第三章 ep4
セラフィナの口添えで、座学の試験をすべて口頭試問で受けられることになったものの、試験の厳しさ自体は変わらない。
しかもわたしの場合は、すべてを耳で聞いて覚えるしかない。できるだけ授業中に丸覚えするようにはしていたけれど、聞き逃したところもいくつかあって、どの科目も赤点すれすれの最下位連発だった。
そして、前期試験で最難関と言われる科目が待っていた。
「実技の中でも和声って、ちょっと苦手……」
わたしが思わず愚痴ると、隣でセラフィナもため息をついた。
「わたしもだ」
「え? 意外。セラフィナに苦手な科目があるなんて」
実技でも言われた通りに演奏するのが苦手なわたしと違って、なんでも器用にこなすセラフィナの言葉とは思えない。
「これまで、家庭教師に習っていたからな。みな、向こうからわたしの演奏に合わせてくれた。それでは和声は上達しない」
「あ、そういうことか」
「そういうことだ」
和声は、複数の魔詩を重ね合わせることで、より強力な魔詩を紡ぎあげることに意味がある。王女であるセラフィナの家庭教師たちは、どうしても遠慮がでてしまい、セラフィナの魔詩に伴奏をつけるかのように合わせてしまったのだろう。
「だから、この魔音楽院に入ってから和声を学ぶのは面白かった」
セラフィナはこの王立魔法音楽院の入学とともに王族の身分を返上している。だからともに学ぶ同級生のわたしたちも、同じ魔詩師の候補生という立場で対等に接しているのだ。
「だけどな、ミーリャと一緒に演奏するのは骨が折れる」
「そうだよね……わたしもそれ感じてるよ。ごめんね」
和声の試験は二人一組で受けるきまりだ。そしてその相方はセラフィナ。同室だったからというわけではなく、成績順に首席と最下位、次席と下から二番目というように組み合わされた。もちろん、首席だったのはわたしではなくセラフィナ。ということでわたしの成績も明らか。
わたしの詩い方は、どうしても人とは合わないようで、声を重ねようとしても響き合わないのだ。音程がずれているわけではないけれど、どうにも響きが合わない。
「わたしも、ジーク様に手ほどきを受けていたんだけれど」
「詩長は、和声にもすぐれた技術をお持ちだぞ。教え方の問題ではないのだろうな。ミーリャの詩い方はどちらかというと、奔放というか」
「……父さんの血が出ちゃってるのかな」
「父さん?」
「うん、わたしの父さんね、吟遊詩人だったの」
「ああ、なるほどな」
「なるほどって、納得できちゃう感じ?」
「わかった気がする。吟遊詩人ということは、父君はだれかと詩うのではなく、ひとりで詩っていたのではないか?」
「父君って、なんか恥ずかしいな……ひとりで詩ってたのはそうだね。もちろん、酒場とかで大合唱になっちゃうことはあったけど、それはまた違うし」
「ミーリャは自分が詩いたいように詩っている。ひとりで詩うときにはそれでよいのだがな。魔詩における和声はお互いの音を一つの場所に重ね合わせるようにと習っただろう」
「うん」
実技の授業は大好きなので、座学と同じように丸暗記していても、記憶はより鮮明だ。
「こう、詩の音ひとつひとつを、ふたりで一緒にテーブルに積み上げていくようにって」
「そうだ。よく覚えているじゃないか」
「覚えてるだけじゃだめなんだよね。うまくできなくて……」
遠くでカリヨンが鳴り始めた。
「なんとか赤点にはならないようにがんばるから」
わたしのせいでセラフィナを首席から陥落させるわけにはいかない。
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