第三章 ep1
入学して三か月で、すでに退学の危機。
詩長であるジークヴァルド・ラングの養い子である手前、その顔に泥を塗るわけにはいかないと精一杯がんばってきたつもりだけれど、やっぱり難しそうだ。
何が無理って。
「ミーリャ、明日からの前期試験は、魔音理論からだったな」
そう、前期試験だ。
「そうだったかな……」
「そなたはのんきだな。座学は苦手だと言っていたのに、自信があるのか?」
そんなわけがない。
どちらかというと、すでに退学の二文字が目の前にちらついている。
王立魔法音楽院は、定期的に試験が行われていて、そのうち一科目でも赤点をとった時点で退学が決まるほど厳しい。入学してからわかったことだけれど、一年生のうち進級できるのはわずか半数らしい。
「セラフィナこそ、余裕じゃないの?」
これも入学してからわかったことだが、セラフィナは首席入学だった。実技はわたしが首席だと言っていたけれど、わたしは最後まで弾かせてもらえなかったのだから、本当かどうか怪しい。
その一方、セラフィナが首席というのは、まぎれもない真実。
座学はもちろんのこと、実技でも余すところなくその実力は発揮されていた。
はじめて実技の授業でセラフィナの魔詩を聴いたとき、その場の空気がセラフィナの声に染まっていくのを感じた。
詩っているのは、誰もが一度は耳にしたことがある風の詩の一節ではあったのだけれど、セラフィナのまだ幼さの残る透き通ったソプラノが、ひとつひとつの言葉を紡ぎ出し、風を生み出していた。
実技を担当していた講師ですら、聴き惚れてセラフィナが演奏を終えても、言葉をかけるのを忘れていたほどだ。
「魔音理論は、ここに入学する前に家庭教師から一通り学んだのでな」
「えっと、なら、セラフィナはどうして魔音楽院に入ったの?」
「もちろん、魔詩師になるためだ」
「でも、もう魔詩師としての実力はあるんじゃ」
授業を担当している講師よりも上なんじゃないかと思ったことも一度や二度ではない。
「何を言う。魔詩師になるには、王立魔法音楽院の卒業が条件ではないか」
「でも、セラフィナは王族だし……」
「王族だからこそ、そのような例外は認めてはならぬのだ。違うか?」
「……その通りですね」
こういう時、セラフィナの高貴さが際立つ。
「王位は兄上が継ぐことが決まっているし、このままでは政略結婚の道具としてどこかの国に嫁がされるだけだからな。そのくらいなら魔詩師になって王族としての権利を返上してしまおうと思ったのだ」
「自立するため?」
「そうだ」
その言葉を聞いて、わたしもそうだったと思い起こした。
わたしも、ジーク様に引き取られて幸せだったけれど、ずっとそのまま甘えてはいられないと思った。大人になったら父さんのように旅の吟遊詩人として独り立ちすることも考えたけれど、それではジーク様の役に立つことはできない。
だから、わたしも魔詩師になりたいと思った。
そう、だから退学になるわけにはいかない。
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