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005集まる生存者1

「───あれ?……外でも家でもない。まさか別のダンジョンの中か⁉」



 ボスを倒したら家に帰れると思い込んでいた。

 だが解放はされず、再びダンジョンの攻略をするしかない状況に陥る。

 あまりの仕打ちに怒りで拳を握り締めながら叫んだ。


「なんでまたダンジョンに居るんだよ‼ クリアした俺を外に出せよ、ふざけ……あ、剣と魔石だ」


 ダンジョンらしい地下道の床にボスドロップが落ちている。

 見覚えのある剣と大きな魔石を拾い上げた。


 鞘から剣を抜く。


(ボスから没収した両刃の剣とデザインが同じだ……新品になってる?)


 奪い取った剣と盾はボスを倒した後に消え失せていた。

 あの盾は無くなったまま、ボスが身に着けていた鎧もドロップしていない。

 抜いた剣を鞘に収める。


「このゴツい剣はボスドロップ品で質が良いし、記念に持っておこう」


 自分が使わないからと放置する選択肢はありえない。

 ここはダンジョン、雑魚に武器を拾われて襲われるのは不愉快だ。

 鞘にある長い紐を使って背中側に吊るす。


(このボス魔石は綺麗だから勿体無いけど、銃の強化の為に喰わせよう)


 銃に押し付けながら顔を上げた。

 さて、これから再びダンジョン探索をしなければならない。

 憂鬱な気分を溜息で誤魔化していると───



 遠くで悲鳴が上がった。



「今のは女性の悲鳴⁉ この近くに生存者が居るッ!!!!!」


 指輪の力を使って爆発的なスピードで走り出した。

 両手にMk23とグロック17を握りながら縦横無尽に道を駆け抜けていく。

 途切れ途切れに拾える声を頼りに何とか現場のフロアを発見。


「ここか!」


 突入すると二つの人影が視界に入った。

 床にうずくまり怯える女性に近寄る大人ゴブリン。

 予断を許さなぬ危機的状況だ。


「ボスが出歩くのは反則だろ、Freeze!(動くな!)

「え……誰?」


 女性が気付き反応するが、今は敵への対処が最優先。


 続けざまに英語で『跪いて手を上げろ!』と威圧した。

 振り向いた魔物にMk23でヘッドショット、まずはこちらへ注意を引きつける。

 グロック17では効果が無かったので手始めに通常の45ACP弾を選択。


(一撃で倒せる根拠が無いし、下手に手負いにすると危ないからこれでいい)



 微かな銃声がフロアに響く───

 頭を銃撃された大人ゴブリンは、床に倒れて消滅した。


「え、倒せた?……ボスとは強さが違うのか?」


 救われたはずの女性が絶叫している。

 消滅までのタイムラグによってショッキングな頭を間近で見た結果だ。

 一難去ってまた一難。この騒ぎ声で近くの魔物が寄って来た。


「俺が来た道から敵⁉」

「もうやだああああああああ!」


 女性───よく見たらクラスメイトが、いきなり光弾を発射!

 叫び声に振り返っていなければ避けるのは不可能だった。


「うおっ⁉」


 カッ飛んで来る光弾を指輪の力で猛ダッシュして緊急回避!

 一方、女の悲鳴を聞いて我慢できずに駆け付けたゴブリン達は(かわ)せなかった。

 (まばゆ)い光が、音を立てて炸裂する。


「凄い爆発だ。あ、危ねぇ……」

「なに今の、めっちゃ避けた‼」


 フロアに来た魔物は全て消滅して跡形もない。


「そりゃ回避するよ。と言うよりクラスメイトを攻撃しないで」

「んん?……」

「俺、俺」

「オレオレ詐欺?」

「同じジャージを寝間にして着てるのに⁉ 秋里(あきさと)秋里涼真(あきさとりょうま)


 名前を聞いて女性は反応した。


「もしかして、廊下側の席でいつもじっとしてたりする?」

「思い出してくれ……うん、いやスーパーのチラシとか考え事してて」

「何で?」

「一人暮らしだから、色々と大変なんだよ」

「え、そうなん? 凄いじゃん、へぇ~」


 危機は去り、緊張の解けたフロア内に嘆声(たんせい)が響き渡った。







「生きていてくれてありがとう」

「こっちの方が助けられて感謝したいんですけど⁉」


 光弾を飛ばした魔力の回復の為つかの間の休憩中。

 秋里涼真はここへ来るまでに見つけた犠牲者達の話をした。

 途中から話が脱線しつつも話に一区切りつく。


「死んじゃった人……うちは一度も見てないけど、やっぱいるよね。ゴブリンとかホブゴブリンって怖すぎてマジ無理!」

「ホブゴブリン?」

「さっき秋里君がぶっ殺した奴」


 どうやらゴブリンに詳しいようだ。


「大人ゴブリンじゃなかったんだ、ゴブリンとかTRPGでしか知らないし」

「ゴブリンは育ってもゴブリンじゃね?……足の裏、痛いん?」


 凄いスピードで走り続けて秋里涼真の足裏にはダメージが蓄積していた。



「助けてくれたお礼に、今から聖女の喜世川有栖(きせがわありす)が回復魔法で癒したげる!」



 祈るように手を組むと淡い輝きが立ち上り、光が秋里涼真の足へと降り注いだ。

 あっという間に痛みが引いていく。


 まさに魔法のような光景だった。


(チア部のリーダーで、我が校が誇る美少女で……しかも聖女様か~)


 元気に微笑む日焼けしたクラスメイト。

 彼女の肢体は猫科のようにスポーティーながら肉感的で目のやり場に困った。

 去年のジャージの下から成される自己主張の破壊力!


