第三章 ep2
「あー、もう、なんで魔音理論なんて、あるの!!!」
思わず、口から本音がもれてしまった。手元にある本を開いても、何が書いてあるのか皆目わからない。
「ミーリャ、まさかと思うが、まったく授業についていけてないのか?」
「えっと、先生が話していることは、なんとなくわかるの。でも、試験って、問題用紙に書いてあることを読んで、回答欄に答えを書かないといけないじゃない」
当たり前のことすぎて、セラフィナがきょとんとした顔をしている。
「ここに書いてある問題をちょっと読んでみろ」
セラフィナが教科書をペラペラとめくり、試験範囲あたりのページを開いて、問題文を指でさした。
「……実はね、わたし文字が読めないのよ」
「ふむ」
「え? そんなに驚かないんだね」
「そういえば、わたしはミーリャが授業中にノートを取っているのを見たことがないと思ってな」
ははは、ばれてましたか。
「詩長はそなたに文字を教えてはくれなかったのか?」
「ううん、もちろん、教えてくれたよ。教えてくれたんだけど、どうしても文字が読めるようにはならなかったし、書けなかったのよね。ジーク様も途中であきらめてくれた。それでも、自分の名前だけは、読めるし書けるようにはなったの。それだけで一年くらいかかったけど」
「と、なると文字に対しての適性がないということかもしれんな」
「適性?」
「ちなみに、この問題は、水の詩において、まず最初に心得ねばならぬことは何かと書いてある」
「ああ、確かに授業で習ったような気がする」
「答えは、わかるのか?」
「うん。『水とは形を変えるもの。まず、その水は流れゆくものか、その場にとどまるものか、詩うものの心の中に描かれておらねばならぬ』だったかな?」
「……そうだ。合っている。が、リンデン先生の口真似までしなくても良いぞ」
リンデン先生は魔音理論の先生で、白いあごひげをたくわえた年配の先生だ。男の人なのに、妙にひっくり返った声で話すので、確かに物まねはしやすい。
「授業で先生が話してくれたこと、そのまま覚えようと思って。ほら、わたしってみんなみたいにノートに書いて覚えられないし」
「ちょっと待て、ミーリャは授業で先生が話した言葉を全部暗記しているのか?」
「さすがに全部は無理だけど、大事そうなところはできるだけその場で暗記してるつもり」
その後、セラフィナはほかの科目でも、いくつか質問をして、その後、ちょっと怒ったように、開いていた本をばんっと音をたてて閉じた。
「ミーリャ、ちょっとわたしと一緒に来い!」
そう言って、わたしの手首をつかむと寮の部屋から一緒に出た。
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