046ようこそ地球へ2
「里は放棄。森の奥、中層圏へ出発するのじゃ!」
里長の老コボルトを先頭に森を歩き続けた。
ギルドの決まり、人間が立ち入れる下層を超えると森は更に豊かさを増す。
これ程の恵みに手を出さない理由は割と深刻だ。
「これ序盤の敵じゃなくない⁉」
「受付が熱心に忠告する訳だな……」
「何でコイツ等は下層に来ないんだ?」
「都会に行った若者が地方に戻らないのと一緒だよ」
「ワフン?」
気楽に会話が出来るのも、守り神の石が魔物を遠ざけるおかげだ。
「里長、その石って人間達の間で有名な品だったりする?」
「どうでしょうな。数百年前に拾ったと聞きましたが……」
「何か気になるん? 秋里君」
「ん~、ちょっとね……」
『それに何故、貴様が遺失物辞典に載るアーティファクトの指輪を持っている!』
(コボルトの里にある守り神の石を奪うのが大規模依頼の目的だとしたら)
「領主をどうにかしないと解決は無理か?」
「ワフッ!」
秋里涼真の声は三人に聞かれずに済んだ。
しばらく尻尾をブンブン振るコボルト達と歩き続けていると───
「む! 囲まれているぞ⁉」
城ヶ崎一夏の言葉に全員の足が止まった。
兎洞雄之助が〈求道者〉のスキルで辺りを探るが、敵の存在を捉えられない。
キョロキョロと警戒するコボルト達。
「マジなのか?……城ヶ崎」
「ああ、ジリジリと包囲を狭めている」
「ニャッ!」
自然環境では城ヶ崎一夏の〈狩人〉の索敵能力が上昇する。
使い魔のダヴィンチ・モフモフ丸ともリンクしているので相手を知覚出来た。
茂みを静かに掻き分けて現れたのは、六名の気配が薄い者達。
肌を包帯でグルグル巻きに隠して不気味だ。
「まさか我々デケムの影に気付ける者が居るとは……」
「領主の手の者か? 何故コボルト達に危害を加えるのだ!」
「コボルトに興味は無い。コボルトが持つ石を持ち帰るのが我々の任務だ……」
「チッ、仕掛けて来ンぞ!」
ショートソードとフレイルで武装したデケムの影に襲われた。
フットワークが異常に速く、常に動き回って有利な距離から牽制と致命傷狙いの攻撃を放つ。ヒット&アウェイで焦らせるプロフェッショナルな卑しい戦い方だ。こちらは背中を預けあって対応する事で安全に戦えている。
(咎人じゃないから面倒だな)
「銃弾を剣で弾くなんて、ズルいぞ‼」
「良い武器だな気に入った。我々がこれから使ってやろう」
銃弾の魔力に反応して剣で弾き、表面上は余裕ぶる敵。
対して、秋里涼真の銃撃はアクションが小さい分だけ手数が多かった。
目の前の敵を牽制しつつ秋里涼真は周りのアシストに徹する。
「ワオーン‼」
コボルト達の身体能力は高く、相手の攻撃を避けては殴る蹴るの見事な動き!
それに比べて人間相手の殺し合いに不慣れな三人は、動きの精彩に欠けた。
「くっ、このままでは」
「わっ⁉ ちょっ……キャッ舐めんなー!」
「いざって時にビビっちまってる自分にイラつくぜ……」
何とか持ちこたえている状況。
しかし、外から見れば脆い部分は一目瞭然だ。
「やれ!」
「「「ハッ!」」」
極細で光を反射しない蜘蛛の糸を使った糸電話で会話する四つの影。
支持を受けた三名が、物陰に隠れながら爆発物を投擲した。
「ッ、させるか!」
───碌でもない物に決まってる。
秋里涼真が二つを撃ち抜くと空中で大爆発した!
だが、投げられた爆発物は合計三個。
みんなが固まるド真ん中に残り一つが落ちていく‼
「爆弾だとか、ふざけんじゃねーゾ!!!!!」
急いでポケットにあるオーガの首飾りを身に付ける兎洞雄之助。
凶暴化と凶暴化耐性で相殺され、実質ノーリスクの身体能力上昇。入手当初から周囲に威圧をばら撒くのは知ってるので今まで身に着けずに居た。
「オラァァア゛!」
ロケットのように勢い良く飛び上がると、華麗にオーバーヘッドキック‼
蹴ると同時に大爆発だ。
「兎洞⁉」
「「兎洞君!」」
「ちっ、やっぱ痛ぇな。蹴る時に足へ身体強化の大半を回したし、スキルで魔力も纏わせたから大丈夫だ」
見れば右足の靴は爆散している。
「まさか失敗するとはな、小癪な───」
気が動転して隙だらけな城ヶ崎一夏にショートソードが迫る!
反応がワンテンポ遅くれた危機的状況下に、使い魔はカバンの中から顔を出す。
「ニャアアアアアアアアアアッ!」
「ぬおおッ⁉」
使い魔になったダヴィンチ・モフモフ丸は主のスキルが使える。
今こそ必殺の時、まずは【精神統一】を使って三秒間だけ集中力を上昇させた。
頭の中に木の実空間が広がる!
今なら何だって出来るはず!
可愛らしく叫ぶ口元に現れた小さな火球が、音を立てて発射された───
(ぐぬ、これは避け切れん!!!)
