040動き出す歯車4
「濃密な一日だった……」
大富豪とコネが出来たし、記憶が戻ったし、攫われた少女も救えた。
超常対策室へ連絡していたのでパトカーの到着前に後藤長官が間に合った。安倍美咲は教師業務で手が離せず、そのシワ寄せで土方大和は県外を飛び回っている。
廃工場に来た長官は別れた時と雰囲気が別人だ。
『権限持ちで今動けるのは俺しか居ないからな。……本来なら未然に防げた事だ、済まなかった』
大人に頭を下げられると居心地が悪い。
秋里涼真は、こっそりとボディカメラで誘拐犯の殺人自供を撮影していた。
内容を説明してデータを渡す。
『上手く使うよ。警察への対応は、兎洞兄妹だけ俺と一緒に残ってくれ』
そうして解散となった。
帰宅後、魂への激痛で意識を失ってた連中が目覚めたと連絡も入る。
「この方角と距離、犯人は警察署で全員がお泊まり確定か」
あの銃で撃たれた者は俺から永遠に捕捉される。
(これは素晴らしい力だ……いずれ有意義に使おう)
ベッドに寝てスマホで海外の記事を検索。
大富豪の奥様が難病から奇跡の復活───
『良かったねリョーマ、婦人を救って大きな力を持った相手とコネが出来た』
「うおっ、誰……いや、この声はエミリー???」
『そうよ』
コケティッシュな少女の声が頭の中で響き渡る。
自分以外に誰も居ない部屋、辺りを見回すと右腕がポカポカと温かい。
右腕の奥でダンジョンコアは気弱に囁く。
「お前、本当は喋れたのか? どういうつもりでエミリーの振りをする……記憶を覗いたのか?」
ガラス玉のような目で右腕を睨み付けて銃口を突き刺した。
まるで手品のように反対側からは突き出ない。
浸食しているからこそ秋里涼真の怒りをダイレクトに感じる。
右手で掴み取られた瞬間、ダンジョンコアは本能で対象の肉体を浸食した。
自意識は無く止められるものではない。
でも止めた。
浸食と同時に閉ざされた記憶が流れ込む───
コアの材料にされた魂の一つが、秋里涼真の記憶に刺激されて覚醒に至った!
自己を再確立し、数多の魂が巨大な一つの個へと昇華。
大勢の犠牲者の記憶と経験の所有者となった無垢な少女は、他人の人生を通して大人になる。
『貴方にとって、その子は……大事な人?』
「………………お前には関係ないだろ」
無言のラブレターを受け取った。世界で一番の、言語化不可能な想いの塊。
向けられた想いも、叩き付けられる怒りも、全てが愛おしい。
生前の子供が抱いた恋心だとしても、これは間違いなく私の本物だから───
『名前が欲しい……貴方が一番大切にしている名前を、私に頂戴』
うめえ棒の明太子味が右手から飛び出す。
白身魚やポーションに異世界言語など、今まで色々とダンジョンコアのお世話になってきたのは確かに事実だ。
(変装セットやバッグ類……ダヴィンチのおやつ用に木の実もか)
何かと便利で今更手放すのは惜しい。
『私が居ないと異世界へ行けないんだよ?』
───咎人は、向こう側になら沢山居るから刈り放題……二人だけの内緒だよ?
「そりゃあ稼ぎたいけどさ」
感情が流れ込んで来る。
『ありがとう、エミリーを認めてくれるのね。大好きよリョーマ』
「その声でそんな言葉を言うな!」
『色んな所をそんな風に喜ばせているのに?』
甘言で堕とされた秋里涼真は、ベッドの上でエミリーと口喧嘩し続け寝落ちた。
犯罪を犯したからといって咎人になる訳では無い。
人の犯した罪は、人が法で裁けばいい。人知を超えた判断を理解する術は無い。
『おやすみなさい、私だけの英雄……貴方は今でも私の王子様よ───』
◆
「そっかー、みんな使わないか~」
異世界に来たら魔力が何故か半分以下で秋里涼真はフラフラだ。三人から昨日の事で色々質問攻めされている所に野生のゴブリンが襲ってきたので、せっかくだし〈コレクター・オブ・デス〉の銃で【施条拳】を使う。
鈍器で殴った音がした!
『こっちの銃は完璧に物質化してるのか⁉』
仲間達が悲鳴を上げる中、銃で眉間をどつかれたゴブリンが痛そうに蹲る。
即ヘッドショット!
振り返った秋里涼真は満面の笑みで仲間に銃を奨めた。
この銃なら誰でも使える!
何と個数制限も無い!
