047ようこそ地球へ3
「秋里君、大丈夫?」
大丈夫です───
畳の上で横になった秋里涼真が弱々しく答える。
現在、四人とコボルト達は風雲コボルト城の天守閣で寛いでいた。
しばらく経って領主オッホー率いる大勢の領兵が到着したが、秋里涼真によって僅か二十秒で築城された第一階層があれば包囲されても休めて快適。い草の香りが気に入ったコボルト達も微睡んでいる。
日本のお城は異世界でも鉄壁だ!
死海のように人が浮かぶ塩分濃度で広大な箱掘。
切込接の見事な石垣が続いてプロペシルワムの町がすっぽりと入る程の広さ。
漆喰の壁の美しい白さは、一度見れば誰もが忘れられないだろう。
城外と繋ぐ大きな木橋に檜を使って丈夫さと見栄えを両立。門を潜ると高低差のある連郭式、本丸は一番高く複合式の天守があった。
天守には鯱の代わりに海老反りの金コボルトが腕を組んで大地を見下ろす。
この金コボルトは、特定地点事に説明音声を流す像としても設置済みだ。
天守から外を眺めていた里長が口を開く。
「包囲されておりますが……籠城戦をしなさるのか?」
「秋里が急に城を建てて、何が何だか我々も把握してないのだ。済まない」
エミリーに頼んで城を建てる際に、秋里涼真は魔力の大半を使った。
安静に休んでいればジョブ〈コレクター・オブ・デス〉自体に魔力自動回復:小が内包されているので時期に回復するだろう。
兎洞雄之助は、何も説明せずに城を作って倒れた秋里涼真を見る。
「こいつが作ったなら普通の城じゃねーんだろ? のんびりと休憩してようぜ」
◆
「この砦は何だ⁉」
領主が雇った斥候から驚きの情報が届く。
鳥の足に括られた書によれば、コボルトは巨大な砦に籠城したとあった。
確かめるべく町で大量の魔物除けを購入して領兵だけで出発する。
ギルドが亜人差別を理由に冒険者の処罰と再依頼を拒否したから止むを得ずだ。
そして森の中層を突破した先で実際に風雲コボルト城を見て、度肝を抜いた。
「斥候が言うに砦は急に現れたとあるが、元から隠されていたのではないか?」
「幻術か何かで偽装していたかと。この手の分野はデケムの影を頼りたいですが、まさか違約金を払ってまで依頼の放棄をするとは……」
領地から呼び出された連隊長は不穏なものを感じていた。
一見無敵なデスポティック・サーペントは連携して戦えば森の奥へと追い帰せる魔物なので、討伐が無理でも問題など起きない。
それが───
ブライ大隊長を含んだ二番隊の多くが行方不明な上に、三番隊の大隊長が殉職と想定外な形で戦力が欠ける異常事態。
(どんな仕事でも金さえ積めば請負う、あのデケムの影が何故……何があった?)
「声こそ厳つい男だったが見た目も華奢だし火傷が酷いからと顔も隠す。それでも凄腕と聞いたから雇ったのだ……臆病な連中め!」
「デケムの影からの違約金がなければ、魔物除けを買い占めるのが不可能でした」
「何がどう転ぶか分からんものだな連隊長」
奇跡的に領兵達は損害軽微で風雲コボルト城まで辿り着く。
事前に秋里涼真が色の付いた風で魔物を怖がらせ散らせたのも大きい。
その領兵達は今、風雲コボルト城の周囲を調査していた。
「こちらが包囲しているにも関わらず、コボルト側の兵が現れない……門から突入させますか?」
「お前に任せる!」
(コボルトと戦うのを楽しみにしていたブライは未だ行方不明か……)
「与えた大隊長の地位を捨てて逃げるような奴ではない。どこへ行ったのだ?」
◆
「わっ⁉ なんか立体映像が現れたんですけど!」
「始まったな」
「「秋里⁉」」
ぐったり寝ていた秋里涼真が起き上がる。
コボルト達は覚えたばかりの正座をして説明を待っていた。
「秋里君、これ何なん?」
「この風雲コボルト城は、三つのステージから構成された守りの城なんだ。俺達は領兵を殺せないから苦肉の策でね」
「コボルトの隠れ里では殺したと聞いたが?」
「人は、人を殺してはいけないんですよ生徒会長」
「法律の話でもやりてぇのか?」
兎洞雄之助からの怪訝な質問に、秋里涼真は首を振った。
そしてゆっくり目を開く……赤い瞳、使徒の目。
「人間の作った法律は関係ない、神がそう決めたから」
「めっちゃ目が赤いんですけど⁉」
「俺はGrade8……中二の時に神様からスカウトされて使徒になったから、咎人を殺すのを許されている」
「咎人とは何なのだ? 秋里」
「神が世界から取り除くべきと判断した人。この赤い目で咎人の判別が出来ます」
秋里涼真が自分の過去を手短に言った。
ダンジョンや異世界があるのなら、やはり神様も実在するのだろう───
一緒に聞いていた里長の老コボルトが涙ぐむ。
「貴方様は、神が我等を救う為に遣わされたのですか?」
「ワフン!」
「ワンワン」
コボルト達は興奮した。
日々の祈りは、天に通じていたのだと!
