043偽りの大規模依頼3
「あれがブライ大隊長───串焼きの露天商とトラブルか?」
ボサボサ髪の大男と隊員達が、店の人を取り囲んで怒鳴っている。人相が悪く、領兵の格好をした賊にしか見えない。どうやらタダにしろとゴネているようだ。
「大隊長が食い逃げ……しかも店員一人に寄って集って」
『噂通りの迷惑な悪党ね』
「しかも全員が咎人! 罪の情報が多いな~、串焼きを集った罪が一番新しい」
エミリーと小声で喋っているのに聞かれていた。
「鼠がコソコソ舐めやがって……そこぉー!」
財布を忘れたブライ大隊長が食べ終わった串を物陰に投擲する。
スキルではなく、技術として魔力を纏わせた串は、軽さの割に勢い良く飛んだ。
「うおわっ⁉」
ガッ! ガガッ‼ っと音を立て、目の前の地面に次々と刺さる。
(当たったら怪我するぞ。こんな木の串でどうやって?)
【大隊長が投げた串:強度と推進力の強化に体内の魔力を使った形跡がある】
「なるほど! じゃない、気付かれてた───」
ブライ大隊長と目が合う。
獰猛な肉食獣のように笑っていた。
(あの鎧か! オークションで競り負けた蛇革と確かに同じ素材。報告通りだ)
群れは新しい獲物に狙いを定める。
「うわー、路地裏に逃げ込めさえすれば~、お助けー」
『棒演技……』
その場から秋里涼真が逃げ出す。
二人の計画した作戦は途中で気付かれて破綻したが、死神の目で咎人の確認と、対象を誘い込む目的自体は達成!
イキハヨイヨイカエリハコワイ。
野次馬の一人が興味津々で路地裏へ入ったものの───
人の気配は無く、疑問を感じて行き止まりまで行ったが誰も居ない。
それもそのはず始めから誰も通っていない道なのだから。
◆
「何だアイツは、逃げる速さが異常だ。どうなってやがる?」
全力で走っても逃亡した獲物に追い付けずにいる。
「奴は馬か何かか? 地獄の鍛錬を毎日やってる我らが……」
「その手のジョブでスキルを使おうと、こんな出鱈目は不可能だ」
「って事は、何らかの装備品の恩寵か?」
「あの鎧は俺が貰う。お前らも何か気に入った物は貰っとけ、殺した後でなァ!」
「「「おう!」」」
大隊長と隊員は走り続け、体育館くらいある路地裏の広場に出た。
「おいおい、こんな場所この町にあったか?」
「……走って来た路地裏の通路もだ───」
ブライ大隊長は、既に大物を前にした時と同じく真剣な顔。
即座に気持ちを切り替えた隊員達。
この広場を目にした時点でブライ大隊長は誘い込まれたと悟る。
「───ようこそ俺達の世界へ」
本日のゲストは、この領で悪名を轟かせているブライ大隊長と隊員の方々です。
逃げるついでに試さないかとエミリーから誘われ『じゃあ、やってみよう!』とダンジョンコアに魔力をブチ込んで作った場所。
現実の世界に錬成したダンジョンを重ねて接続、空間を改変し、掌握する!
「お前がコレをやってるのか?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える」
「どっちだボケ!」
(だって、エミリーがダンジョンコアをいい感じに操作してやってるんだし)
不敵に笑う秋里涼真。
ブライ大隊長と隊員は、得体の知れない相手に警戒のギアを一段階上げた。
『リョーマの魔力を使わないと私は何も出来ないわよ?』
「フッ、一心同体だね!」
「何がだ⁉ ブチ殺すぞ、俺達はブライ大隊長にウェルドナ流剣術を習ってんだ」
一番気の短そうな隊員が腰の剣を抜く。
それを見た秋里涼真がエミリーに山か森に落ちてる使えそうな剣を求めた。
他領のやり手が落とした剣が、秋里涼真の手に現れる。
『領軍のブライ大隊長は、剣術の達人で人殺しが趣味の糞野郎だから近づくなよ』
「剣術を習った……ね。フッフッフ───」
(思い出した。親切なオッサンの言ってたやつだ! どんな剣術だろう?)
真剣勝負が始まった。
城ヶ崎一夏の家で習った古流剣術に、兎洞雄之助と廃工場で全力組手した経験。
その二つのおかげで秋里涼真は接戦に持ち込めている!
