表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/69

序章 ep2

「我が名は、ギュエル・リン・アドリアン

 その音色に、我が声を重ねよう

 答えよ、リュート・オリヴェルよ」


 その声は、いつもの父親のものとは違っていた。

 魔詩まがうた

 ミーリャは、毎日のように父親の歌を聞いていたが、今耳にしているものが、それとは違うのだと肌で感じていた。


「なんだ、アドリアン」


 父親もミーリャも弦に触れてはいないのに、ビーンという響きが、確かに人の言葉を紡いでいる。


「オリヴェル。頼みがある」

「おまえは、いつも自分の都合の良い時だけに、おれに呼びかけんだな」

「今回は急用でね」

「そのようだな、なんだか熱いぞ」

「うん、火が迫ってる」

「なんだと! こんなところで何をしてる? 早くおれを背負って逃げろ!」

「悪いね。無理そうなんだ」

「おれは、こんなところで燃えかすになんぞなりたくないぞ」

「わかってるよ、だから呼び出したんだ」

 そう言うと、父親はせきこみ、血を吐いた。

「とうさん!」

「ミーリャ、よく聞いて」


「我が声と、我が友リュート・オリヴェルを

この血を継ぐ者に託そう

我が娘、ギュエル・リン・シルフェミーリャに」


「…シルフェ…?」

 ミーリャがたどたどしく尋ねると、父親であるアドリアンが、口元に笑みを浮かべた。

「シルフェミーリャ。おまえの本当の名だよ。でも、この名は誰かに教えちゃいけない。わかったね」

「おい、アドリアン! 勝手におれの持ち主を変えるな! しかも、まだ小娘もいいところじゃないか!」

 リュートの弦が激しく鳴り、アドリアンに文句を言った。唇の端に吐いた血をこびりつかせたまま、途切れ途切れに、アドリアンが答えた。

「でも、もう、ぼくは、きみと…詩えそうにないんだ」

「くそっ…」

「オリ…ヴェル、ぼくの、娘に力を……貸してくれないかい?」

 アドリアンは、ミーリャの手と自分の手を重ねて、力の入らない手で、一つの弦だけを抑えた。アドリアンの左手はもう娘の手に重ねることはできなかった。

「ミーリャ、弾いて」

「とうさん、むり…ひきかた、わかんない」

「一番下の弦をはじくだけでいいから」

「…こう?」

 ミーリャは、親指で弦をはじいた。

「…そう、上手だよ」

 アドリアンにそう言われると、ミーリャは、ただ続けて同じ音をはじき続けた。

「雨の詩、覚えてる?」

「うん」

「一緒に詩うよ」

「うん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