004バイバイ日常4
「今までと違う……何だ、この大きな扉は?」
階段を下りると小さな部屋に着いた。
これまでの階層と違って部屋に通路は無く、赤い重厚な扉が一つだけある。
ゴブリンが居ないけど人も居ない孤独な空間。
「どうも見ても出口とは思えない扉。この先でボスが待ち構えているんだろ?……今の俺が勝てるのか?」
ヘッドショットでゴブリンを倒し損ねてピンチになったばかりだ。
(レベル……いや、銃の攻撃力か。そうなると魔石を集めて───あ!)
そこで〈ガンナー〉のジョブ特性を思い出す。
成長によって使える銃が増えていくのだ。
「結局レベルなのか、だったら上げないとな。魔石を銃に喰わせるのも続けるぞ」
グロック17より強い銃を使えたら単純に攻撃力が上がる。
戦いの勝敗は武器が左右する。
そこで、ふと───
「武器の獲得手段がまともに無い場所だから〈ガンナー〉のジョブを貰ってなきゃ俺はここまで辿り着けなかったんだろうな……」
実際に亡くなった人を何回も発見している。
初めての戦闘は、背後から不意打ちでゴブリンを襲って何とか倒せた。
俺が生き残れたのは運良く状況が整っていた結果でしかない。
「こんなの理不尽だろ、強制的に放り込まれるし悪辣だ。人だって死んでる!」
憤りを募らせながら階段を引き返す。
残りの未探査領域を調べつつ、レベル上げと銃の強化だ!
やるべき事は実に明白。
「挟み撃ちのアクシデントも経験したし、もう戦闘で冷静さは失わない!」
◆
覚悟を決めてからの探索はスムーズだった。
理由は、宝箱から入手していたアンティークな指輪にある。
装着すれば途轍もない速さで走れるようになるのだ。
「軽く走っても全力疾走よりスピードが出ているぞ。体感で二倍は言い過ぎか? けど測りようがないもんなぁ」
この指輪は戦闘でも役に立った。
例えゴブリンに接近されても、サッと逃げて一瞬で距離を離せる。
俺は遠距離攻撃と素早さでゴブリンに対して無双した。
(こういう強さもあるんだな。ゲームで逃げながら撃つ戦法、引き撃ちだっけ?)
「もう挟み撃ちでも怖くない。機動力は戦闘力だ」
そうして階層を調べつくした俺の手には新しい銃が握られている。
〈ガンナー〉に追加された銃はMk23。大型の自動拳銃で威力も凄そうだ。
頭の中に入ったMk23の情報を早速チェックする。
45口径の大きさなので弾数は12発と9㎜のグロック17よりも少ない。
その代わり、頑強な銃なので45ACP弾を強化した高威力の銃弾でも使用可能!
追加された今度の銃は、対応する好きな銃弾を選べるらしい。
(銃に負担がある弾を選ぶと、ガンスミス改造状態で呼び出せるのか~いいね)
サービスなのか、サプレッサーとLAMを装着させた状態にも出来る。
分かりやすく言えば消音器とレーザー照準モジュールのオプションパーツだ。
銃に色々と装着すれば、見た目の巨大さは更に増す。
「お、ゴブリンが丁度現れた。なら早速テストだ!」
曲がり角から姿を現した団体に銃弾を変えながらの戦闘開始。
まずは通常の45ACP弾でゴブリンを撃つ。
「ただの45ACP弾でも、グロック17より強いのかも?」
俺が呼び出すグロック17の銃弾は、市販品の9mmLugerで固定されている。
(9mmNATOより少し威力が低いんだっけ? こっちも自由に選ばせろよ)
続けて45ACP+P弾、45スーパーACP弾、450SMC弾、460Rowland弾───
「おお、ナイスな威力だ!……倒すと消滅するからグロいシーンは無しっと」
ヘッドショットでゴブリンを倒していく。
左手にもグロック17を持ち、今の俺は念願の二丁拳銃スタイル。
ウキウキで銃撃してると他のゴブリンが増援に現れた。
グロック17で牽制しつつ、身を守る盾をMk23でそのまま撃ち抜く!
