042偽りの大規模依頼2
「領内を守る軍の隊長の趣味が人殺しとは、物騒な───」
バッグから顔だけ出しているダヴィンチ・モフモフ丸も、主の発言に頷く。
城ヶ崎一夏から流れ込む不安感情の結果、落ち着こうと周囲を忙しなく警戒して見回す行動は、テイムされる切っ掛けにもなったこの種族の習性だ。
木の実を右手から出して震えるモフモフ顔に近づける。
「……」
しばし不安そうな顔の使い魔と見つめ合う。
木の実を両前足でギュッと掴むと、震えながらバッグの中にスゥーっと消えた。
城ヶ崎一夏の顔が羞恥の色で染まっていく───
「うん、大好物を食べて気分転換しなよダヴィンチ」
「済まんな秋里。兎洞の妹誘拐もそうだが、普段テレビ越しに見る出来事が身近にあるのは怖いのだ、私は」
「魔物との戦闘じゃない、嫌なリアルさ……みたいなやつか?」
「あー、うちもソレ、なんかわかる!」
生きるか死ぬかのダンジョン踏破を強制され、魔物を殺す事にもう躊躇は無い。
その類の慣れは、四人も既に持っている。
戦争に参加した軍人でもホラー映画を怖がるように禁忌感の問題だ。
「元々うちらって普通の高校生だったし、そりゃそうじゃん?」
「それが、今では我々も超常対策室の一員なのだ」
「もうこっちでしか全力で戦えねぇ俺は、異世界を探査する今を満足してるぜ?」
兎洞雄之助は、秋里涼真の殺気で結果的に妹を誘拐した連中を殺さずに済んだ。
その自覚が一線を超えた先を意識させる。
力を持った己の手が未だに綺麗なのは偶々で───
城ヶ崎一夏は、自らの手を汚す可能性を身近に感じてしまうのが怖かった。
実家で習った技で暴漢を懲らしめる範囲を超えている。
命を取り合う対人戦闘に対する精神的な抵抗感。
(この先、もしもその機会があれば私はちゃんと戦えるのだろうか?)
「城ヶ崎生徒会長の事は、うちがちゃんと守るんで大丈夫ですって!」
ホブゴブリンのダンジョンボスソードを掲げて、勇ましいポーズの喜世川有栖。
その姿は、ダンジョン内で出会った頃よりも随分と逞しい。ダンジョンの記憶が無く、訳が分からず恐怖に怯えていた彼女は、もう居ない。
誰かの為に何かを成せる、子供の頃に描いた理想の自分を体現していた。
「喜世川さんポーズが似合っててカッコイイね。俺も守りますよ、生徒会長」
「そもそも弓と魔法で後衛だろ、城ヶ崎は。むざむざ危ねぇ目には遭わさねぇよ」
「……私とてやれる! 銃使いの秋里が、兎洞と互角に渡り合ったではないか!」
三人に注目された秋里涼真。
「いや、あれは喧嘩みたいなものだったから勝てたわけだし……」
「ンだぁ? 喧嘩なら俺に勝てるってか? 上等だ秋里、リターンマッチだ!」
「嫌だよ、俺はヤンキーじゃないし。むしろ喧嘩は苦手で───」
(暴力とか、俺は好きになれない)
夜の公園で暴れた秋里涼真は、口に出さずに自問自答。
「うち、親しくなる前の秋里君って教室の隅っこで、じっとしてる印象しかない」
「城ヶ崎は分かるぜ? 家で格闘技を習っていたんだ。俺は説明不要で、喜世川はジョブが前衛向きだからだ。でも、お前は銃使いで、喧嘩で名前も有名じゃねぇ、他人を真似るのが得意だとかで強くなれりゃ世話ねーぞ?」
「秋里、強くなれる秘訣があるなら私に教えてはくれないだろうか───」
種も仕掛けもないので秋里涼真は教え方を知らない。
しかし、三人の興味は答えを欲していた。
「が、頑張っただけ……あー、それに俺はユニークだから、あの、ステータスのトータル上昇値が通常のより多い感じで、ステータスのゴリ押しやってるだけさ。次いでに言うと、俺のユニークは両方とも魔力量と器用さ特化だから、それが俺の強さの秘密‼」
途中からはエミリーの空中カンペを読んで誤魔化す。
ダンジョンコア由来の正しい情報と、それっぽい説明で煙に捲いた。
訝しむ三人だったが、上手く追及する言葉が出ない。
いつからか、暇を持て余した冒険者達が聞き耳を立てている。
装備の異質さもあるが蛇から他の冒険者を救うなど、四人は注目されていた。
これ以上この会話はするべきではない───
「常設依頼を沢山やって今は金もあるし、武器防具屋へ行ってみない?」
「あー、うちら町の探索した時って、お金なかったもんね……」
町に入った当時は、ギルドと宿屋だけ利用して観光みたいな薄い内容だった。
(超常対策室で異世界の町の撮影データが盛り上ったくらいか?)