 視線に勘付きドヤ顔の聖女様は手で自慢の長い黒髪をなびかせる。


「もう治ったよ、ありがとう。喜世川さんのジョブって聖女なんだ?」

「そーだよ。聖女と戦乙女!」

「二つも⁉」

「前のダンジョンボスを倒した後で選べたじゃん?」


 あの時、秋里涼真は力よりも記憶を保有する権利を望んだ。


「あれか~、帰れると思ってたし記憶の方にした。それに俺にはコレがあるから」

「銃を出したり消したりいいなー、空間魔法って当たりじゃん! 何のジョブ?」

「空間魔法?」


 誤解があったので秋里涼真は自らのジョブ〈ガンナー〉の説明をした。


「その銃、ダンジョンで拾ったやつじゃないの⁉……うちでも撃てるかな?」

「銃弾の補充は気にしなくていいから試しにグロック17をどうぞ」


 銃を受け取ろうとするが、喜世川有栖の手をすり抜けてしまった。

 声を揃えて驚く二人。


「俺の銃って他の人は触れないのか、安全に攻撃が出来て便利なんだけどな。あ、雑魚ホブゴブリンが歩いてる」


 試しにグロック17でヘッドショットすると、一撃では倒せなかった。

 血走った目に手を振りながらMk23の45ACP弾でとどめを刺す。


「射撃能力エグ過ぎ!」

「ゴブリンより手強いよな。身長があるから歩幅とリーチも長いし近づけさせない戦い方をしたい……喜世川さんって普段はどうやってゴブリンを倒してるの?」


 光弾を飛ばす〈聖女〉のスキル【破邪の祈り】はコストが重いと言っていた。

 気軽に聞いた質問に、喜世川有栖は自分の冒険譚を初めから語っていく。


「実は話を盛ってたり……する?」

「ホントなんだって!」


 歩き回っているとゴブリンに見つかる形で初戦闘。

 だが、走って来たゴブリンは喜世川有栖の目前でズッコケて首を自ら折った。

 恐怖に固まり状況に流されるまま〈聖女〉のジョブを獲得している。


 この戦闘で喜世川有栖は武器も手に入れていた。


「いい感じの木の棒がドロップして、それを武器にレベル上げしてたんだけど」


 彼女の悲劇の始まりでもある。

 非常時の心構えが既にあった喜世川有栖はゴブリン狩りを始めた。生き残る為に必要な行動を難無く繰り返してレベルも上げ、使い道は無いが魔石も拾いジャージのポケットへ。ダンジョンでの活動は問題なく順調だった。

 しかし、それは順序立てて起きた事態に対応したからに過ぎない。


「こっちの世界の事って、あっちで覚えてないじゃん? 起きたらベッドルームに血まみれの棒が落ちてて宝石……魔石だけど、沢山あって───」


 早朝に悲鳴を上げた喜世川有栖。

 彼女が珍しく学校を休んでいた理由はダンジョンのせいだった。

 事件性を考え警察にも来てもらい、情報は学校にも秘匿。


「木の棒を警察の人に渡して以降は、ゴブリンとの戦いを避けてボスだけ倒した」

「もしかして光弾?」

「当たり前じゃん!」


 割と綱渡りである。

 だが実際に喜世川有栖はダンジョン最下層のボスを撃破してここに居る。

 開幕ブッパする豪気な女の子に勝利の女神達もニッコリ。


「だったらボスが持ってたこの剣なんてどう?」

「秋里君が戦ったボスホブゴブリンって、剣持ってたん⁉」







「うちが戦ったボスは腰蓑(こしみの)だけした無課金っぽい見た目だった」


 軽い会話をしながらのダンジョン探索。

 剣の適正を持つ〈戦乙女〉の喜世川有栖は、抜き身の剣を振りながら歩く。

 人と出会い孤独から解放された反動でご機嫌な気分になっていた。


「でね───」


 会話が止まる。

 曲がり角を曲がるとホブゴブリンが地下道の中腹辺りに何体も集まっていた。

 喜世川有栖は、サッと秋里涼真の後ろに隠れるとジャージを掴む。


「喜世川さん?」

「デカいと怖いじゃん。真ん中のやつ剣持ってるし、これよりショボいけど……」

「ここからMk23で倒すよ。サプレッサーとサブソニック対応45ACP弾を使って」


 まだ気付かれていない、先制攻撃のチャンスだ。

 今更こちらの銃撃に気付いても、相手が走って来ようと結果は変わらない。

 ホブゴブリン達は二人が立つ場所まで辿り着けずに全滅した。


「もうやっつけた‼ それにしても秋里君チート過ぎない?」

「銃の腕前は訓練した俺の実力だから」

「マジで⁉」


 のんびり話していると、力強い叫び声がした。



「どんどん来やがれ、全員ぶっ飛ばしてやるぜッ!!!」

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