのよ。わたしはその跡継ぎ」
「なんだ、ミーリャは知らなかったのか。ルーデンスの郷といえば、良質の木々が育ち、そこに住まう職人たちの技術も高く、魔音楽器を作る工房としては、わがノルド・マーリング王国随一だぞ。ヴァネッサの実家はその功績により子爵の位を授けられておる」
「王女殿下にそうおっしゃっていただけると、光栄の極み」
ヴァネッサさんがわざと大仰にお辞儀をしてみせると、セラフィナはちょっと機嫌を悪くした。
「わたしは、もう王女ではない。そなたの後輩として扱ってくれ」
「ははは、後輩としてお誘いしてるわよ。王女さまの身分のままだと、とてもあんな辺鄙な森の奥にお招きするわけにはいかないもの」
「ヴァネッサさんのご実家、そんなに遠くなんですか?」
わたしがそう尋ねると、ヴァネッサさんは、戸棚から地図を出してきてくれた。
「ええ、北の国境近くよ。それもかなり森の奥にあるの。ほら楽器づくりって木を扱う仕事でしょ。見てもらったほうが早いわね。えっと、王都がここで、ルーデンスの郷はここ」
「結構、遠いんですね。どのくらいかかるんですか?」
「そうね、馬車で三日ってところかしら。実は迎えの馬車が遅れていて、帰れずにいるってわけ」
「そうだったんですね」
「明日には迎えの馬車がくると思うから、あなたたちも準備をしておいてくれる」
「わかりました」
「ああ、楽しみだな」
わたしたちは、ヴァネッサさんの部屋を後にして、荷づくりのために自分たちの部屋に戻ることにした。
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