038動き出す歯車2
「この人がハイポーションの購入希望者?」
四人は放課後に車の中で後藤長官と購入希望者に合った。
「そうだ。アメリカから自家用ジェットで数時間前に入国された───」
「まずは自己紹介、私はマイケル・J・アスター。不動産で財を成した大富豪だ」
ハイポーションの情報は、米国AEDGの長官マーク・ボウマンの秘匿された力が関係する。腐れ縁の学友であり、米国AEDGのスポンサーでもある購入希望者は、兼ねてから彼にある頼み事をしていた。興味を持てば見境なく情報収集……そんな趣味と才能を持つ変人の学友こそ本物のサイキッカーなのだから───
『難病で寝たきり状態になった妻を救う方法を……分かり次第に教えて欲しい』
「イザベラは元々あいつが一目惚れしたんだ。私が二人の仲を取り持っている途中で彼女のプライベートを……」
多感な年頃の女性を興味を持ったら止まらないマークは激怒させた。
超能力を悪用する友人を叱りつつ、怒る彼女を宥める。二人をどうにかしようと毎日頑張ったマイケル氏。
イザベラは、そんな友達思いな彼に段々と心が惹かれていった。
「ああクソッ、話してると思い出す。あの頃は酷かった……僕が先に好きになっただの、奴とは縁を切ってだの───」
だが、何十年も立てば笑い話だと笑う。
ハイポーションの存在を知れた理由は、難病の妻を救える方法だから。
購入を希望するのも、妻を救う為だ。
すすり泣く音が車内に響く。この手の話に女の子は弱かった。
「それにしてもサイキッカーとはビックリですな。日本だって陰陽師の予知部隊は居りますが、そこまでの精度はとても……」
ある程度は喋ってこちらも秘匿情報を喋りませんよ、という腹の見せ合い。
今回の国を超えたAEDG間のやり取りは、お互い情報を残さない異例なケース。
「傍で見てきたから分かるが……力があるからではなく、あいつだから凄いのだ。私が同じ力を得ても無理だろうな」
マイケル・J・アスターは改めて秋里涼真を見る。
特にこれといった印象もない存在だ。個人的に調べもしたが何も出ない。
『交換条件だ、交換条件。直に会ってどんなだったか教えてくれるだけでいいよ』
「君が入手したと聞いている。どうか私に売って欲しい」
「ズビッ、売ったげよぉ! 秋里君!」
「売っていいですか?」
号泣する喜世川有栖に頷きつつ、長官である後藤丈晴に相談する秋里涼真。
「うーん。成分調査もまだだし、正直に言えば日本の為に使って欲しいんだが……手に入れたのは君達だ」
だから君達が決めなさい。
許可を貰った秋里涼真が初手から限度額は? と吹っ掛ける。それに誠心誠意で答えた購入金額は全員を驚愕させた。
次に、払っても負担が無い最高額は? と聞けば、約二十億円だと言う。
相手を観察しながら秋里涼真も言う。
「じゃあ、一億六千万円でいいです。後、税金は払いたくありません」
勝手に決めた秋里涼真に三人は驚いて声が出ない。
一方で、税を納めるのは国民の義務だと大声を出す後藤丈晴。
「人助けで得るお金から税は取られたくないです」
「……私が提示金額と税金分を纏めて払ってもいいが?」
「それも何か嫌かな。みんなは、一人四千万円じゃ足りない?」
顔を見合わせた三人はその条件で同意する。
高校生に四千万円は大金だ。購入理由も知った今、不満は無い。
「私の力の全てを使って叶えよう。でも、何故そんなに安く売ってくれるんだ?」
「あなたが今まで妻を助けようと頑張り続けたからです。税金も別の機会なら俺は払いますんで」
「───義務なんだよ。ん? 別の機会?」
秋里涼真は、難病の妻を救った縁で強固な繋がりの金儲けがしたかった。
日本で異世界の物を売る場合、他国の圧力や横やりなどの問題が懸念される上に金額も小さくなる。だからこそ力を持った海外の大物との繋がり!
