第四章 ep2
「あら、それで困ってたのね」
ヴァネッサさんの部屋でお茶をいただきながら、わたしたちが帰省しない理由を話すと、すぐに事情をわかってくれた。
「わたしも去年は戻らなかったのよね。でも、あなたたちと違って、一通り家事はできるし、食事は外に食べに出ることもできたしね」
「外って?」
「一歩この魔法音楽院の外に出れば、そこは王都ノルディスなのよ。国中の美味しいものが集まっているわ。というか、あなたたち、もしかして王都に出たことすらないっていうの?」
「ここに入学するまで、王女をやっていたからな。王家の姫がノルディスの屋台で買い食いするわけにはいかぬだろう」
「わたしも、魔詩の暴走が怖くて、基本的に公爵邸の地下室に籠ってましたから」
「セラフィナの理由はわかるけど……。ミーリャの理由、ちょっと怖いわね。詩長ってそんな人なの?」
「ジーク様のこと誤解なさらないでくださいね。小さい頃のわたしって、本当に手がつけられなかったらしくて、仕方なくですよ。公爵邸ではいつもおいしいご飯を頂戴していたので、外に食べにいく必要なんてなかったんです」
「この長期休暇にも戻って来なくていいと言われたわけなの?」
「わたしの意思です。この歳まで公爵邸でお世話になったのですし、これ以上迷惑をおかけするわけにいかないと思って」
「この歳って、まだ十三歳でしょ。普通なら親に甘えてもおかしくはないわよ」
「ジーク様は親ではありません。ご好意でわたしを引き取ってくださっただけで」
「……そうかしら。あなたのことは養い子と公言されておられるけれど。あなたの入学が決まったときには、それは嬉しそうにされていたわよ」
「ジーク様が? 嬉しそうに?」
あのジーク様が嬉しそうに……いったいどんな顔? 八年も一緒に住んでいたけれど、一度も見たことがない。冷静沈着を地で行くような方で、少しほほ笑むことがあるくらいだ。
「ええ、そうよ。わたしとレイモンドが、今年の生徒会長・副会長に決まったとご報告に伺ったときに、『娘をよろしく頼む』って。あんな表情をされる詩長なんて初めてだったから、わたしもレイモンドもびっくりしたのよ」
わたしのほうがびっくりだ。
ジーク様は、わたしに対しては一線を引いて接しているように感じていた。公爵邸の使用人たちとの接し方ともまた違っていたし、確かに少し特別な扱いだったとは思う。入学してからわかったが、どこか師匠と弟子のような関係のほうが、近かったのかもしれない。
亡くなった父さんのことを思うと、ジーク様との距離感は家族や親という存在とはどうしても同じとは思えなかった。
「少し話を戻すけど」
「ああ、はい」
ジーク様の話で、少しぼんやりしていたわたしに、ヴァネッサさんがお茶のお代わりを注いでくれた。
「あなたたち、この長期休暇はどうするの?」
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