「だから俺は天使だって前も言ったよ?」
「お前が天使ってのもなぁ……」
「秋里君、咎人がどうとか言ってニュースになるようなテロ事件はしないでよ?」
喜世川有栖が上目遣いで探るように聞いてきた。
「テレビで前にやってたやつ? そういうテロリストを俺は狩る側なんだよ多分」
「そうなん? ふーん、そういや聞こうと思ってたその荷物」
「これなら超常対策室にお土産。異世界の剣!」
剣が二本、一本はエミリーが山で拾った三番隊の大隊長の遺品だ。
「武器防具屋で一人だけ外出て帰ったら持ってたけど───」
「……路地裏で拾った」
「「嘘つけ、秋里!」」
実に高そうな大隊長の持っていた剣が二本。
「お、俺が嘘ついてる証拠でもあるの?」
「秋里君が嘘つく時って、うちら分かるから!」
観念した秋里涼真がブライ大隊長に絡まれた経緯を話す。
「やっぱ噂通り強かったか?」
「んー、弱くはなかった」
「そんなもんか」
「……え、そんだけ? 秋里君、襲われたんだよ⁉」
「ピンピンして帰って来てたろ?」
真剣な表情で城ヶ崎一夏が聞く。
「殺したのだな? あの剣舞は……その時のものか」
「絡まれる前に先手必勝みたいな? とこも正直あります」
「……殺す以外は、無かったん?」
感情のコントロールに気を付けながら、秋里涼真は素っ気なく返事する。
「命乞いする咎人を見逃したら後で当時のクラスメイト達を目の前で殺されてさ、命の優先順位を間違える気はもうないよ」
「ワン⁉」
気不味い空気をコボルト達の興奮が吹き飛ばす!
立体映像には、アスレチックをクリア出来ずに水へ転落した領兵が巨大ナマズの腕に捕まれて沈む様子が映し出されていた。
視聴するコボルト達は夢中で食い入る。
「え、死んだ? 今の、うちらがオーガ戦の前に狩りまくってたやつ?」
「ナマズに捕まって水に沈むと、外の水堀に浮かぶようになってるんだ。罰としてペナルティーがあるけど死にはしないから」
「絵面が怖ぇーよ。チャレンジしてる連中は堪ったもんじゃねーだろ、コレ」
「外の水堀から石垣を登る等の不正は、どう対処するのだ?」
「そういうのは転移トラップで即アウトです。夕食の時間だし町に行って来ます」
すっかり回復した秋里涼真は町へ転移した。
立体映像の領兵が『俺達は一体何をやらされているんだー!』と叫んでいる。
箱掘から救助した領兵は、最早使い物にならない。
未だ攻略が進まずにいた風雲コボルト城だが───
「ただいまー。コボルト達も居るし沢山買ってきたよ~」
秋里涼真が大量の食材を袋に入れて帰ると、みんな立体映像に見入っている。
「見て見て、第二ステージに進む人が出だよ秋里君。立体映像も二つ目あるし!」
「領兵も武器盾の所持禁止、鎧着用義務をやっと理解したんだ?」
ルールを破るとステージ攻略中に投石の邪魔が入って水に落とされる。
領兵は、重い鎧を着たままチャレンジしなければならない!
「水面の飛び石を渡ってく二つ目のやつ、最後のドアは意味が分かんねーぞ?」
「どっちか片方が正解。間違うと外の水堀行き」
「運ゲーかよ⁉」
天守にある台所で全員分の夕食を作る秋里涼真。
お手伝い&修行で今回は女子の二人も参加だ。三人で力を合わせ日本の調味料を使った日本風の異世界料理に挑戦した。
「テーブルと座布団を作ったから着席~。ワンワンも早く、女子の手料理だぞ!」
「ワフン‼」
「ゴ馳走ダ!」
日本料理風の籠城飯、いただきます!