ポリスは場所によって10㎜グロックを携帯する。
何故ならば、ホッキョクグマにも効果があるからだ。
460Rowland弾は、その10x25mmノーマ・オート弾よりも強い‼
「反動軽減装置が付いてると撃つ時の衝撃が軽くなっていい。サプレッサーの装着が出来ないのが、460Rowland弾を使う時の欠点だな……」
増援のゴブリンは銃弾を盾で防ごうと必死だ。
しかし、発射された460Rowland弾は盾を一撃で粉砕していく。
「この銃なら簡単に盾の破壊が出来る。あの盾それほど質が良くなさそうだし」
それでもグロック17の銃撃には盾が機能していた。
Mk23と.460Rowlandは、怪物と戦う男の為にあると言っていい。
「これが武器の威力の差か、今の俺だったらボスも倒せそうだ。レベルも上がり、魔石を喰わせ続けて強化したこのMk23があれば───」
◆
覚えた道を疾風のように移動してボス部屋へ続く扉の前に戻った。
「この指輪があるとマジで速いな。どうせならスタート地点で入手したかった……速く走れる代わりに足の裏が痛ぇけど」
ダンジョンで宝箱を二回見つけて、指輪とポーション一瓶を手に入れた。
だけど生存者には一度も出会えなかった。
俺は生きて赤い扉の前に居るが、やるせない気持ちでいっぱいだ。
「ボスさえ倒せばこの状況も……今から全て終わらせてやる‼」
赤い扉を押し開けていると、急に体が中へと吸い込まれた。
気付けば体育館サイズの大きな部屋の中央に居る。
「覚悟を決めてたけど吸い込まれるのは心臓に悪いし怖ぇよ!」
辺りを見回して様子を窺がっていたら、遠くから大人の人影が近づいて来る。
「緑色……大人のゴブリンか? 見た目からして凄く強そうなんだが」
剣と盾を持ち、革鎧で身を固めた巨漢だ。
歩いていたボスは、剣を振り上げ急に距離を詰めて来た。
速いッ!
「うおおおおお⁉」
ビビった俺は条件反射で逃げた。
全力疾走して振り返る。
(指輪のある俺の方が圧倒的に足が速い!)
「顔が怖ぇな、大人ゴブリン」
平常心を取り戻した俺は、右手のMk23で頭を撃つべく銃を構えて───
「撃ってないのに盾でガードした? 初対面だぞ、まさか銃を理解してるのか?」
ダンジョンのボスは、ダンジョン内の出来事をリアルタイムで知る事が出来る。
このボスはゴブリン達の戦闘で銃を学んでいた。
「ゴブリンのより装備の質は上等そうだが……試してやるよ!」
そのまま盾を銃撃してやった。
何発か撃つが、盾は材質が頑丈なのかMk23の銃弾を防ぎ切った。
盾から顔を出して大人ゴブリンはニヤリと笑う。
(いい盾だな、見た目通りかよ。煽りやがって)
Mk23のマガジンを取り外し再装着、減った弾丸を回復させる。
そして再びヘッドショットを狙った。
当然、盾で防ごうとする大人ゴブリン。
それを今度はグロック17で撃ちまくりつつ、Mk23で片足を銃撃した。
「グギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
「ガラ空きだぜ?」
悲鳴を上げる大人ゴブリン。
倒れるまで何発も片足に銃弾をブチ込む。
460Rowland弾の威力は十分だ!
(効くには効いてるが、想像してた程のダメージでもなさそうだな)
グロック17で銃撃するが、肌を狙っても皮膚を突き破れない。
「おいおいマジかよ? Mk23を得てからボスに挑んで正解だった。この感じだとノーマルの45ACP弾で撃ってもグロック17と変わらないんだろうな、サンキュー460Rowland弾」
肝を冷やしながら両方の残弾数を回復させる。
大人ゴブリンは片足が大怪我で上手く立ち上がれず、今も藻掻いていた。
(飛び道具は持ってなさそう。あの見た目と武装で魔法も使えます、とかは無い。そして、多分こいつも生命力がとんでもなく強いはず……)
今まで戦ったゴブリンのタフさ以上と想定する!
そこからの戦いは一方的だった。
両手両足をMk23による銃撃でズタボロにされ横たわる大人ゴブリン。
剣と盾は没収、鎧は脱がせるの無理だし着たくないから諦めた。
「よし、これで安全に部屋を探索だ。物陰とかに何か落ちてないかな?」
好奇心丸出しでボス部屋の中を見て回った。
しかし、特に価値のありそうな物も無く肩透かしに終わる。
文字や文化的な品物すら見当たらない。
「ここは西洋の城の中っぽい雰囲気があるな。何を参考にしてるんだろう?」
安全確保もしていたから社会見学を楽しんだ。
石造りの建築を隅々まで見終わって呻き声を上げるボスの場所まで戻る。
「後は止めを刺すだけ、取り上げた剣と盾が消えちゃうのかどうか……」
俺はボスの頭をMk23で撃ち抜いた。
パッと景色が切り替わる。
空間全体が真っ白で、地面は無く、俺の体は宙に浮かんでいるかのよう。
例えるなら呼吸の出来る海の中。
「あー、奪った装備が消えてるな。いけると思ったんだが」
手から消失して残念がっていると、声が何処からか聞こえる。
何を言っているのか分からないが言葉の意味を不思議と理解する事が出来た。
いつまでも聴いていたくなる声色が脳内に響く。
『新しい力と、ここで得た力と記憶を保有する権利、どちらかを選べ』
意味的にはそう質問されているらしかった。そんなもん───
「今持っている力と記憶の保有を選ぶに決まってるだろ!!!!!」