質問中にスキル【鑑定[ダンジョンコア]】が集めた情報のお墨付き。
「海外オークションで、マイケル・J・アスター氏が代理出品して取り分は折半。邪魔者は大富豪パワーで潰す。莫大な納税は日本へ。みんなで幸せになろうよ!」
「お前ねぇ……」
「HAHAHAHAHA!」
後藤丈晴は呆れ、マイケル・J・アスターは大笑い。
心の底から笑ったのは学生時代が最後だろう。心の底から恐怖したのも───
『あなたが今まで妻を助けようと頑張り続けたからです』
清濁併せ呑む。悪魔とだって握手するつもりで来た男は、決して顔に出さない。
出会ったばかりの初対面で、私の一体何が分かるというのか? だが、賭けに勝ってチャンスを掴んだマイケル・J・アスター。
神と腐れ縁の友人に心の中で感謝した。
◆
数十分後、車は空港近くの病院に到着。
AEDG技術の結晶である自家用ジェットで日本に運ばれたイザベラ・アスターは、AEDG傘下の病院に入院していた。
本来なら絶対安静な状態である。
「こっちの裏口から入れる」
ダヴィンチ・モフモフ丸は、バッグに入って車内で木の実と一緒にお留守番。
エレベーターに乗って特別入院室用のカードを通すと、音が鳴って特別な階まで移動。個室のドアの前でも再びカードを通す……とても厳重だ。
「この方が?」
年配の美しい女性がベッドで眠っている。
何人も入室する気配にイザベラ・アスターが目を覚ました。
特効薬を手に入れたんだ!
妻に説明する大富豪がハイポーションをゆっくり飲ませると、女性の顔色が嚥下する度に良くなっていく……本人も自覚があるのか目を見開きながら飲み干した。
空き瓶を握る女性の瞳から大粒の涙が流れる───
夫婦は見つめ合うと、静かに抱き合った。
「……積もる話もあるでしょう。我々はこれで失礼します」
個室を出てエレベーターの中、難病を治せて盛り上がっている四人に後藤丈晴が質問する。
「ハイポーションで商売でも始めるのか?」
「大富豪とコネも出来たし、それは遠慮します」
「人助けしないん? 難病だって治せるっしょ?」
「助けられる限度もある。切り捨てる決断は大人でも困難なのだぞ、喜世川」
「城ヶ崎の言う通りだぜ? それにアレは秋里が運良く手に入れたもんだ」
人を助けるのは想像よりも大変で難しい、喜世川有栖は理解してガッカリする。
帰りの車では、後藤丈晴が皇室用に何とか出来ないか秋里涼真に頼むと、いずれ寄付しますと言質を得て上機嫌に。
驚いた三人も加わって賑やかな帰り道となった。
◆
『君達、寄り道せずに真っ直ぐ帰るんだぞ~、はっはっは』
「後藤長官、ずっとニコニコしてた」
「秋里が寄付すると言ったのが効いたのだろう。どうした兎洞?」
「───美羽が半昏田に攫われた」
兎洞美羽。血の繋がった兎洞雄之助の妹で中学三年生。
その妹のスマホから『無事に返して欲しければ廃工場に来い』と送られて来た。
「あの野郎……」
目に見えてブチ切れている。
四人の周辺警護をハイポーション絡みで急遽移動させたのが悪かった。
今日でなければ、犯人は現行犯逮捕で事件も起きていない。
「彼女なん?」
「妹だ」
「前に生徒会長が言った可愛くて品行方正の妹か」
「秋里……お前、顔色悪ィぞ?」
妹に近寄る男は絶対に許さない兎洞雄之助でも心配する顔色だ。
「攫われるとか、その手の話は苦手でさ……」
「ちょっ、回復魔法の出番?」
「気分の問題だから平気。必ず、無事に連れ帰ろう」
「行けるのだな?……廃工場では頼むぞ、モフモフ丸!」
「ニャッ!」
ダヴィンチ・モフモフ丸の潜入調査により見張りのヤンキーを回避していく。
最短ルートで奥に行くと半昏田阿久夫、数人の見た目だけは強そうなヤンキー、そしてダクトテープで口を塞がれた兎洞美羽が居た。
手足を縛られてパレットの上に寝かされている。
「半昏田ァ!」
怒りを理性で押さえ付けながら兎洞雄之助が叫ぶ。
「兎洞……と、女が二人だぁ?」
その後ろ、秋里涼真と目が合った。
「テメェ骨折治すのに最新の設備で今までかかったぞゴルァ! それに俺の初恋も邪魔しやがって!」
「何の話?」
「公園と校門の時だボケ! 兎洞の仲間なら丁度いい、お前が悪いんだぞ───」
半昏田阿久夫がニヤッと笑いながら取り出した刃物を兎洞美羽に突き付ける。
兎洞雄之助の怒りは頂点に達し、殺意を持って殴りに行く間際───頭に冷水をブッ掛けられた錯覚で冷静さを取り戻し、後ろを振り返って構えた。
条件反射である。
スキルの力ではなく、この世界にある既存の概念。
人生で初めて体験する殺気───
女子二人も犯人達も、兎洞雄之助の行動が理解出来ない。
「───よくも俺の目の前でそんな事をしてくれたな。おかげで記憶が戻ったよ、ありがとう」
「……秋里君?」
右腕のダンジョンコアが歓喜する。
いつも通りの表情と雰囲気で秋里涼真は喋った。
「丁度いい、早速お前らで試してやる」




