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039動き出す歯車3

「何を試すだゴルァ!」



 刃物を握る半昏田(はんぐれだ)阿久夫(あくお)は、強気の態度(たいど)(くず)さない。

 兎洞雄之助の意識が妹と殺気を放つ秋里涼真に割かれ、ダヴィンチ・モフモフ丸は主の生足に抱き付き怯える。使い魔に影響されて城ヶ崎一夏は状況把握を優先。喜世川有栖も普段と同じようでどこか違う秋里涼真に不安を隠せない。

 ゆっくりとした歩みで秋里涼真が先頭に立った。



「ひょろいな、アッキー(半昏田阿久夫)両腕(りょううで)()った卑劣(ひれつ)はテメェかよ?」


 取り巻きのヤンキーで一番ガタイのゴツイ男が近づいて来る。

 ニヤニヤするヤンキー達、覚えてない一点張りの秋里涼真は殴り掛かられたが、目をチラッと動かし、その腕を取ると(ひね)り上げて投げ飛ばす。

 コンクリートに背中を打ちつけたゴツイ男は声すら出せない。



 暗い感情が湧き出してくる───不快で不愉快な、最低の気分だ。



「これが俺の日常だった。お前らみたいなのが人を(さら)って、人を殺すんだ」


 赤い目をした秋里涼真が、半昏田阿久夫を指差す。


「二人、殺してるな。偶然と、ついカーっとなって、か」


 取り巻きの一部が驚くが開き直った半昏田阿久夫は語りだす。

 親父はヤクザだの、証拠を残さないだの、得意気なのが人を不快にさせた。

 自慢の途中で秋里涼真の赤い目に気付く。


「───何だ、その目?……」

「あーあ、お前ら(ほとん)どがアウトだ」


 一人ずつ(なが)めていた。

 死神から(もら)った使徒の目は、罪を暴き、殺しても許される咎人(とがびと)を教えてくれる。



 世界に悪影響を及ぼす咎人。

 人の作った法ではなく、神にそう判断された者。

 咎人を狩れば使徒は神から報酬が貰える。



「人を殺した経験って、自慢出来るのか……議員、ポリスのトップに金持ち、俺も沢山殺したよ。別世界に魂を横流しするのは大罪だ」

「何言ってんだ、お前?」


 秋里涼真の発言に唖然(あぜん)とする三人。取り巻き達も会話の流れについて行けない。

 半昏田阿久夫は、赤い目でハッタリを吹かす秋里涼真を不気味に感じた。



 ゴブリン初討伐時(はつとうばつじ)、記憶が欠けた状態でジョブの定着が失敗している。

 秋里涼真の<ガンナー>は、間に合わせの代替品(だいたいひん)として改めて与えられた力だ。

 記憶を取り戻しジョブが定着した今では、ユニークジョブの二つ持ち!



「地獄を見せてやる。〈コレクター・オブ・デス〉、アクセスッ!」


 咎人を追い続ける影───


「皆殺しのハッピートリガー!」


 水平に伸ばした右手に、空間を浸食しながらベレッタM92エリートIAが現れる。

 閉ざれていた記憶がその手に(にぎ)られた。



 銃から(もだ)え苦しむ(うめ)き声が響き渡る───

 その声を聞いた者は根源的(こんげんてき)な恐怖に(とら)われる。

 この場に居る者、全てが影響下(えいきょうか)に入った。



 恐慌状態(きょうこうじょうたい)の中、喜世川有栖だけは〈戦乙女〉のスキルで恐怖を軽減(けいげん)出来る。

 恐怖に耐えて秋里涼真を見ると、彼は銃を注意深く(なが)めていた。


(特徴的な傷……間違いなく俺が当時使ってた銃だ)


 子供でも握り(やす)そうだからと、死神が何処(どこか)から持って来た何の変哲(へんてつ)もない銃。

 シルバーモデルの元相棒。


 全てが終わった後、鋳潰(いつぶ)して証拠隠滅(しょうこいんめつ)した(すで)にこの世に存在しないはずの銃。


「こんな(うめ)き声のオプション当時は付いて無かったけど?」


 叙事詩(エピック)ではなく抒情詩(リリック)に、(まつ)わる出来事を形にする力。

 人知れず語られる事の無いエピソードが、半昏田阿久夫の(ひたい)にレーザーサイトで光を照らす。



「ヒッ、お、俺を⁉ じゅ、銃なんて何処から……」

「質問か?……説明の詳細(しょうさい)(はぶ)くが、結論だけ言うと、お前らは殺す」



 銃声が室内に響く。

 強装弾(きょうそうだん)が二発とも綺麗にヒットして、半昏田阿久夫が地面に倒れた。

 再びパレットの上に転がる兎洞美羽。


 恐怖の状態異常で大変な様子だが、口に布地(ぬのじ)を詰められダクトテープも巻かれたせいで声も出せない。

 無傷なのがせめてもの救いだ。


「殺すだとかァやり過ぎだ、秋里!」


 精神力で恐怖を()()せた兎洞雄之助が、秋里涼真を止める為にスキルで突進。

 記憶が戻る前の彼ならば止められただろう。


 視界(しかい)(はし)(とら)えた秋里涼真は、冷静に動く。

 手に握るこの銃は、スポーツ選手が体験するゾーン状態を持ち主に(ほどこ)す。



 再現するのはオーガの後ろ回し蹴り───



(足りないリーチは速度で補う!)


