044偽りの大規模依頼4
「剣を折ってやったぞ。ほれ、商人なら収納から予備を出せ!」
「「「流石です。ブライ大隊長‼」」」
レベルの高さでゴリ押しする敵の驕りをブライ大隊長が虚仮にする。
だが、器用さ特化だけで渡り合う秋里涼真のレベルは彼等よりも大分低い。
ユニークジョブ二つ持ちだからこそ成り立つ勝負。
(何か勘違いされてるな、俺)
エミリーに折れた剣の代わりを頼むと、前よりも上等な剣が現れた。
やや細身だが強度上昇の付与された名品で軽い分だけ剣速も出て切れ味は抜群!
ブライ大隊長が持つ重量級の剣とは真逆の剣だが、決して見劣らない。
『数分前に森で蛇と戦って死んだ人が使ってた剣よ』
「これ、いいね」
秋里涼真の持つ剣を見て動揺するブライ大隊長と隊員達。
それもそのはず、この剣の持ち主は不正を嫌う堅物で有名な三番隊の大隊長。
領兵内でも人気でブライ大隊長は馬が合わないが敬意を払っていた。
「その剣⁉ 貴様───」
「ん? 欲しがっても渡さないよ?」
「おのれ……血と名品に狂った人殺しめが! 奴のカタキは、俺が取る!」
(何か俺、凄い誤解されてない?……まあいっか。フフ)
新しい剣に秋里涼真は気分が高揚。
折れた剣も中々良かったが、これは更に良い。
だから思いついた事を、これで試す───
「俺の考えるウェルドナ流剣術でフルボッコにしてやる」
(一撃目だけは精霊の指輪で加速だ!)
体術との連携から武器を折られた秋里涼真は、閃いた。
ウェルドナ流剣術って本当はこうやって運用した方が強いんじゃないか?
覚えた攻撃の型と二つの派生を頭の中で組み立てていく。
「何だとッ、何故貴様が⁉」
「「「そんな……───」」」
ウェルドナ流剣術は、力強い剣ではなく技の剣!
それは最速の踏込から始まった。
一撃目を防いだブライ大隊長は続く袈裟斬りも防ごうと構えたが……それは秋里涼真のフェイント。一手損のブライ大隊長は次の攻撃を防げない。
「ッ、この程度の傷などォ」
秋里涼真は止まらない。
蹴りのリーチは剣よりも短い。反撃はカウンターで返され、立て続けに切られたブライ大隊長。後ろへ下がるも離せない。
バックステップには突きからの連携!
防ごうとすればフェイント!
カウンターを狙うも、読まれて傷が増えるばかり───
打つ手が無いブライ大隊長。
(何も出来ん! 何だこれは、俺はこんな戦い方など知らない!)
素行が悪く、奥義を習う前に破門されたブライ大隊長。
ウェルドナ流剣術とは攻撃の型の連携によって相手に何もさせない剣術。
敵に攻撃も、回避も、防御も、反撃も許さない斬撃の牢獄───
「ウェルドナ流剣術ってのは、こうやるんだ。ずっと俺のターン!!!!!」
一方的に切られ続けてブライ大隊長は何も出来ずに負けた。
「「「ブライ大隊長ぉー!」」」
真面目に修行していたからこそ隊員達も理解する。
これこそが、本当のウェルドナ流剣術なのだと……。
「あんたらの剣に捧げた人生を全て学ばせてもらったよ」
ニヤリと笑う秋里涼真をブライ大隊長は許せなかった。
俺が破門させられたのは何だったのか? と。
「貴様のような者が許されて堪るか! 三番隊の大隊長を殺して剣を奪う貴様が、ウェルドナ流からの刺客だと⁉」
「ブライ大隊長がブチ切れた!」
「怒った隊長は強さが跳ね上がるぞ……」
「最後は必ず勝つ、こっから大逆転が始まるぜ!」
(これ、領兵の大隊長の剣だったのか)
『……みたいね』
懐からブライ大隊長が瓶を取り出して飲み干す。
隊員達も支給品を飲み、傷を回復させた。
「それに何故、貴様が遺失物辞典に載るアーティファクトの指輪を持っている?」
領主オッホーに貴重な辞典を借りた事があるブライ大隊長。
【精霊の指輪:風の民に送られた精霊との友好の証。後に奪われて大量破壊兵器のコアにされ消滅】
(友好の証を奪って爆弾でも作ったのか?……)
暗い感情が湧き出してくる───不快で不愉快な、最低の気分だ。
秋里涼真の目が赤く染まる。
「誘拐犯より先に異世界人か……お前達が感情で強くなれるのなら、俺も試そう」
普段は押さえつけている喜怒哀楽の制御を手放す。
最初のダンジョンで死んだ者は、秋里涼真が生存者を探して走る姿を見ていた。
その死者達の魂は、自らを変質させ精霊の指輪と成り、今ここにある。
秋里涼真の感情に精霊の指輪が呼応して、吹き荒ぶ風に色が付く!
