第二章 ep5
「ああ、あの、すみません。この楽器、勝手に鳴ったりするんです。気にしないでください」
「いや、気になる。その楽器みせてもらってもいいか」
「おことわりだ!」
そう答えたのは、当人のリュート・オリヴェルだった。
「ちょっと、オリヴェル!」
わたしは押し殺した声でオリヴェルにそう言って、自分の楽器を背に隠した。
「ははは……勝手に鳴っちゃうんですよね。ちょっと、手入れができていないので、後でもいいですか?」
「魔音楽器の手入れができていないとは、魔詩師の候補生としてはいただけんな」
「そうですね……気をつけます」
わたしはそう答えて、ため息をついた。もう、オリヴェルのせいで、変な汗をかいたじゃないの。
「これからルームメイトとしてやっていくのだ。そんなにかしこまらなくてよい」
「と言われましても……王女殿下に対して」
「この学院に入学したからには、わたしもひとりの魔詩師の候補生にすぎない。そうだな。そなたのことはミーリャと呼ぶことにする。だからそなたもわたしのことをセラフィナと呼んでくれ」
「……え、無理です」
「わたしの命だといっても?」
と言われても、命じている時点で、もうルームメイトという関係性じゃない気がする。
しかし、その勝気だけれども愛らしい瞳で見つめられて、さあ、名前を呼んでみろと言っている。
「……セラフィナ」
「うん、いいな。家族以外に名前で呼ばれるのは初めてだ」
「そうですか」
なんだか、言葉のひとつひとつが心臓に悪い。こっちは一介の旅の吟遊詩人の娘なのだから、公爵のジーク様の養い子だっていうことすら信じられない幸運だ。それなのに、入寮初日から王女様とルームメイトなんて、これからの学院生活についていけるのだろうか。
「それとな」
「まだ、なにか?」
「言っておくが、わたしはおまえと同じ十三歳だからな」
「……そうですか」
としか答えられない。どう見てもわたしより、二つ、三つは下にしか見えないのだけれど。
王女様には不似合いな簡素な木製の椅子に腰かけたセラフィナは、王女様らしく優雅に微笑んで見せた。
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