(ホブゴブボスソードを振るう喜世川さんの動きを思い出せ‼)
『楽しそう……男の子って剣が好きよね~』
一連の行動を見たブライ大隊長と隊員は、秋里涼真が収納持ちだと考える。
(商人系ジョブだろうと戦闘経験が豊富───恐らく魂の格もかなり高い‼)
そう分析するブライ大隊長。
デスポティック・サーペントを素材にして作る革鎧は、高額な代金以上に作り手探しが困難だ。素材なら質を問わなければ闇で流れる可能性もある。だが、異常に強靭な蛇革を鞣して鎧に成形出来る腕を持った鍛冶師に伝手を持つのは、金と権力だけでは無理と言っていい。
熟練のドワーフとの個人的な繋がり、その中で現実味があるのは───
(金儲けを第一としない専属の商人。商売では煩わしくせず収納持ちで身の回りの面倒を引き受ける小間使いをして名品珍品を一手に扱う。一流の職人が手掛ける作品を直で見るのを生き甲斐にする変態)
「そこから血も見たくなった異常者か……殺しの常習犯だ。気を抜くなジャック」
「立ち姿が素人ですが?」
「見た目に騙されるな!」
仲間を見守る残りの二人は正直、半信半疑だ。
あのジャックなら勝てるはず───
(この空間はダンジョン産のマジックアイテムで作られているのか?)
この鎧が手に入る商人にかかれば色々と用意周到な準備も可能。
ブライ大隊長は、卑劣な罠を警戒した。
「グハッ」
「よーし勝てたぞ!」
しかし、ウェルドナ流剣術を学習した秋里涼真が普通に勝利した。
「致命傷は貰ってねぇな、休んでなジャック。次は俺にやらせろ」
「ッ、クライ……奴は妙だ。どんどん動きが良くなってくるぞ」
「我々の負けは、我々で取り返す。今から敵討ちだ!」
二人目のクライは強かった。
秋里涼真は防戦一方のジリ貧で、いつ負けてもおかしくない状況。
それをウェルドナ流剣術のフェイントで崩そうするクライ。
秋里涼真の苦し紛れの攻撃は、ウェルドナ流剣術のカウンターで反撃された。
「この暴君の蛇革鎧がなければ既に俺は負けているな……」
鎧の性能が、相手の放つ致命の一撃を通さない!
とは言え限度がある。
致命傷を防げているだけで無傷とはいかない。
だが───
(動きを十分に見れて理解が出来た。これは【施条拳】にも応用が可能かも)
ウェルドナ流剣術は、何通りもある攻撃の型の全てに二種類の派生がある。
相手の防御を崩すフェイント、カウンターを誘って相手の反撃を狩るトラップ。
熟練の斬撃は、この三つを相手に見切らさせない工夫が上手い。
「───こんな感じか?」
「グハッ」
「「あの動きはウェルドナ流⁉」」
「……」
優勢に見えたクライの呆気ない敗北。
次のリハードは三人で一番強い熟練だが、戦闘は一番短かく終わった。
もう誰も秋里涼真を侮っていない。
「な、何故だ。俺は三人の中で一番強いはず───」
ジャックとクライの肩を借りてリハードが離れていく。
ブライ大隊長の重い口がようやく開いた。
「……商人の貴様がウェルドナ流からの刺客とはな。まんまと騙されたぞ‼」
『そうだったの?』
「いや、俺は通りすがりのただの高校生だけど」
どれもこれも予想が外れていたブライ大隊長。
秋里涼真は、咎人を狩って貢献度稼ぎに励みたい死神の使徒。
神から命を刈る許しを得た存在───
「剣士なら剣で語りなよ。あんたで最後だ」
「俺もウェルドナ流剣術の使い手……どっちが上か貴様に教えてやる」
大男のブライ大隊長による爆発的な踏込からの一閃!
猛攻が秋里涼真を襲う。
(一撃一撃が重い上にトリッキー、兎洞君よりも圧が強いのは殺しの数の差?)
平和な日本と異世界の差。ちょっとした動作にも殺意が滲み出ていた。
戦場に身を置く者が纏う空気は一挙手一投足が怖い。
「ッ、この剣術には蹴りまであるの?」
「どうだったかなァ?」
見様見真似で覚えたウェルドナ流剣術だけで戦う秋里涼真。
対するブライ大隊長の攻撃は荒々しく、剣術以外も組み込まれた隙の無さ。
互いにウェルドナ流剣術で切り結ぶが───
攻撃手段の差でブライ大隊長が優勢だ。
「ブチ殺しちゃって下さい隊長!」
「我々の敵を……」
「隊長の強さは本物だ。俺達は邪魔をせず勝利を見届けよう‼」
三人の隊員が見守る中、戦況が大きく動く。
蹴りから立て続けにウェルドナ流剣術のフェイントで釣られた秋里涼真。
その僅かな隙を見逃さないブライ大隊長の、連続剣撃!
バキンッ!
ブライ大隊長は初めからこれを狙っていたのだ―――
「げっ⁉ エミリーに貰った俺の剣が折れたぁー!」




