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003バイバイ日常3

「俺は、今日も元気に学校へ行って日常生活を満喫していた?」



 階段を引き返して元居た階層に戻ったら、視界が突如ブレる。

 起きた現象は一瞬で終わったが───


 いつも通り日常を過した記憶が、頭の中に生えてきた。


 この場所に囚われずに過ごす木曜日。

 部屋のベットで起きて、いつも通り高校に行き、何事もなく帰宅する。

 夜はベットに転がりスマホを弄って、先ほど就寝したばかりだ。


(寝た瞬間ここに居る⁉)


まばたきしたら一日が経過していた……そんな感覚だ。しかも、ここでの出来事を向こう側では憶えていないのか?」



 生えてきた記憶を確認していく。

 丁寧に振り返ると、気になる部分が三つあった。


 まず、ここは現実とリンクしている。

 目覚めてジャージの汚れに絶句する。記憶は無いが、何時間も戦闘や探索をやっているので当然だ。胸ポケットに入れた残りのポーションは、一度封を切ると蓋が出来ないから全て零れている。それを浴びて探索中に負った傷は全て消えた。覚えのない謎の綺麗なビンを訝しんでいたが、家の鍵は全て閉まっており盗難などの事件性も無く、洗濯と風呂で忙しくて頭の片隅に追いやってしまう。

 これらを踏まえると、身に付けた物は芋ジャージ同様に行き来が可能。


 次が、朝のニュースでの特集───大勢の人が寝室から消える事件。

 ここのダンジョンが関係してそうな気がする。一週間前からSNSで騒がれていたが、我が母校では犠牲者が出てないので身の回りの誰も信じていない。俺も半信半疑の噂で気に留めておらず、当事者となった今では後悔をしている。調べていたら何か役に立つ情報があったかもしれない。

(噂がガチなんて、俺には見抜けなかったよ……)


 最後に、クラスメイトでチア部のリーダーが珍しく学校を休んでいた。

 家には居るらしく、ご家族からの電話があったと朝のホームルームで担任の先生が語っている。いつも元気でスポーツ万能、陽キャな日焼け美少女に一体何が……クラスのムードメーカーである彼女が居ない教室は、実に味気ない。

 深呼吸をして肩の力を抜く。


 記憶が急に生えて戸惑ったが、情報の整理は出来た。



「何で今日は休んでたんだろう? まさか、俺と同じ状況下で……いや、ここでの記憶が無いはずだし、学校を休む理由は別なのか───む! ゴブリンだ、おはようございま~す!」


 小走りで近寄りヘッドショット、考え事をしている時は体を動かすのが一番。


(そういや、飲みかけポーションはもう無いんだよな)


「折角の回復手段を失ってしまった。……まてよ、だったらドロップアイテムの刃物は何処へ行ったんだ? 手に握ってたけど、寝室には持ち込んでない」


 魔石は銃に喰わせて既に無い。

 辺りを見回していると、階段の手前に刃物が転がっていた。

 少し歩いて落とした刃物を拾い上げる。


「そこにあったのか。持っていけたポーションと刃物の違いは何だ?」


 刃物は手に持ってた、ポーションは胸ポケットに入れていた。


(驚いて思わず落としたとかか?……恐らく、身につけていなきゃ駄目なんだ)


 ここの事を手探りで一つずつ理解していく。

 難しく考える必要はない。


「生えてきた日常の記憶で欝々とした気分はリフレッシュ出来た。疲労感や眠気が消えているし……空腹感も無い、この場所へ来た当時に戻った状態だな。ここだって現実、日常側で休息したようなもんか。よし、これでまだまだ俺は頑張れる!」


 この階層の未探査エリアを踏破するべく走り出す。

 調査はアクシデントも無く終わったが、床に両手をついて打ちひしがれていた。



「ゴ、ゴブリンにしか出会えない……」



 ここには俺以外の生存者は居ないのだろうか?


 後ろ向きな不安が徐々に大きくなっていく。

 孤独は感情の乱高下を激しくさせた。


「もう確認も済んだし、見つけた階段までサッと戻るか。下の階で戦闘中の生存者が居る可能性だって、まだ……あるさ」


 最短ルートを数十分で戻る。

 道を覚えてしまえば、このくらい慣れたものだ。


「───よし、行くぞ!」


 次の階層から出るゴブリンは、武装して危険度が増している。

 しかもパーティを組んでいるから囲まれないように注意しなければならない。


(緊張感を大切にしないとな……)


 階段を降りながら気を引き締めた。

 下に到着すると、まずは階段を降り切らずに周辺の様子を観察する。

 三匹でパーティを組んだゴブリン以外は見当たらない。


(ここから狙えば……あんま変わらんか、身動きが逆に取り辛い)



 銃で狙いながら階段を降りきった。

 それと同時に命をかけた戦いが始まる。


 ゴブリン達にとっては突然現れた敵からの襲撃。

 早速ヘッドショットで一匹が脱落し、残った二匹がこちらに振り向いた。

 刃物を掲げて走り出すゴブリンから十分に距離が離れた状況───


 背の小さなゴブリン達は、体格に見合った足の長さしか持っていない。


 人間より身体能力が高くても、二匹は道半ばでヘッドショットを食らう運命。

 あっという間にゴブリンパーティは壊滅した。


 この階層でも落ち着いて戦うなら大丈夫だろう。


(曲がり角とかで急に出くわさなきゃ、ここでも楽に勝てるんじゃ?)