しかし、両手の銃から呻き声を聞かされた三人は全力で拒否をした。当然だ。
「今は各々が戦う力を持っているので不要だ」
「呪物は遠慮するぜ」
「うちには、この剣あるんで」
『その銃はリョーマ以外が握ると、精神崩壊するよ?』
「そっか……」
プロペシルワムの町へ向かう四人は、今回から暴君の蛇革鎧を装着している。
四人を止められるゴブリンなどこの森には居ない───
◆
冒険者ギルドで今日も常設依頼を受ける。
期限切れの近いハイポーションがないのか聞いていると、森で蛇から逃げていた異世界人パーティと再会した。
「あの時は助かった。あんたらが蛇を引き受けてくれたから俺達は今、生きてる。済まない!」
リーダーらしき人は、よく見たら同じくらいの年だろう。
精神と肉体がボロボロで帰還しての調書、後はベッドで泥のように眠っていた。
今朝方やっと回復して起きられたらしい。
感謝を言うのが遅れたと、全員が頭を下げる。
「困った時はお互い様っしょ!」
「うむ、誰も死なず何よりだ」
「……鎧を変えたのか? 前のも独特な拵えだったけど今度のも凄いな」
「何かの革だな。ん? 光の加減で、鱗っぽいのが見えるが───」
(あれは、もしや……いや、そんなはずは……)
美人受付の横にギルドマスターが無言で立ち尽くす。
訝しげに目を凝らして暴君の蛇革鎧に固まる姿は、銅像そのものだ。
四人は逃げるように町の外へ出る。
「お爺ちゃん、めっちゃ鎧見てた!」
「絶対逃げろっつー蛇を倒したと言ってるようなもんだろ」
「……バレたら面倒事になった?」
「バイクプロテクター風のデザインが幸いしたな!」
ドローン騒動も終わって人の流れが戻り、門番は忙しそうだ。
しかし蛇の遭遇情報もあって町の外では相変わらず冒険者を見かけない。
好きなだけゴブリン種を討伐して薬草類もいっぱい採取する。
程よいタイミングで生徒会長がボアを弓で仕留めランチタイムに!
料理担当の秋里涼真は食材探しに出発した。
ユニークのダブル、跳ね上がった器用さで今まで以上に精霊の指輪を使い熟して探索していると、助けを求める声を聞いたので救助に向かう。
「……何この着ぐるみワンワン」
『コボルトね、怪我で力尽きて倒れてるみたい』
「痛イ、ウウウ……」
犬っぽい人の治療はポーションで十分に可能だった。
サッと治すと、元気になったコボルトが唸る。
「なんでだよ⁉ 助けたろ?」
「……ニンゲン、攻撃シテクル」
「ん? あー、それで倒れてたのかよ───」
コボルトにポーションを五本入れた袋を渡して使い方も説明した。
「ナンデ、助ケル?」
(面倒だな~言ってしまおう)
「俺達は別の世界から来たんだ。お前の知る人間と別物と考えてくれ。もし仲間も怪我してたらソレで治してやれ。じゃあな」
今回はダヴィンチ・モフモフ丸の好物を大量に取った。二回り大きい袋に木の実がギッシリ。そして果物や根菜に、茸!……献立は決まったぜ。
「うおっ、急に出て来るなよ」
途中で蛇に出会ったが俺に追いつける訳も無く、ぶっちぎっての帰還。
からの簡単脳内レシピ!
ジョブが二つになって身体が軽い軽い───
「「「「いただきます!」」」」
「ニャッ!」
持ち込んだ調味料と異世界の取れたて食材、最強の贅沢!
みんな無心になって食べている……少しは感想とか言おうよ―――
「……む、何者だ?」
遠くから着ぐるみワンワン達が歩いてくる。
コボルトとの出会いは、今思えば俺達の異世界での運命に大きな影響を与えた。
お礼に里へ招待されて里長の老コボルトから感謝をされる。
そして里の大事な宝を特別に見せてくれた。
魔物を遠ざける不思議な白くて丸い石。
両手に収まるコボルト達の守り神だ。
信仰を持つ彼らの魂は、秋里涼真が驚くほどの清らかさである。
「我々が感謝を込めて宴をするんじゃよ」
「傷、治ッタ、感謝!」
「ワオーン!」
盛り上がるコボルト達、正直見た目が可愛い。
「んじゃ俺は、今の内にギルドで換金してくる。エミリー!」
『オッケー。門番の兵から見えない近場ね?』
「「「消えた⁉」」」
コボルト達も同じように驚愕して遠吠えする。
一人だけで町に戻ってギルドで精算、後藤長官の依頼ハイポーションもゲット。
食材を買い込んで里に戻った。
「わっ、秋里君が転移をマスターしてる───」
「俺も料理を手伝っちゃうぞ~!」
「説明だ! まず説明をせんか! 秋里!」
「やりたい放題だな、お前……」
日が落ちて大勢で火を囲む。
地球産の調味料を使った料理に興奮するコボルト達と、催しを楽しむ四人。
夜遅くまで宴は続いた。
その明かりを、遠くから気配を消して眺める者が居る。
「───ようやく発見したぞ。領主様に報告せねば‼」