前回の宴でも調味料はコボルト達に人気があった。日本の企業の人ありがとう。
立体映像から領兵の叫びを聞きながら、みんなで一緒に夕食を食べる。
「食べなれた食材が、こうも……」
「ワン!」
「おー、美味いな。今回は手伝ったんだろ?」
「そうか、美味いか!」
「ニャッ」
「うち、これから家でも料理を手伝ってみる」
こちらに振り向いた喜世川有栖と城ヶ崎一夏が、誇らしげにVサイン。
秋里涼真は頷いて返す。壁を突破した女の子達の笑顔を見ていると箸が進んだ。
今回の宴も大盛況!───
「飯食ってやがる‼ コイツ等めちゃくちゃ美味そうなの食ってやがる‼」
「ファ⁉ 何?」
目が虚ろな三人と、ブチ切れた三人の侵入者。
全ステージをクリアした計六人の大隊長が夕飯中に天守へと到達。
襖を開けて、豪華な夕食も立体映像も眺めていた。
箸を持ったまま固まる四人とコボルト達。
「いつの間に全部クリアを⁉」
「最後の部屋が沢山ある場所、考えた奴は出てこい……ぶっ殺す!」
目の血走らせ近寄って来た一人が見えない壁に阻まれた。
物理的にではなく、防犯で畳部屋と空間を正しく繋げていない。
「クソッ、また妙な仕掛けか⁉」
「む、我々は安全なのか?」
「はい。声や香りだけ通れます」
「戦わねーのか?」
「まあ見てて」
不安そうな顔の喜世川有栖に見送られながら秋里涼真が相手に近寄る。
安全と分かったコボルト達は食事に夢中だ。
「美味そうに食いやがって、これも拷問の一種か?」
「夕食は偶然です。……よくぞここまでクリアした領兵の精鋭達よ!」
秋里涼真が大隊長達の背後を指さすと転移陣が現れた。
同時に、秋里涼真の背後にも出現する。
「これはダンジョンにしかない転移陣⁉」
「ダンジョンだったのか、この砦は!」
「来いよ大隊長! 六人同時にかかって来い!」
昨日ドラマで見た役者の演技で秋里涼真が煽った。
「気合を入れて頑張って欲しい、いいな?」
「「「「「「ぶっ殺す!」」」」」」
「あ、昨日見たやつだ」
そのドラマは喜世川有栖も見ていた。
秋里涼真が転移陣を指さしまくると、我先に転移陣に飛び込む大隊長達。
「戦うなら俺にもやらせろ。毎回てめーだけズルいぞ?」
「もう勝利したよ。四人で戦ったオーガ戦の後で転移陣が出たの覚えてる?」
「あんときは……」
「確か、喜世川がコアという物があると言い出した時だな」
「う、あの時は取ると崩壊するとか思わなかったし」
「仮に俺達がダンジョンコア探しをせず、そのまま転移陣に乗ってたら……全員がマグマだらけの部屋に飛ばされて死んでいた」
秋里涼真から話を聞いた三人が固まる。
コボルト達も思わず箸を止めてこちらを見た。
「へんですな。最下層のダンジョンボスを倒すと出現する転移陣は帰還用のはず」
「やっぱり普通はそうなんだね里長」
「喜世川のおかげで俺等は生きてるのか……」
「エミリーも喜世川さんを褒めてた」
「うむ、喜世川の判断能力は頼りにしているぞ!」
顔が赤くなった喜世川有栖が、照れて口元を手で隠す。
「だから、あっちの転移陣は罠なんだよ。踏んだら外の水堀行き」
「エグ……じゃあこっちの転移陣は?」
「ピカピカ光ってるだけの模様!」
◆
風雲コボルト城の外では大パニック!
頼みの綱の大隊長達が水堀に浮かんでいたのだ。
領兵達の指揮も既にガタガタ───
「ええい、ブライはまだ見つからんのか!」
クリア失敗のペナルティーで使い物にならない領兵だらけ。
領主オッホーは手詰まりな状態に陥る。
◆
「急いで夕食を完食して包囲網の脱出をしよう!」
「ワン!」
「逃げると言ってもどうするのだ? 多勢に無勢ではないのか?」
「俺とエミリーで全員が逃げる足を用意して、この城の爆破に紛れて逃げます」
「最近の秋里君、お城建てたり色々と凄過ぎない?」
「この城はダンジョンの残骸をリサイクルしてるだけだから……」
「十分スゲーだろ。そんで、逃げる足ってのはどんなだ?」
「エミリーが領兵達から集めた魔力を使って地球の星の記憶を閲覧、俺のジョブ〈コレクター・オブ・デス〉に無理やり紐付けをして、軍用トラックをエミリーが呼び出す!」
食事中の三人が咽た。
「エミリーがMTVR車を呼び出す為の魔力が必要で、今まで時間が必要だった」