 蹴られて何メートルも吹き飛んだ兎洞雄之助が、床を転がっていく。


「秋里君、もうやめて!」

「う、兎洞まで、ヒッ、ひぃ~」

「やってられっかよ」


 恐怖心に生存本能が勝ったのか取り巻き達が逃げ出す。

 風を(まと)った秋里涼真は逃げる相手に異常な速さで回り込み、次々ヘッドショットを決めていく。

 喜世川有栖の声は届かなかった。


「なにも殺す事はないじゃん‼」

「え? 殺してないけど」

「皆殺しって……」

「この銃の名前だよ。お前らは殺す、とか他のも冗談だって安心して」


 まだ何人か逃げて行くが秋里涼真は興味を無くしている。

 兎洞美羽に近寄り、縛られた手足を解放。ダクトテープも()がし布を吐かせる。

 目の前の存在に震えて少女は成すがままだ。


「ああ、この銃が怖がらせちゃうのか。はい、よく頑張ったね」


 頭を()でられ優しい言葉を(ささや)かれた少女。

 それまでの鼓動(こどう)が、次第に別の意味へと変化していく───



 兄より強い人じゃないと。固く決意していた心の導火線に、初めての火が(とも)る。



「あ、あの───」

「秋里ォおおおおお!」


 蹴られて転がった兎洞雄之助が帰って来た。

 綺麗(きれい)にカウンターで吹き飛んだのも(しゃく)だが、それ以上に妹が、兄にも見せた事の無い表情で男と接するのが我慢ならない!

 妹に悪い虫は付けさせない‼


「ちょっ、マッ!」

「待つかよテメェ!」


 始めは、まだ手加減していたが段々と本気になっていく。

 ……秋里涼真が倒せない!


 魔力量と器用さが()がって上昇するユニークジョブ二つに加えて、非活性化状態の〈コレクター・オブ・デス〉にダンジョンコアは浸食(しんしょく)干渉(かんしょう)(ほどこ)していた。

 毎晩コツコツと貯めたリソースで作って組み込んだ【器用さ強化1.5倍化補正】と【魔力自動回復:小】のスキル(チート)

 全ては、(かたき)を取ってくれたヒーローの記憶が戻った時の為に───



「お(にい)と互角……」



 器用さ特化と精霊の指輪で周囲に風の流れを作る(視覚以外での知覚方法)第三の目が、本来なら不可能な兎洞雄之助との拮抗(きっこう)を実現させる。

 だが、ここまでやっても勝ち筋は見えない。


(ここは負けないのが大事)


 負けない。という事は、状況を維持できるという事。

 悪魔崇拝集団を殲滅(せんめつ)してもエミリーは生き返らない……心の壊れた少年は必死に周りの人間を学習して()()ぎした。

 ───自分の心を再現する為に。


「俺、他人の真似をするのが得意なんだ」


 異常な精神性(せいしんせい)が異常な性質(せいしつ)を育む。

 物凄い早さで兎洞雄之助の動きを学習していく。

 殺せはしないけど試合なら勝てるかも───



 もう一押し!



「俺と戦うよりも先に美羽を抱きしめるのが、お兄ちゃんの役目でしょ?」

「テメェが!───」


 感情を()さぶられて決定的な(すき)(しょう)じた。

 下の名前を呼ばれて照れる兎洞美羽と、対照的に不機嫌な喜世川有栖を他所(よそ)に、勝負は決する。

 床へ叩き付けられたのは兎洞雄之助。


「一本! 勝ったあなたには豪華賞品、私!」


(お兄は敵だらけだから、私がこの人を落とせば……正に怖いもの無し!)


 お兄ちゃんが大好きな妹は、お兄ちゃんを守れる手段を欲していた。

 だが、近隣のヤンキーが秋里涼真のせいで既に絶滅寸前なのをまだ知らない。

 それに今の兎洞雄之助は以前の何倍も強くなっている。


「そ、そいつだけはマジで止めとけ。ゲホッ」

「そうだそうだー!」

「何なんですか、ちょっと巨乳だからって!」



 修羅場からコソコソ遠ざかる秋里涼真に城ヶ崎一夏が問う。



「逃げた連中はいいのか?」

「はい、後は警察の仕事ですね」

「では撃たれた連中は何故起きんのだ?」


 蹴って転がすと(ひたい)には銃弾の跡があったが、血は出ていない。

 スキル【みね撃ち】の効果だ。


「なんでだろ? あ、こっちの銃で撃たれると魂に激痛が……〈ガンナー〉の銃にこの手の妙な力(【ソウルペイン】)は無いですけどね」

「もしや秋里もダブル(ジョブ二つ持ち)……両方ユニークとかではあるまいな⁉」



『ワシ等が警戒する理由も分かってくれたじゃろ?』



 ギルドマスターの言葉が(よみがえ)る。

 一つでさえ警戒対象(要注意人物)なのに、それが二つだ。頭を抱える生徒会長。

 その足元では、使い魔が生足に抱き付き観音隠(かんのんがく)れ!


「ダヴィンチ、あんなに(なつ)いてたのに……」


 殺気を放った秋里涼真は警戒対象(怖い生き物)に逆戻りだ。

 労働報酬の木の実を出しても、キリッとした表情を半分覗かせるにとどまる。

 もう騙されんぞ!


「そこで木の実がもう一つ」



 ───え、二つも頂けるんですか?



 パーッと恍惚(こうこつ)とした表情に変わったダヴィンチ・モフモフ丸が木の実にヨタヨタ近づいて行く。

 気づけば修羅場から退避した兎洞雄之助が居た。


「城ヶ崎……」

「な、何だ! 何が言いたい、言ってみろ兎洞!」


 ご機嫌なダヴィンチ・モフモフ丸は、木の実を二つ抱きしめウニャウニャ叫ぶ。

 せっかく向こう側の女の戦いが落ち着いてきたのに、飼い主に似る似ない討論が始まった。更にパトカーのサイレンまで聞こえ出す廃工場。



「ダヴィンチ、食べないのか?」

「ニャ~~オ!」

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