各国の支部間で異世界の情報を共有せず、本部にだけ活動報告する日本支部は、全地球守護協会AEDGから高く評価されている。
「暇を潰すのには丁度いいじゃねーか」
「よし、では行くか!」
「ニャッ!」
元気になったダヴィンチ・モフモフ丸も行く気満々だ。
四人は武器防具屋へ向かう。
◆
「これが異世界の店……」
持ち逃げ禁止で、カウンターの奥に商品ディスプレイがある。店員が客の要望に該当する商品を持ってきて説明を開始。
二人の先客に商売を励む店員達。
「本日は、どういったご用件でしょうか?」
入店した四人にフリーの店員が声を掛ける。
「俺達は駆け出しの冒険者なのですが、お金が溜まったので来ました」
「駆け出し……ですか?」
装備を見て首を傾げた店員に奥へと案内される。
「ほほう、ようこそ」
「では私はこれで───」
店長らしき人が居た。
興味深く四人の装備を見る眼光は名剣さながらに鋭い。
「何て業物な革鎧だ。しかもデスポティック・サーペント……独創的だ眼福眼福」
「一目で分かっちゃうん?」
「王都でも店を構えてますから。子に譲って私はこの町でのんびりしてますがね」
この蛇革鎧は、やはり分かる人には分かってしまうようだ。
「物理耐性と魔法耐性は蛇革の固有特性ですが、自動修復など今では付与の可能な職人は存在しない……魔法大戦のあった時期まで遡れば別なんですがね~」
「そうなんです。最近発掘されたのを偶然───」
「私が言った話は嘘です」
店長はニコニコと満足気だ。
知識を持たない素人、出所を隠したい四人分の鎧を何らかの形で手に入れた。
一つの嘘で多くの情報を暴かれてしまう。
「秘密は暴こうとすると双方に不利益しか産まない、これ以上は聞きませんとも。どの装備も見たところ素晴らしい……どんな目的で当店に?」
純粋に不思議がる店長を前に、四人は理由を隠さず話した。
「ダハハハ、そうでしたか。ではこうしましょう、当店の商品を自由に見せる代金として、あなた達の装備を私に見せて下さい。悪い話じゃないでしょう?」
「めっちゃ名案じゃん!」
「そういや、今までボスドロップの鑑定してなかったな」
秋里涼真は【鑑定[ダンジョンコア]】で装備のチェックを怠ったと反省する。
「名品に出会うのは有名人に会うよりも難しい。さて、ではでは───」
店長が四人から預かった品の鑑定を始めた。
せっかくなので、分かった内容を教えて貰う。
【ホブゴブリンのダンジョンボスソード:頑丈な造りのロングソード】
(強度上昇+2 刃毀れ防止+2)
【守護のバックラー:軽くて片手で扱え装着したまま武器を両手で持てる丸盾】
(強度上昇+1 軽量化+1 衝撃軽減+3)
【コンパウンドボウ:変わった仕組みの弓】
【森人の矢筒:見た目によらず三百本も入るがその効果は矢専用】
【剥落の凶刃:不吉な気配を発する赤黒い両刃のショートソード】
(攻撃時に状態異常の追加効果 切れ味+2)
【オーガの首飾り:装着者の周囲に威圧の効果をばら撒く金属質のネックレス】
(威圧 凶暴化+2 凶暴化耐性+2)
「───と、これが鑑定内容です」
「「「おお~」」」
「剥落の凶刃は一撃目で暗闇状態に、二撃目は麻痺。それに敵を攻撃すると武器の損耗が修復される」
「お客様も鑑定が⁉……そこまで詳しく情報を?」
「ええ、これは少し特別な鑑定スキルなんです」
「んん~、喉から手が出るほど得難い才能だ‼」
鑑定スキルは人生を賭して研鑽する。
星の記憶をカンニングするスキルとは別物だ。
目を輝かせ秋里涼真を値踏みをする。
そして何か思い出した店長は、真剣な顔でアドバイスした。
「この品々、領軍のブライ大隊長に見つかれば没収もありえます。お気を付けを」
(ブライ大隊長って酷い噂ばかりだ……神様から咎人認定されてたりして)
『そのブライ大隊長って人が、町に入って来たよ?』
「う~ん、確かめたいな」
「何をお確かめに?」
秋里涼真は全員に向けて言った。
「俺……ちょっと用事を思い出したから、みんなは店内を見学させてもらってて」




