第二章 ep4
「どうぞ」
中から聞こえてきたのは、綺麗なソプラノの声。というか、まるで子どもの声だ。
わたしは、ドアを開け、中に入った。
そこにいたのは、十歳ほどの小さな女の子。
「えっと……?」
王立魔法音楽院の入学試験を受験できるのは十三歳からだ。だからこんなに小さな女の子がいるとは思いもしなかった。
「何を突っ立ってる? 中に入ったらどうだ」
「あ……はい……。ミーリャ・ラングです。これからよろしく」
「セラフィナ・フォン・ノルディスだ」
「はい?」
ノルディスというのは、王族の姓だ。常識がないことに自信があるわたしでも、そのくらいは知っている。
「まあ、そういう反応だろうな。中に入って、扉を閉めてくれ」
わたしは、おそらく王女殿下であるだろう少女の言葉の通りに扉を閉め、部屋の中に入った。
学院寮では新入生は二人部屋だ。部屋の中にはベッドがふたつと机がふたつ、二人が共用で使うのだろう作り付けのクローゼット。それだけだ。
セラフィナ様は、窓側の机に自分の楽器のケースを置き、木製の簡素な椅子にちょこんと座っていた。装いも王女というよりは貴族の少女の普段着のような、上品ではあるけれど華やか過ぎないワンピースだ。
わたしは、扉側の机の上にリュート・オリヴェルを置くと、椅子を引きそこに座った。
「ミーリャ・ラングと言ったか。ということは漆黒の詩長の養い子というのはそなただったのか」
「ええ、まあ……」
「入試ではとんでもない演奏だったと聞いた」
「……」
「実技では首席だったと。悔しいな、わたしが首席だと思っていたのだが」
「あの、わたしは補欠合格の繰り上がり入学ですけど」
「どうして?」
「実はですね、わたし全く筆記ができなくて」
「あの石頭たちは、まだそんなことを言っているのか? 魔詩は、魔詩師が紡ぐその歌声がすべてだ。筆記試験ができたところで、戦場で何の役にたつという」
「ええっ? ちょっと話についていけないのですけど、戦場?」
「まあ、そのうちわかる。その魔音楽器はリュートか? ずいぶんと大きいな」
「大きいんですか?」
自分のリュート・オリヴェル以外の魔音楽器は、ジーク様のものしか見たことがない。ジーク様が使っているのはハープなので、そもそもわたしは、リュートの標準的な大きさは知らない。
「ずいぶん大きいな。わたしのリュートの倍近い」
そう言ってセラフィナ様が自分の楽器ケースを開けた。わたしのリュート・オリヴェルは、父さんが使っていた粗末な布袋を未だに使っているけれど、セラフィナ様の楽器は革づくりのしっかりとしたケースに入っているらしい。
その手で取り出されたのは、小さなセラフィナ様の腕でも容易に抱えられるほどの小ぶりなリュートだった。弦の数は同じ十一本だけれど、これだけ大きさが違うとずいぶん音程は違うのだろうなと思っていると、机の上においていたリュート・オリヴェルが控えめにビーンと鳴った。
「うん、何が鳴った?」
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