「何だその目は? この風も魔法か⁉」
「「「ひぃぃぃ」」」
「俺は地球から来た死神の使徒、お前達を殺す者だ。〈コレクター・オブ・デス〉アクセスッ!」
咎人を追い続ける影───
「皆殺しのハッピートリガー!……ここからは第二ラウンドだ、行くぞ?」
両手でガンスピンをしながら異質な風を纏う存在が、赤い目で微笑む。
及び腰の隊員に檄を飛ばして奮い立たせるブライ大隊長。
その素晴らしい団結力を称賛しながら、淡々と一人ずつ殺していく。
三分未満で戦闘が終わると同時に第一階層も消え去った───
◆
武器防具屋近くの路地裏に転移した秋里涼真は、何食わぬ顔で合流する。
「おう、戻ったか」
「十五分も何しに行ってたん? トイレ?」
作られた空間内は時間の流れも自由自在。
まだ外では十五分しか経過していない。
(トイレ……トイレ?)
その事に気付いた城ヶ崎一夏は、胸の内で疑問を抱く。
実はダンジョンコアが全員の体内へ干渉しておりストレスフリーだ。
「戻られたのですね。皆様は店内を色々見ておられましたよ」
「そうでしたか。ん~、そうだな」
サッと見回し安物中古品置き場から剣を取ると、秋里涼真が剣舞を披露する。
「これがウェルドナ流剣術ってやつ」
第一ラウンドでブライ大隊長フルボッコを再現した剣舞は、見る者を圧倒!
続いて第二ラウンド、一人になって決死のブライ大隊長をボロ雑巾にした───
「そして、これがウェルドナ流を作ったチート転移者の剣技ッ!」
(ゾーン状態での人読みと、指輪のスピードで再現したインチキだけど)
テレパシーと超スピードで成り立つ剣技。
地元の道場で剣道を習っていたコロラド州の転移者が望んだ二つのチート。
生きる為に望んだ力で、戦い無双する異世界人生を歩む事に───
エミリー曰く。
ウェルドナ流剣術とは自分の闘法を他の人でも出来るように体系化した技術。
「お前銃使いだろ。俺と組手で張り合って、次は剣もかよ⁉」
「相手が実際に居るかのようで見事だったぞ。いつ覚えたのだ秋里?」
うっかり言い訳を考え忘れていた秋里涼真は、適当に誤魔化した。
「凄い速さになってから剣が光りだしたのは何なん?」
調べてみると、精霊の力に反応するダンジョン産の剣らしい。
「これ、買います」
光らせる手段が特殊なのを理由に値札通りで売ってくれた。
「そろそろ大規模依頼の召集かと、どうかお気を付けて───」
領兵が召集の知らせを叫びながら走っている。
指定の地点へ行くと、既に大勢の冒険者が集まっていた。
領主が演説中だ。
「校長の長話と変わんねーな」
「秋里君……剣使いたかったん?」
いつも剣を借りている喜世川有栖が申し訳なさそうに聞く。
「旅行で買うキーホルダー感覚だよ。光って楽しい安売り品だから買った」
「武器としては使わんのか?」
「生徒会長、俺には銃があります!」
◆
領主オッホーの長話も終わり町を出発した冒険者達。
事前に領兵が展開して魔物を掃討中だ。その前線から、突然の訃報。
別の隊が蛇に襲われ、三番隊の大隊長が殿で戦うも食われる!
(決死の殿だったろうな……あの剣の持ち主)
毒餌も効き目が悪く、囲んで攻撃して奥へと追い帰すしか対処法が無い。
「おい、方角は不味くねーか?」
「このまま行くと我々は……」
三番隊の大隊長の弔い合戦だ‼
領主が叫ぶ中、冒険者の群れと領兵はコボルトの隠れ里へ近づいて行く。
そして───
「この先でコボルトの集落らしき里を発見しました!」
「何ィ、森の中で暮らすなど怪しい輩に違いない。突撃せよ冒険者‼」
領主の命に戸惑う冒険者達、ギルドの決まりで亜人差別は禁じられている。
「───行ってくる」
「ちょっ⁉」
秋里涼真は即座に転移!
襲われていたコボルトの隠れ里は、数で劣るコボルト達が善戦していた。
山育ち森暮らしで弱いはずがない!
「クソッ、コボルトがこんな強ぇとは。俺等だけじゃ無理だぜブライ大隊長」
どうやらブライ大隊長の隊員達らしい。
コボルトに赤い目の使徒が加わって一気に戦況が動く。
咎人ばかりで殺し放題だ。
(俺が町で事前に殺してなきゃ里がヤバかった……)
「ワ、ワフッ!」
「助ケテクレタ?」
飛んできた長老が音を立て着地する。
「どうして人間のあなたが、そこまで我々を助けてくれるのです?」
「魂も綺麗だし、神があなた方を良い存在と認めるから」
「は?───」
余りにも予想外な返答で長老は言葉に詰まってしまった。
「ここにポーションを大量に置いときますから」
それだけ言い残し、領主オッホーの元へと急ぐ。
(こんなの非道は絶対に止めてやる!)
◆
崖の上から突然に現れた秋里涼真が、領主を大声で批判する。
「領主のコボルト差別反対ぃいイイ! 亜人にも人権をぉおオオ‼」
同級生の過激なパフォーマンスに三人が驚く。冒険者も領兵も、領主オッホーでさえ呆気に取られていた。エミリーの空中カンペを秋里涼真が読み上げる。
法的に反論は不可能な若者の訴えに、領主オッホーは逆ギレして脅した。
「貴様、領主に盾突いて覚悟は出来ておるのか! 何が理由で領主に逆らう!」
「一宿一飯の恩義で貴様の企みは止める!」