必殺の【ぷちファイヤーボール】が直撃して敵が吹き飛ぶ。
「「「「「ロックス!」」」」」
「助かったぞ、モフモフ丸!」
「ミャ~……」
魔力が激減して萎れたダヴィンチ・モフモフ丸は元気が無い。
あの見事な毛並みが、今や捨てる直前の歯ブラシのように酷い状態だ。
魂が抜けたようにズルズルとバッグの底に沈んでいく。
「ええい、癪だが一時撤退だ!」
「た、助かったのじゃ……」
「───ごめん。うちが爆弾を【守護の祈り】で防いでたら!」
「咄嗟に最善の行動を取るのは難しいものだ。私も判断が遅れて……モフモフ丸が居なければ危うかった」
「兎洞君、本当に回復はしなくて大丈夫なん?」
思い詰めた表情で声が小さい喜世川有栖。
「んな顔はするな、ガチで大丈夫だから」
兎洞雄之助は優しく喜世川有栖の頭を撫でた。
その向こう側では、里長が点呼を取ってコボルト達の安否を確認している。
「はい、爆散した右足の靴」
「お? 助かる……どこにあったんだ秋里、しかも右足だけ」
「エミリーに頼んだ。後はダヴィンチのご褒美に特別な熟成木の実を───」
「……」
木の実と聞こえてバッグから顔を出したダヴィンチ・モフモフ丸と目が合う。
毛並みがボロボロだ。
「ミャ~……」
いつもの木の実より大きく、熟成されて色と香りも違う。
今にも消え入りそうな表情で木の実を掴むと、そのまま食べだした。
「……めっちゃ美味そう」
「喜世川さんも食べる? 熟成させれば人間でも食べられるよ」
「うん、んん‼」
人間にとっての毒が熟成させると旨味に変わる。
だが秋里涼真が作らなければ安全に食べられた物ではない。
故に、これは異世界人も知らない珍味だ。
様子を見ていた他の二人も食べる。
「ヤバいな、美味過ぎて頭が痺れやがる」
「どの高級ナッツより美味いな! テレパシーで感じた通りだ」
一個分のカロリーを言うと女子二人が固まった。
「……お金が無くても色々と出せる秋里君が羨ましい」
「ハイポーションを売った俺達に四千万円があるの忘れてない?」
「「「あ!」」」
敵を退け、使い魔は満福で眠り、森の奥でも魔物は寄り付かない。
今の四人は気が抜けていた───
「里のコボルトが一人足りないんじゃよ⁉」
◆
簀巻きにされたコボルトを担いだ六つの影が、森を駆ける!
「クーン、ク~ン……ワフン」
「ええい黙れ!」
「作戦は完璧だったはず、まさか森で我々が敗れるなど……ん?」
「「「まさかの時の死刑執行裁判‼」」」
いつの間にか赤く輝く目をした鳥男達が行く手を塞いでいた。
お洒落な帽子と素敵な手袋、見た目と不釣り合いなヒロイックマントを靡かせて渋いベルトポーチが怪しく光る!
手に持った木の杖を大袈裟に振りながら露悪的に笑う怪しい三人組。
「……」
コボルトは鳴くのを止めて息を潜めた。
(我らに気付かれずに現れただと?……まともな気配をしてない、危険だな)
鳥男達が露悪的に笑うのを止めた。
「「「身の振り方について助言してやろう」」」
「貴様等の罪は、傷害罪、強盗未遂罪……この二つ」
「更に誘拐罪。だから三つ」
「悪徳領主からの闇バイトもあった、四つだ!」
「もとい! 貴様等の罪は傷害罪、強盗未遂罪……駄目だ覚えられん。やり直し」
「───先を急いでいるのでな!」
デケムの影の一人が首を狙った致命の一撃を繰り出す。
しかし、相手は自分の頭を両手で取り外して難無く躱した。
「んな⁉」
「バードメンの頭を狙うなど素人同然!」
バードメンがマントから銃を取り出して撃つ。
迫る銃弾をショートソードで弾くのは経験済み、だが剣が耐えられずに砕けた。
「何と細く圧縮された塊、風の魔力か⁉……予定変更だ、完全に撤退するぞ!」
瞬く間に十人が全員集結した。
「命が欲しいのでな、我々は依頼を放棄する。プロ・ポプロ・シルヴァエ───」
デケムの影が消える。
「ほう、触媒を使っての転移か。やはり魔法には詳しいのだな」
「追うか?」
「必要ない、そのコボルトを解放して次へ行くぞ」
「ワ、ワフン……」
コボルトの救助に出発しようとしたら当の本人が帰って来た。
「無事じゃったか!」
「ワン、バードメン助ケテクレタ」
「「「「バードメン⁉」」」」
三人が秋里涼真を疑いの目で見る。
「……いや、俺ずっと一緒に居たから」
「バードメン、三人組デ現レタ」
「増えてるじゃん……」
「この先に古い避難場所があるんじゃよ!」
◆
大急ぎで急行したこの岩石地帯は見晴らしが良く、索敵も楽だ。
「ふむ、遠くの方に人の気配がするな」
「って事は、いつかここが包囲されンのか?」
「それまで時間の猶予がある。ここに防衛基地を建てよう!」
「どうやって建てんの秋里君⁉ ってか、何を建てるん?」
「風雲コボルト城を建てる‼」




