第三章 ep7
その声で、わたしとセラフィナは、和弦をかき鳴らして演奏を終えた。
ふたりとも、額には汗びっしょりだった。
「レイモンド、そっちの棚に茶葉があるから、それとカップは四つだ」
「はいはい、わかりましたよ」
ベルトルト先生は、いたずらっ子のようににっと笑って、レイモンドさんにそう言うと、レイモンドさんもやれやれといった表情で、先生のほうをみている。
「それにしても、先生も人が悪いですね」
「なんのことだい」
「この試験、ぼくだって相当難しいですよ」
「え? そうなんですか」
レイモンドさんの言葉に驚いて、思わずそう聞き返した。
「もちろん、ぼくひとりで詩うなら簡単にお湯くらいわかせるよ」
まあ、そこがわたしとは違いますよね。わたしは、ひとりだったら間違いなく天井黒焦げだったと思う。
「でも、もしヴァネッサとふたりで和声を使ってお湯を沸かせろって言われたら、きみたちみたいにうまくできたかどうか……」
「ご謙遜だなレイモンド。多少てこずったところで、できないわけないだろうに」
「そう言っていただけると光栄です。ベルトルト先生」
レイモンドさんは棚から茶葉を取り出し、手早くポットの中に入れると、わたしたちにまでお茶を出してくれた。
「この試験、一年生はちゃんと合格したんですか」
レイモンドさんが一口お茶をすすって、そうベルトルト先生に聞いた。
「ああ、他の生徒たちは、そこの暖炉に火をつけるという課題だったからね」
「え?」
わたしは、意味がわからず、きょとんとしてしまった。
「ベルトルト先生、聞き捨てなりません。なぜわたしたちふたりだけ、試験課題が異なるのでしょうか」
セラフィナが強い口調でベルトルト先生に詰め寄った。先生に対しても一歩も引かないところがセラフィナの良いところでもある。
「だって、きみたち火をつけるくらいわけないだろう、試験とはいえ魔詩は楽しまないと。ちょうど最後の組で、わたしも喉が渇いていたしね」
「なっ」
セラフィナが返す言葉を失っているところに、ベルトルト先生がまるでからかうように右目をつむってみせた。
「この試験でお茶をふるまったのはきみたちだけだよ。王都でもなかなか手に入らない逸品なんだ。それで許してくれるかな」
「先生、お茶をいれたのはぼくですよ」
ベルトルト先生とレイモンドさんはひとしきり笑っていたが、わたしとセラフィナはぐったりと疲れてしまっていた。たしかに、喉は渇いていたので、お茶はありがたかったけれど、お行儀悪く、ぐびっと飲み干してしまったので、逸品だと言われたお茶の味は、よくわからなかった。
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