「やはり遠距離攻撃は強い。このグロック17があれば、俺は負けない!……そして俺のジョブ〈ガンナー〉には兵站を気にせず撃てる強みがある!」


 取り外したマガジンを再装着、残弾数をフル装填の状態に戻した。


 ヘッドショットは一撃必殺‼

 戦闘にも自信がつき慢心したのが悪かったのか、この数十分後に危機が訪れる。







 一本道を進んでいると運悪く挟み撃ちの状況に陥った。


 前方の丁字路から現れた三匹のゴブリン。

 そして、進んできた道の後方に突然ポップするゴブリン四匹パーティ。

 約十メートル圏内に、合計七匹という数の暴力。


F■■■ YOU(マジふざけんな)。さっきまで背後には誰も居なかっただろ、反則だぞ! こうなりゃ前方の小さな頭から吹っ飛ばしてやる!!!!!」



 今まで通りヘッドショットで片付けていく。

 しかし、二匹目のゴブリンが頭部への銃撃に耐えて即死を(まぬか)れた。

 ゴブリンをヘッドショットの一撃で倒せなかった初の事例。


(また下手になったか俺⁉ それとも奴の頭蓋骨がオーダーメイド???)


 アクシデントでパニック寸前だが、今は命を取り合う真っ最中。

 フラフラ状態のゴブリンへ再び銃口を向けた。


「俺のヘッドショットは、おかわり無料だあああ!」


 ゴブリンは木製の盾で自分の頭部を守った。

 盾は銃弾を防いで破損するが、あと数発は耐えそうである。


「おいぃぃイ、それズルくねぇか⁉」


(そういや盾を持ってたんだ……この階のゴブリン達は)


 状況をリカバリーするべく銃で更に撃つが、貧相な盾で粘られる。

 このゴブリンパーティのタンクは優秀だった。



 カチッ、カチッ、カチッ。


「壊れた⁉ じゃなくて、弾切れか‼」


 もたつきながらマガジンを排出して再び銃へ押し込む。



「だぁああ、反対側の奴らがダッシュで突撃して来やがった⁉」


 タンク役となったゴブリンが気を引いている内に他が動く。

 隙を探っていた背後のゴブリン達が武器を振り回しながら走って来る。

 対応を誤れば死に直結する絶体絶命の窮地(きゅうち)


(頭を狙うと盾でガードしやがった。学習するのなら逆手に取ってやる)


 頭に銃口を向けてから、即座に腹部へ発砲。

 四匹パーティの半分が即効で走る元気を失った。


 残り半分は、状況について行けず隙だらけだったのでヘッドショット。


「銃の威力は問題ないよな、個体差か?」


 三匹のゴブリンには接近されたが、左手の刃物で威嚇しながら銃撃する。

 頭と腹、どちらを盾で防ぐか混乱する三匹。


 銃を理解していないゴブリン達は、足を撃ち抜かれて地面に転がった。



「っしゃあ! リロードからのお掃除タイムだ」


 マガジンを手早く操作して再び銃弾をフル装填!

 落ち着いて負傷したゴブリンにトドメを刺して回る、そして気付いた。


「この階層のゴブリンは、最初の階層に居たゴブリンよりも生命力が高い?」


 会敵時には頭を狙うが、こういう時は体を撃つ。

 すると倒すまでに必要な銃弾が明確に多く必要だった。

 ヘッドショットで倒し続けてきた弊害と言える。



「階層を進むと敵が強くなるのか? その結果、一撃で倒せないのが出たと……で、学習もされちゃう。俺は銃で初見殺しをやって楽に勝ててただけか」



 銃の威力は魔石で上昇させられる、強化の必要性を感じた。

 通路に散らばったドロップ品の数々を眺める。


「もう魔石だけ拾うか。この刃物も今後は使わないだろうし、盾も邪魔だ」


 そもそも敵を近づかせてはいけない。

 七匹分のドロップから魔石だけを拾って銃に喰わせると探索を再開する。

 丁字路に差し掛かり人の声が聞こえた気がして夢中で走った───



「誰も居ない……道の真ん中に宝箱⁉ あっちには下へ続く階段がある!」


 前に見た宝箱と同じ物である。

 今回は何故か道の真ん中に鎮座していた。


「先に宝箱を開けるか。側面に移動して……」



 宝箱を横から開ける、今回も罠は無かった。


 中には厳かな気配のする指輪が一つだけ。

 一枚の羽をモチーフに装飾された古めかしいアンティークなデザイン。

 手に取ると、指輪の雰囲気はフレンドリーなものへと変わった。


「嫌な感じは……しない、むしろ御守りっぽい神聖さがある」


 指輪を装着、即外す。

 問題なく付け外しが出来た。


(呪いの指輪じゃなさそうだし装着したままにしよう。何か御利益があるかも)



「後は、この階段だな。一度次の階層を覗いて確認しておこう」

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